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みんなの夢を実らせたくて! 前編

長くなったので分けます。

それから8年の月日が流れた。

今日兄貴と順子さんの結婚式が行われる。

式会場はエンペリアホテル。

13年前に兄貴達が中学校の合格祝賀会をした、あのホテルだ。


「浩二さん、準備出来た?」


「ああ、どうだ由香」


「うん、良く似合ってるね」


礼服を着た俺を見て由香は微笑んだ。

由香も黒いフォーマルワンピースに身を包んでおり、とても美しい。


「さっき着付け室前で杏子さんと会ったわ」


「杏子さんが来てるなら薬師さんも来てるな」


「当たり前よ夫婦なんだから」


薬師さんは宣言していた通り杏子さんに5年前にプロポーズをした。

返事は勿論OK、しかし社会人1年生と駆け出しピアニストの結婚は式を挙げるまでが大変で2人が式を挙げたのはそれから3年後だった。


『待つのは得意だから問題なかったぜ』


薬師さんはそう言って笑った。

今杏子さんはピアニストとして日本のみならず海外にも活動の場を広げつつある。


『一層の事、海外に活動拠点を移しては?』


そんな話がスタッフから出たが。


『もうあの人を待たせるのは嫌よ、私も離れ離れの生活はしたく無いの』


杏子さんがそう言って話は無くなったそうだ。


「そろそろ控え室に行きますか」


「そうね」


俺と由香は結婚式の一般参列者控え室に向かう。

俺と由香は親族控え室にいたからまだ結婚式の参列者に会っていない。


「みんな元気かな?」


「そうね楽しみ」


俺と由香は控え室の扉を開けた、


控え室には沢山の方が座り歓談されているが所謂偉い様ばかりで知り合いが見当たらない。

しかも喫煙者が多く服に煙草の臭いが付きそうだ、いやもう付いたな。


「僕が挨拶をしておくから君は控え室を出るんだ」


俺は小声で由香に言った。

由香も会場内の煙草の煙を見て唖然としながら頷く。

医療関係者が多いはずなのにまだまだ喫煙者が多い時代だと思った。

しばらく兄貴や俺の関係者の方達に挨拶をしてようやく控え室を出た。


「お疲れ浩二」


「佑樹来てくれたんだ、ありがとう!」


控え室の外には佑樹が紙コップのコーヒーを持って待っていてくれた。


「当たり前だろお前の兄さんは俺にとっても家族同然だ」


そう言って佑樹は紙コップに入ったコーヒーを差し出した。


「ありがとう、花谷さんは?」


「あいつはホテルの庭にいるよ、ここの控え室は居られねえよ。偉い様だらけじゃねえか」


佑樹は砕けた口調になる、こちらの方が佑樹らしい。


「そうか?」


「そうだよ大学教授に製薬会社部長や市会議員に県会議員まで来てるじゃねえか。

議員って普通は祝電か秘書が代理で出席だろ?」


佑樹の言葉に俺は苦笑いする。

実は国会議員も中に居たからだ。


「仕方ないよ、兄貴は橋本教授の研究室で今一番注目の若手研究者だからね」


「いや浩二、有一さんは研究室で一番の注目じゃねえぞ。日本、いや世界で注目の研究者だ」


俺の言葉に佑樹は嬉しそうに言った。


「世界は大袈裟だな」


「浩二、俺も今は医学を学ぶ者の端くれだ。

有一さんの凄さは分かっているぜ」


佑樹は真顔で言う。

佑樹は大学を出て念願だったサッカー選手になった。

社会人選手から発足したばかりのプロサッカーの選手。

正に幼少期からの夢を叶えた訳だが、残念ながら佑樹の夢は2年で潰えた。

原因は膝の故障だった。

引退した佑樹はチームのアスレチックトレーナーとして残り、裏方として支えた。

佑樹の性格は若手からベテランまで全ての選手から慕われていてチームからの要請だった。

現在は医師免許を取るためチームから学費援助を受けながら大学に通っている。

卒業後は正式にチームドクターとなる道が拓ける。

選手が怪我しないように裏から支えて世界一のスポーツドクターになるのが次の夢だそうだ。


「そうだったな、後何年で卒業だ?」


「後2年だ。大変だぜチームの裏方と大学生、2足の草鞋を履くのもよ」


「それに父親の仕事もだろ?」


俺の言葉に佑樹はニヤリと笑った。


「そうだな父親としての役目もあったな。

でも俺よりあいつ(花谷さん)の方が凄いよ、俺の世話に子供の世話、学校の担任の仕事にクラブの顧問でたまに実家の道場で指導って目茶苦茶すっげえな!」


久し振りに佑樹の『すっげえな』を聞いて俺は嬉しくなる。


「今子供幾つだっけ?」


「上が4歳の女で真ん中が2歳の男、で下が今度1歳の女の子だ。可愛いぞ!」


嬉しそうに子供の事を話す佑樹。

初めて会ってからもう20年以上の付き合いだ。

前回と全く違う人生を歩んでいる佑樹だが、

きっと今回の人生は悪くないはずと俺は思った。 


「佑樹」


「何だ?」


「今幸せか?」


「何だよ急に?」


「いや聞いてみたくなってな」


佑樹は俺の目を見ると真剣な顔に変わる。


「浩二、俺は本当にお前に会えた運命に感謝してる。

お前がいたお陰で俺は最高の人生を今の所歩めているんだ。

素晴らしい仲間達と一緒に青春を謳歌して、なりたかった夢を叶えて、そして和歌子と言う愛する女との最高の家族が出来た。

ありがとう浩二、全てお前と出会えたからだ」


そう言うと佑樹は俺を抱き締めて来た。

190cmを少し越える佑樹にハグされるとかなり苦しい。


「お父さん何してるの?」


「本当何してるの?」


そんな俺と佑樹を見て呆れた顔をしている女性は花谷さん、現在は川口和歌子さんだ。

横にいるのが上の4歳の長女だろう。

佑樹と少し似ているな、なかなか濃い美人な顔になりそうだ。


「浩二に会えた運命に感謝していたんだ」


佑樹の言葉に和歌子さんは頭を捻る。


「お父さん、運命って?」


「佑子、運命ってのは人との出会いや、巡り合わせだ。

それが人生を左右するんだ、運命によって人は幸せになったり不幸になったりするんだぞ」


「良く分かんない」


佑樹の長女、佑子ちゃんに一生懸命教える佑樹だがまだ4歳には難しかったようだ。


「そうか、佑子にはまだ早かったか」


「でもお父さんが浩二おじちゃんと出会えたから幸せになったのは分かるよ」


「そうね、私も由香や浩二さんと出会えたからあなた(佑樹)という運命の人に巡り合ったのね」


和歌子さんはそう言って娘を抱っこすると母娘で一緒に笑った。


「ところでどうしたんだ?」


「どうしたんだじゃないよ、あなたが何時までも戻って来ないから迎えに来たのよ」


「そうかすまん。で、下のチビ達は?」


「こことは別の控え室にいるよ、今日は子連れの出席者が多いからね。

あそこはまるで託児所だよ」


佑樹の質問に答えた後、和歌子さんは思い出した様に笑った。

由香がいない所を見ると、きっとその控え室ににいるんだろう。


「少し行ってくるよ」


「おう俺は少し3人でホテルの庭を散策するよ、また後でな」


佑樹と分かれて先程と違う控え室に着いた。

扉の向こうから既に子供達の声が聞こえて賑やかそうだ。

俺は控え室の扉を開いた。


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