また会いましょう。 後編
完結です。
「私の記憶が戻ったのはいつだっかな?」
あれは確か5歳の頃だ、記憶の中の私は山添由香と言う名前で93歳まで生きたんだ。
結局私が残された3人の中で1番の長生きになった。
そこに後悔は全く無い、曾孫どころか玄孫まで見れたんだから。
「律子さんが1番先に逝ったんだよね」
私はつい口に出してしまう。
律子さんは浩二さんが亡くなって3年後に逝ってしまった。
浩二さんと同じ病気、律子さん最後に言ったっけ...
『今までありがとう、次は私の番かな?』
って、それって最後に言う言葉かな?
「祐ちゃんは88歳まで頑張ったんだよね」
祐ちゃんは律子さんの逝った後も最期まで夫の様に振る舞い律子さんのお墓を守った。
最後の祐ちゃんの言葉は...
『次は絶対に女の子になって浩二君にアタックするんだ。由香ちゃん、りっちゃん、勝負だよ...』
いくら私の耳元で他の誰も聞こえないからって90歳近いおじいちゃんの最後に言う言葉じゃないよ。
「そんな私も最期に言ったのは...」
『律子、祐ちゃん、私もすぐに追い付くから待ってなさい...』
...いくら意識が混濁していたとはいえ恥ずかしい。子供から孫、曾孫に玄孫まで囲まれて最期に言う言葉じゃなかったよね。
「瑠美、起きてるの?早くしなさい」
「はーい」
私は急いで身支度を整える。
私の今の名前は小島瑠美。
小島家の長女に生まれて15年...私は記憶が戻って10年になる。
言葉使いや考え方は10年も過ごすと馴染んで来る物だ、(最初は凄く苦労した)
前回とまるで違う時代、少し離れた場所。
正直諦める気持ちが出て来そうになる状況だけど私は決して諦めない。
『姿、形は由香だった頃とは全く違う私だけど、必ず浩二君と再会するんだ!』
私は心で叫んだ。
「瑠美!早くしなさい!ご飯が冷めるでしょ!」
「はーいママ!」
「全く、今日は入学式でしょ?しっかりしなさい!」
お母さんの怒り声に私は肩を軽く竦めて朝御飯を食べにダイニングテーブルに着く。お父さんは私に目で合図を送る。
『ドンマイ』...優しいお父さんだ。
「行ってきます」
私は家を出る。記憶が戻ってから身近な思い出の場所に行ったり、中学校に上がると行動範囲も広がり私の前回の実家や浩二君の実家、和歌ちゃんの実家まで訪ねたりしたが存在しなかった。
時代が違うからじゃない、これは前回と違う世界だと私は気がついた。
(今回はもう無理かも)って思った時も正直あった、けどこの学校が現実にあるって知った時私の気持ちは救われたの。
[仁政第一高等学校]
私の折れそうな気持ちを繋ぎ止めてくれた思い出の学校。
私は猛勉強をして見事難関を突破したのだ。
電車を乗り継ぎ1時間30分をかけ、ようやく
私は校門前にたどり着く。
「懐かしい....」
(卒業式の後浩二君と並んで此処で校舎に向かって頭を下げたっけ....)
私は校内に入る。私が行っていた時代と随分違うけど面影のある校舎が私を迎えてくれた。
私のクラスは...勿論特進コースだ。
今回は特進じゃなくて難関特進コースだけどね。中身は一緒だ。
入学式の前に教室に入る。
ドアが開くと一斉に私を見る。教室の中に知った顔を探すが...勿論いない。
そりゃそうだよ、私の中学校から来ているのは私だけだもん。
そして私はあの人を探す....(浩二君)
「いないか」
私は呟きながら、自分の名前が貼られた机に鞄を置いて溜め息を吐いた。
「...由香?」
「誰?」
「やっぱり由香なの?」
私は隣に座っていた女子生徒に小さな声で名前を呼ばれ唖然とする。
「律子...」
「そうだよ律子だよ」
それは自然に出た名前だった。
姿、形はまるで記憶にある律子さんとは違うが私には分かった。
紛れもない律子さんだ。
「あ、今私、佐藤夏って名前なの」
律子さんは小声で訂正した。
「私も今小島瑠美よ」
「瑠美ちゃんか、宜しく」
「夏さんね宜しく」
私達は初めての自己紹介の様に名乗る。
そして夏から今迄の情報を聞いた。
[記憶は生まれた時からあった]
[まだ浩二君には出会えていない]
[前回の記憶を頼りに初めて仁政中学校に入学した]
[早くこちらに来たからと言っても、願いは浩二君と同じ時代に生きたい、だから余り関係が無い]
等が分った。
「それにしても瑠美ズルい」
「何が?」
「だって前回も美少女だったのに今回まで」
そう言って夏は拗ねた。
「何言ってるの夏だって美少女じゃない、
前回も綺麗だったよ」
「由香には勝てなかったもん」
「そんな事無いって。後、夏ちゃん私は瑠美だよ」
その後も入学式の時間まで私達は小声で話す事にした。
「祐ちゃんは?」
「まだ出会えていないの、ひょっとしたら別の時代に行ったのかな?」
「分からない、でも女の子になってるかもね」
「女の子?」
首を捻る夏に私は祐ちゃんの最後の言葉を伝えた。
「なにそれ?」
夏ちゃんは大きな目で私を見て笑った。
「それなら私達が見ても分からないかな?」
「分かるよ」
夏ちゃんの言葉に私は力強く言い返す。
「だって夏ちゃんがすぐに私が由香って分かったんだもん」
「そうよね」
「きっと一目で分かるよね」
「勿論あの人も」
「ええ」
その時教室の扉が開いた
「ふー間に合った、セーフだ」
息の上がった男の子の声がした。
「あっ...」
扉を見た夏ちゃんが固まる。
私も扉の方を見た。
「....え?」
私達は揃って席を立って駆け出す。私達の目からは涙が溢れていた。
男の子は驚いた瞳で私達を見て...
....そして笑った....
((...間違いない...あの人は...))
「「あなた!!」」
ありがとうございました。