絶対に守りますから。
浩二が出ていった病室で由香は律子のベットの傍に椅子を置いて座った。
「ふふ『僕』ですって」
律子は思い出したように笑う。
「以前は違ったんですか?」
「そうよ、ずっと『俺』だったもの」
由香の問いに律子は微笑みながら答えた。
その笑顔は浩二にどことなく似ており由香は複雑な気持ちになる。
「ごめんなさい、急に2人っ切りなんて緊張するわよね」
「そんな、私も律子さんとお話しをしたかったし」
「あらありがとう、こんなおばさんにお話ししたいだなんて」
律子は自分が16歳に戻っている事を忘れている様だ。
「おばさんって...」
思わず絶句する由香の様子に律子は自分の今の年齢を思い出したようだ。
「そうだ私は今16歳だった。
急に戻ってしまったからよく忘れるのよね」
「そうなんですか?」
「そうよ、記憶が戻ってから私のお母さんに『あんたいくつよ』ってよく言われたの」
そう言って律子は楽しそうに笑った。
律子は(由香の緊張を取る為にこんな話をしている。)由香は気づいていたが律子のペースに乗せられてすっかり気持ちがほぐれて行った。
「さて何から話しましょうか?」
律子は由香を見ながら話す話題を考える。
「そうですねそれじゃ浩二君との馴れ初めを」
「あら良いの?」
由香の以外な言葉に律子は驚く。
「ええ、浩二君がどんな人生を歩んだか知りたいんです」
由香の目を見た律子は頷いて話始めた。
「私が浩二さんに初めて会ったのは22歳の時よ。よくある友人の紹介ね。
あの人は大学4年生で私は大学を出て社会人1年生だったわ。
浩二さんは人数合わせで来たからお話しもせずにお酒ばっかり飲んで何しに来たのかしら?って思ったのが最初の印象ね」
「え、律子さん浩二君と同い年じゃ?」
「あら聞いてないの?あの人一浪してたのよ」
「そうだったんですか?」
意外なエピソードに由香は目を丸くする。
その後浩二と律子が如何にして付き合って結婚に至ったかを律子は思い出しながら由香に教えた。
「懐かしいわ」
馴れ初めの話が終わり律子はポツリと呟く。
その顔は淋しそうだった。
由香は律子の気持ちを考えると(少し悪い事をしたのでは?)そう考えてしまう。
「それじゃ次は由香さんの浩二さんとの馴れ初めを教えて」
律子はそんな由香を見て浩二との話をねだった。
「はい。私が浩二君と出会ったのは...」
由香は浩二との出会いから今までの事を詳しく律子に教えた。
小学校の入学式、告白した日、修学旅行、中学入試や運動会の思い出まで全て律子に話すのだった。
「やっぱりあの人は変わらないわね」
律子は嬉しそうに由香の話を聞いている。
「そうですね」
由香も律子の話を聞いて浩二の性格は昔から変わって無かった事を知った。
「私本当に安心したわ。由香さん...由香ちゃんが浩二君の事を愛してくれているのが分かって。
これで私の心残りは1つ無くなったよ」
「律子さん...」
律子の言葉に少し無理をしている事を感じた由香はどう言っていいか分からない。
「由香ちゃんそんな顔しないで、私も絶対に幸せになるんだから。
確かに久君はまだ子供よ、でもこれから絶対に立派な人になるわ。私が支えるもの...」
そう言った後不意に律子は淋しそうな顔をする。
「どうしたんですか?」
「いえ久君今大変な事になってるだろうなって。
それにこの子の事を考えると」
律子は自分のお腹を撫でる。その目は涙が滲んでいた。
「産みたい...」
ポツリ律子は呟く。
「私産みたいよ!由香ちゃん知ってるでしょ?私浩二さんと結婚していた時に子供が欲しかった!
絶対に諦めたくなかった!
何度も何度も妊娠と流産を繰り返して
結局は諦めたんだよ!
でもその事で浩二さんを恨んだりしてない。
それが私達の運命だったから」
突然律子は髪を振り乱し大声で叫びだした。
「ねえ由香ちゃん、浩二さんを諦めて久君との未来も諦めて、子供まで諦めるって何なの?
私何のためにまた人生をやり直してるの?
こんな人生嫌よ!」
律子はベットのシーツを握り締め嗚咽しながら泣き続けた。
由香はそっと律子の背中を撫でながら言った。
「諦めなくていいです」
「...え?」
「諦めないで!絶対に産んで下さい!本当に愛してる子供を!」
「どうやって?」
「私達に任せて下さい。
私の家の力と、浩二君の家の力を合わせで必ず律子さんの子供を皆さんの未来を守ってみせます!」
由香の力強い眼差しに律子は信じてみようと強く思った。
「お願い由香ちゃん!助けて!私はどうなっても構わない、この子をこの子を助けて!」
「任せて下さい!律子さんもどうなっても構わない何て言わないで。みんな絶対に守りますから」
由香は律子の手を力強く握りながら決意を新たにするのだった。