説明させていただきます。
俺が目覚めて2日後の日曜日俺は由香の家の本家に呼ばれた。
由香の話では今回の騒動の説明を求められると思うと言っていた。
俺は兄貴には言わずに母さんに『由香の家族に心配をかけたから説明をしてきます。』とだけ言った。
母さんは『責任をとりなさい責任を』と言っていた。
あの日から母さんは責任責任と煩いが気恥ずかしいので何の責任かは聞いてない。
「失礼します」
俺は本家の玄関で挨拶をする。
「入りたまえ」
由香の伯父橋本隆一さんが厳めしい顔で迎えてくれた。
(こりゃ大変な1日になるな...)
俺はそう覚悟した。
本家の応接間に通される。
そこには橋本隆一さんの奥さんに由香の両親、橋本喜兵衛さん夫婦に由香の6人が座っていた。
「この度はご心配をおかけしまして本当に申し訳ありませんでした」
俺は開口一番頭を下げた。
「まあ座りたまえ」
「はい。」
隆一さんは俺が頭を下げているのを軽くいなして席を勧めた。
これで橋本家側が6人で俺は由香とで2人。
いや由香に負担はかけられない。俺1人でしっかり説明をせねば。
「失礼します」
俺は応接間のソファーに腰を降ろす。
相変わらず柔らかいソファーだ。
思わず背もたれまで体を持って行かれそうになる。
「早速だが浩二君、この度の事を君の口から聞きたい。説明してくれるね」
隆一さんの少し圧のかかった言葉に俺はプレッシャーを感じる。
由香を一瞬だけ見て俺は微かに頷いた。
(よし!気合いが入ったぞ)
「はい。私は今回知り合いが妊娠した話を聞きました。私と同じ歳であるのにも関わらずです。
その事でショックを受けた私は混乱してしまいこの様な騒ぎを起こしてしまいました」
俺はまずは要点だけを話してみた。
「成る程、それじゃ浩二君質問するよ」
まずは由香の父さんの橋本隆二さんからの質問が来た。
「はい」
「知り合いが妊娠でショックを受けたと言ったが相手の女の子とそれほど面識があったのかい?」
「いいえ6年前にあったきりです」
俺の言葉に由香の両親は余り驚かない。きっと由香から事前に聞かされていたんだろう。
反対に隆一さん夫婦は驚いている。
こちらは事前に打ち合わせは無かったようだ。喜兵衛さん夫婦は全く動かないので分からない。
「ちょって待ちたまえ、なぜ6年前に1度会ったきりの女性が妊娠したと聞いただけで君はそこまで混乱したのかね?」
隆一さんの質問はもっともだ。横で隆一さんの奥さんも頷いている。
ここが第一関門だ。
「それは私が見た夢の記憶のせいです」
「夢の記憶?」
「私には夢の記憶があります。しかしその記憶にある現在は殆ど実際の現在とは違う為今は別の人生と思っていました。
ただその夢の記憶で見た自分の結婚相手の女性が...」
「その6年前に会った人と言うのか、それで女性妊娠したので君は混乱したと?
バカバカしい!君はもう少し常識人かと思っていたがね」
(やっぱりそうなるよね)俺は呆れてる隆一さんを見ながらそう思った。
しかしこれは想定内だ。
「隆一さん」
「な、何かね」
「いつだったか隆一さんは僕に聞きましたね、『君は何者か』と。僕は夢の記憶の影響でたまに大人びてしまうのです」
「確かに言ったな。確か5、6年前かな?」
さすが大学教授些細な事まで良く覚えているな。
「ええ、荒唐無稽な話と自分でも分かっています。私自身こんな話を信じて欲しいなんて都合が良すぎると思いますから」
「少し良いかしら?」
次は隆一さんの奥さんか。俺と殆ど接点は無い人だな。
「はい」
「あなたは未来の記憶って言いますが、それは具体的には?」
「おい...」
「あなたいいから、さあ聞かせて」
止めようとした隆一さんを制して俺に聞いてきた。
「恐らく予知夢の様に現在から未来のご自分の家族をお知りになりたいと思うのですが申し訳ありません。
私の記憶にある未来は今の時点で既に変わっていますので分かりません」
「そうなんですか...」
少し残念そうだ。きっと自分の娘達、志穂さんや美穂さんの未来が知りたかったのだろう。
「おい隆一」
横手から声がした。一番上座に座り先程から俺を静かな目で見詰めていた橋本喜兵衛さんだ。
「なんですかお父さん」
「さっきから黙って聞いておれば私に黙って場を仕切りおって、当主は私だ!」
「え?」
さすがに俺も驚く。怒るとこはそこ?
「そうですよ隆一。おじいさまを差し置いて、なんですか?隆二に当主を継がせますよ!」
「止めて下さい母さん!」
喜兵衛さんの奥様の言葉に今度は由香のお父さんが焦り出す。
「いや、あの父さん気になりませんか浩二君の話がおかしいとか?」
「ならん!!」
隆一さんの問いに喜兵衛さんの大きな声が応接間に響いた。
「いいか隆一、浩二君は絶対に嘘はつけない男じゃ。私は先程から浩二君の目を見ておったが、
この男先程から何1つ嘘はついてはおらん。
そんな男の言う事を信じられんとは情けない!」
喜兵衛さんは首を振りながら続ける。
「浩二君、私は沢山の人を見てきた。
人を見る目はあるつもりじゃ、浩二君は嘘はついておらん。
浩二君なら由香を預けても安心じゃ。
これは間違いないぞ。
まあ浩二君の夢が実際に起きるとは私も信じてはおらんがの」
そう言って喜兵衛さんは快活に笑った。
喜兵衛さんの言葉に隆一さんは困った顔をしてから俺を再び見た。
「私は別に浩二君と由香を別れさせる為に呼んだ訳ではないのだよ。
有一君から君のうわ言を聞いてどうしてもして欲しい事があってね」
隆一さんの意外な言葉に驚く。
てっきり展開しだいではと覚悟していたからだ。
(俺のうわ言か、覚えてないな。
でもきっと未来の俺や兄貴の事を言ったんだろうな)
「そうだよ浩二君、兄さんから有一君の話を聞いて私は君にして欲しい検査があるんだ」
今度は由香のお父さんが続く。
「私にして欲しい検査ですか?」
この時点で何となく想像がつく。
「そうだよ。それは不妊検査だ」
やはりそうだった。俺の頭に前回の絶望が甦る。しかし自分の子供の結婚相手が最初から生殖能力が無いというのは認め難いのだろう。
「分かりました」
俺はしっかりと返事をした。
「良いのかね?」
喜兵衛さんが驚いた顔で俺を見る。
「浩二君話によると君は未来で絶望を味わったそうではないか?」
信じてはいないと言った喜兵衛さんは俺を心配してくれている。
喜兵衛さんの気遣いに胸が熱くなる。
「浩二君嫌なら良いのよ」
「浩二君無理しないで」
由香のお母さんや由香が俺を心配する。
しかし俺はどんな事があっても由香と生きると決めている。
「だからこそです。
僕は夢の中では確かに絶望を味わいました。
でも夢の中でも可能性は0では無かったのです。
私自身もまだ若いです。治療が出来る事は何でも致します。宜しくお願いします。」
「分かった家の大学病院の方で予約を取ってやろう。
また詳細は連絡する、いいね」
「はい」
俺は検査を受ける事になった。