祐一の責任。
由香は1時間程して病室を出てきた。
その顔は決意を秘めており聞かない事にした。
律子とその後簡単な会話をして俺と由香は病院を出ようとする。
「浩二君」
病院の出口で隆一さんに声をかけられた。
「すまないがこの後家に寄ってくれ」
「はい」
俺は橋本家の本家に行くことになった。
本家の応接室に案内された俺に隆一さんは言った
「明日退院させる事にした」
「随分急ですね」
「そうだが身元不明の患者を長く病院に入院させていると向こうの家に気づかれてしまう」
そうだ、吉田家も律子の行方を探していたんだ。
肝心な事を忘れていた。
「それでどこに律子さんを匿うのですか?」
由香は隆一さんに聞く。
「ここしかないだろうな」
「そうですね」
隆一さんはあっさりと驚く事を言い、由香は頷いた。
「来週にでも吉田家と交渉する予定だ。
今吉田家と交渉する材料を探している。
律子さんにも情報を少しでも貰うつもりでいる」
「分かりました宜しくお願いします」
任せると言った以上頼る事が最善だ。
「1つ貸しだよ」
最後に隆一さんは俺に言った。
「貸しですか?」
「そう貸しだよ」
隆一さんはそれ以上は言わなかった。
俺もそれ以上聞く事は止めた。
由香もそう考えた様で俺を見ている。
翌日律子は退院して隆一さんの家に匿まわれる事となった。
外部との連絡は取れないが仕方がない。
律子もそれは分かっている様だった。
由香は何かと律子の身の回りの用意をしてくれた様だ。
自宅に帰った俺は家族に自分の秘密を話す。
じいちゃんが予め家族に説明をしていてくれた様で余り突っ込んだ質問は無かった。
母さんは、
「私浩二を2回も育てていたのね」
と何故か嬉しそうに笑った。
父さんは、
「大変だったな」
それだけ言った。
ばあちゃんは、
「浩ちゃんは浩ちゃんなんだろ?
それなら良いよ」
そう言って笑った。
兄貴は、
「ありがとう。これからも宜しくね」
そう言って俺を抱き締めてくれた。
兄貴の目が涙で滲んでいたのは見てない事にした。
俺も同じ目をしていたからだ。
それだけで俺の告白は終わった。
月曜日になり日常が戻って来た。
しかし律子の事があるので本当の日常では無い。
学校に着くと祐一が来ていた。
俺と由香は祐一を呼び出してあれからどうなったかをお互い報告した。
「そっか、りっちゃん無事に浩二君と再会出来たんだ。
それだけでも良かった...」
祐一はそう言うと泣き出した。
「どうしたの?」
由香は優しく祐一に聞く。
「久、帰ってきてから様子が変なんだ」
「様子が変って?」
俺の言葉に祐一は少し考えてから言った。
「久に昨日やっと会えたんだけど変な事を言い出したんだ。
『律子は逃げた。俺を置いて逃げやがった。
お腹の子供は俺の子じゃなかったに違いない』
そんな馬鹿な事を言ったんだ」
「何だと!」
「酷い!」
久が言った言葉に俺と由香の頭に血が昇る。
「2人共落ち着いて、久も実家からりっちゃんの有る事無い事を吹き込まれて混乱しているだけだから」
祐一は必死で久を庇うが俺達が納得出来る物ではない。
「祐一有る事無い事じゃないぞ、無い事無い事だ!」
「律子さん命懸けで赤ちゃんの命を守ろうしたのに!」
俺達の怒りが引く事は無かった。
その日の昼休み、俺達7人は揃っての昼食を取る。
孝と川井さんには土曜日に予め連絡はしたが、佑樹と花谷さんは初めて祐一が休んでいた理由を聞いた。
もちろん律子や俺の秘密は言わずに祐一の幼馴染みが女の子を妊娠させてしまい逃げていた事だけを話した。
「最悪だなそいつ」
佑樹が顔を歪ませる。
「本当、女の敵ね」
花谷さんも佑樹と同じく呟いた。
孝と川井さんは無言で頷いている。
「どうして2人は愛し合っていたんだよ?
悪い事をしてないよね?」
祐一は佑樹達の反応に戸惑っている。
「祐一分からねえか?
本当に大切なら何で避妊しねえんだ?
そして何でばれたら直ぐに中絶なんだ?」
「え?」
佑樹の言葉に祐一は言葉を失う。
「そうよ、それで女の子に負担を押し付けて妊娠を続けているのがバレたら自分の家族に黙って女の子と逃げるだけって、女の子の家族も馬鹿にしてるよね」
花谷さんも佑樹に続いて罵倒した。
「僕は思うんだけど家族に何を言われたか知らないけど妊娠が分かった時点で女の子に悪い事をしたとか思わなかったのかな?
僕なら申し訳なくて中絶させた女の子に会えなくなるよ」
孝も自分の考えを述べ、
「それに自分の家族が厳しくて反対されるのは最初から分かっている事よね。
どうして安易に性行為に走るのかしら?
例えバレなくても女の子の結末は暗いのに」
川井さんの性行為と言う言葉に孝が顔を赤らめる。
「そうなのか...僕は応援してはいけない恋を応援してしまったみたいだ」
祐一は完全に落ち込んでしまった。
「祐一、僕も悪かった。5年前に久の相談に乗ってしまったから」
「そんな、浩二君は悪くないよ!
僕が浩二君にお願いしなければりっちゃんはこんな事に...」
祐一は泣き出した。
俺達はただ祐一の泣くのを見るしか無かった。