兄貴の結婚(1回目)
俺の兄貴、山添有一の結婚生活、それは兄貴だけでなく家族にまで不幸な連鎖を生んでしまった。
優秀な頭脳で国立大を出て医師となった兄貴は30歳を過ぎたある日、研修会に参加する。
そこで[奴]と出会ってしまった。
そいつも医師だった。
聞いた事も無い私立医大出身。
何故か研修中にディスカッション等で兄貴と仲良くなったそうだ。
今なら分かる。
兄貴はハニートラップに掛かってしまったという事に。
交際期間1ヶ月、いきなり兄貴から、
『俺結婚するよ』
そう聞かされた。
当時俺は25歳で結婚して家を出ていたから兄貴が嵌められたと気づかず、
「良かったじゃないか、おめでとう」
と返した。
後でこの話を聞いた俺の嫁が、
「おかしい!相手の地元に行かせないまま強引な結婚の迫り方。何かあるよこの人!」
と言ってたが兄貴の浮かれ様に俺は、
『気のせいだよ』
と軽く流してしまった。
俺の両親も医師である兄貴と同じ医師である嫁が出来たと喜び、学歴格差より大金を使い医師にした相手方の財力に目が向いたようだった。
かくして結婚した兄貴夫婦は二人の子供が授かるが、派手な兄貴の嫁の男遊びによって呆気なく終わりを迎えた。
下の子には先天性の疾患があり
開業医で激務の兄貴に代わり、俺の両親が下の子看護と私立の学校に通わせていた上の子の送迎でボロボロになっていた
ある年の正月(兄貴の嫁は一人で里帰り中だった。)久しぶりに合わした俺の嫁の一言、
『義兄さん、失礼を承知で言います。
お子さんとDNA検査された方が良いと思います』
兄貴は俺の嫁の言葉に無言で頷き検査を受けた。
結果は上の子は兄貴との子で下の子の親子関係は否定された。
兄貴の嫁は悪びれる事も無く、数人との不貞を認めて実家に帰った。
最悪な事に托卵された下の子の父親は、兄貴の結婚式にも来ていた兄貴の嫁が結婚前に勤めていた勤務先の医長で、結婚前から愛人関係にあった男だった。
上の子の親権だけは取ろうとした兄貴だったが、激務の上一連の騒動で頼みの両親は脱け殻状態。
敢えなく親権を取られ、一人ぼっちとなったのだった。
慰謝料は其なりに取れたのだが、
(裕福な兄貴の元嫁の実家が建て替えた)
兄貴の受けた心の傷は余りに大きく、何より人生やり直すには40歳を大きく回った中年男にはその気力すら湧かないようだった。
開業医である兄貴には尊敬と金は集まった。
しかし愛する家族は残らなかった。