誕生会に呼ばれた!前編
生まれて初めて誕生会に呼ばれた。
正確には、生まれて初めて[女の子の]誕生会に呼ばれた。
今回の時間軸で兄貴の友達の女子達の誕生会に呼ばれた事はあったけど、さすがに参加した事は無い。
まさに生まれて初めて女の子の誕生会に参加です。
話の始まりは10月に入ってすぐの頃。
『あの浩君、今度の10日の休みは暇?』
同じクラスの橋本由香ちゃんに聞かれた。
『えーと、別に何にも用事も無いし暇だよ。
公園へ遊びに行く?』
『いや、あのね...その...うん。
その日に私の家で誕生会するの、それで浩君に来て欲しいんだ、駄目かな?』
由香ちゃんは顔を真っ赤にして言った。
10月10日、言わずと知れた体育の日。
当時は祝日。
『私の誕生日が体育の日ってびっくりした?
少し変かな?』
『そんなの全然変じゃないよ。
誕生日なんて本人が選べないんだから。
僕の誕生日なんて3月3日だよ。
桃の節句雛祭り、こっちの方がびっくりでしょ?』
恥ずかしそうに話す由香ちゃんに、俺はコンプレックスだった自分の誕生日を教えていた。
『なんだ、浩二の誕生日は3月3日の雛祭りか。
でも何かふわふわしてる浩二のイメージにあってるな』
隣の席にいた佑樹が笑う。
その笑顔は嘲りが混じってない、純粋な笑顔だった。
『へー添ちゃんの誕生日は桃の節句なんだ、
何かピッタリだね。
じゃ私も誕生日を教えて上げる、5月5日端午の節句だよ』
花谷さんも自分の誕生日をさりげなく言った。
『花谷の誕生日は子供の日か、元気一杯なお前にピッタリな日だな』
いつもクラスの中心にいる2人の言葉。
今後クラス内で誕生日の話題で俺が笑われる事は無くなると実感した。
『佑樹、花谷さん。ありがとう』
心の中で感謝した。
そして迎えた10日の昼下がり、俺はいつもより良い服を着せられていた。
「忘れ物無い?
ハンカチ、ティッシュは持った?
プレゼントもちゃんとあるわね?」
いつもより母親のチェックが厳しい。
そうなるよな、だって橋本家に行くんだもん。
橋本家と言えばこの辺りで一番の名家。
古くからの庄屋で、近所の神社の鳥居や石碑には[橋本喜兵衛]の文字が刻まれている。
その名前を代々の当主が継ぐ。
現在の橋本喜兵衛さんは11代目、その孫が橋本由香ちゃんな訳だ。
「母さん、浩なら大丈夫、変な事にはならないよ。
浩、困ったとき焦らずニッコリ笑顔だよ」
兄貴の言ってる意味が良くわからなかったけど、
「りょーかい」
ニッコリ笑顔で答えた。
「ね、大丈夫と思うでしょ母さん」
「そ、そうね。有の言う通りね」
そんな家族のやり取りに見送られて着きました橋本本家。
「で、でかい....」
大きな壁の向こうに立派お屋敷があるのは聞いていたけど、開け放たれた長屋門の向こうに広がる敷地は500坪を軽く越えている。
その中に風格ある母屋、そして洋館に蔵が3つ。
(由香ちゃん、めちゃくちゃお嬢様だったんだ!)
「おまたせ、浩君今日はありがとう」
呆然とする俺の前に綺麗に着飾った橋本由香ちゃんが小走りで迎えに来てくれた。
「お招き頂き、ありがとうございます。
本日は宜しくお願いいたします」
母さんから教えられた口上を言ってみる。
「ふふ、変な浩君。
そんな話し方おかしいわ浩君らしくないよ、いつもの話し方で大丈夫だから」
「そう。大丈夫かな?」
練習したんだけど、ボロ出す前に辞められて良かった。
「さ、来て案内するから。
そうだ今日は私の事は由香って呼んでね」
「えっ橋本さんじゃ駄目かな?」
「今日この家にいるのはほとんど橋本さんだよ」
そうだね、橋本家に来て、橋本さんに囲まれて、橋本さんって呼んでも、どの橋本さんかわからないよな。
でもいきなり呼び捨ては出来ない。
「じゃあ由香ちゃんで」
「うーん普段それなら嬉しいけど。
じゃ由香さんって呼んでね。さあ行こう」
俺は橋本さ、いや由香さんに手を引かれ洋館の扉を開けてもらった。
(うわー!)
思わず声が出そうになるのをこらえる。
そこには吹き抜けの玄関ホール。
左右に別れた大階段、足元は鮮やかな赤いカーペット。
なんで由香ちゃん僕達の小学校に来てるの?
あなた様は私立のお嬢様小学校に行くべき身分でしょ?