エピローグ2 後編
「話が暗くなったね何か明るい話をしようよ」
祐一が明るい笑顔を浮かべて話を変えようとする。
「そうね和歌ちゃんや瑠璃ちゃんの話は?」
「え?聞きたい聞きたい!」
「そうね久し振りに和歌子さんや瑠璃子さんの事も聞きたいわ」
由香の話に律子や祐一も食いついた。
「まずは和歌ちゃんね、今はね....」
佑樹達は今東京で暮らしている。
スポーツドクターとして活躍している佑樹は有名サッカーチームからの専属を断り都内の病院に勤務している。
『少しでも沢山の選手を診て助けたい』と佑樹は言っていた。
そんな和歌子さんも佑樹と一緒に東京に行った。
都内の私立中学校で教鞭をとっている。
特に彼女が顧問の剣道部は何度も日本一に輝いている、厳しい指導で部員達から[鬼和歌子]との異名を戴いている。
3人の子供達も大きくなってこのまま子供達が成人するまで東京で暮らすそうだ。
「へえ和歌ちゃん凄いね」
「川口さんもすっかり有名人ね」
由香の話に律子と祐一も驚いている。
俺も話を聞きながら嬉しくなるが、やはりなかなか佑樹達に会えないのは淋しい。
「次は瑠璃ちゃんね....」
孝と瑠璃子さんも東京で暮らしている。
孝は今弁護士事務所を開業して瑠璃子さんも一緒の事務所で活動している。
一般的な訴訟から特許や著作権侵害まで手広く出来る事務所として沢山のスタッフを抱えて此方も成功したと言っていいだろう。
瑠璃子さんのお母さんも東京に行って孫の世話をしながらのんびり暮らしている。
「そう言えば瑠璃ちゃんのお父さんから手紙が来たって」
「お父さんってあの人?」
「うん安道さんね」
「あんまり思い出したくないな」
由香の言葉に祐一は顔をしかめる。
[安道正一]瑠璃子さんの父親だ。
俺にとっては因縁の相手でかって川井さん母娘を救うため一肌脱いで俺は大変な目にあった。
「うん瑠璃ちゃんもそう言ってたけど手紙には今は紛争地帯で医療活動しているって話と謝罪が書いてあったって。
話をしている時の瑠璃ちゃん少し笑顔だったよ。
会うことはまだ叶わないけど何時か再会する日があるのかな?」
そう言って由香は話を締めた。
「私は瑠璃子さんの父親の話は今回は聞いただけですけど前回は大変だったもんね」
律子はそう言った。
「確かにそうだったな。でも律子のあの時の言葉のお陰でまだ兄さんは助かったよ。
あのままだったら他人の子供をずっと育て続けていただろうし」
あの言葉とは前世で兄貴にDNA鑑定を勧めた時だ。
前回の人生では俺と律子、嫌、山添家にとっては正に因縁の男だった。
今回の時間軸では兄貴の前回の嫁には出会わなかったが安道と出会ってないだろうから少しはマシな人生を歩んでいる事を願う。
「あなた」
「なんだい律子?」
「あの人が私に言ったのよ」
「あの人?」
「前世のお兄さんの奥さん」
「何を言ったんだ?」
余り思い出したくない奴だが律子の話には興味がある。
「『兄弟揃って他人の子供を育てて、ご苦労様』って」
「あのバカそんな事言ったのか?」
「酷い!」
「最悪だね!」
前回俺と律子の間に実子が恵まれず養子を迎えていた、それを小馬鹿にしたあの女の言葉に由香や祐一も怒りの声をあげた。
「そうよ、それでピンと来たの。
兄弟揃ってって事はお兄さんの子供はひょっとしたらお兄さん以外の人の子供じゃないかって」
「そうだったのか」
初めて知る律子の言葉に俺は納得する。
「でもお兄さん今回は幸せで良かった」
「本当」
「あなたの頑張りがあったからね」
由香や祐一、律子が言った。
兄貴の家族は今アメリカにいる。
アメリカの研究が認められ今自分の研究チームを率いて今やノーベル賞に近い日本人研究者として世界に知られている。
順子さんは兄貴を支える為子供を連れて4年前にアメリカに渡った。
驚いた事に兄貴家族の住むアメリカの自宅には西村優子さんも同居している。
そう優子姉さんだ。
アメリカで結婚した優子さんはその後離婚されて、シングルマザーでお子さんを育てながら移民サポートの仕事をしていた。
順子さんとずっと連絡を取り続けていて、兄貴一家がアメリカに暮らす時に色々サポートする内に一緒に暮らすようになったそうだ。
『ありがとう順子、私は幸せよ』
そう優子さんは順子さんに言ったそうだ。
「薬師さん夫婦の時も浩二頑張ったもんね」
「そうよね」
「私も聞いたわ」
「薬師さん夫婦か」
祐一の言葉に薬師さん夫婦の事を思い出す。
薬師さん夫婦は今も夫婦仲良く暮らしている。
しかし35歳を過ぎても子供に恵まれないので薬師さんから俺は相談を受けて志穂さん美穂さんに話をした。
すぐに精密検査を受けた2人だったが、少し双方に色々原因があったようだ。
幸いにも治療の成果があり数年後に子供に恵まれた。
その間杏子さんは一切のピアニスト活動を控えた為『キャリアに傷がつく』と周りから言われたが杏子さんは全く躊躇せずに治療に専念したそうだ。
無事に子供が産まれた時俺と由香は薬師さんと杏子さんに泣きに泣かれて大変だった。
由香?勿論号泣していたよ。
今律子の保育園に通っていて年長さんになって可愛い笑顔を振り撒いている。
「ずっと気になっている事があるんだけど」
不意に由香が言った。
「何?」
「あなたと律子さんの前生の記憶って49歳までしか無いのよね?」
「ええ」
「そうだよ」
「つまり49歳で何かあったのかな?」
「え?」
由香の言葉に祐一は驚く。
俺と律子は顔を見合わせるがお互いに首を振った。つまりお互いにそれ以降の記憶が無いのだ。
「確かにそうだけど、じいちゃん達も前回より遥かに長生きしたから問題はないと思うよ」
「そうよ由香さん大丈夫よ」
「でも心配だから気を付けてね」
俺と律子は祐一の言葉に頷いた。
確かに気を付けるに越した事は無い。
由香はまだ少し不安そうだが心配し過ぎは逆に体に悪いから余り気にしない事にした。
だが俺と律子は由香には言わなかったが何となく感じた。
(どちらかが49歳で亡くなった時に前回の記憶の蓋が閉じたのだろう)と。
それはどちらかとは分からない。
時期もきっと今回と違うだろう、今は気にしない事にした。
次回ラストです。