あなたと一緒に生きて行く
扉を開けると澱んだ空気が由香を襲う。息苦しさに耐えきれず、由香は部屋を出た。
「負けるもんか」
自分の頬に気合いを入れ、もう一度浩二の部屋に入る。
室内のカーテンは閉められ、薄暗い室内、浩二の様子が分からない。
由香は手探りで照明のスイッチを入れると部屋に照明が灯り、浩二の姿が見えた。
「浩二君...」
ベッドで眠る浩二。
少し髭が生え、憔悴しているが由香の愛する浩二が眠っていた。
無理に起こさず、出来るだけ眠らせていたのが良かったのだろう。
浩二の母や有一程、憔悴した様子は無かった。
由香はカーテンを開き、クーラーを消して窓を全て開けた。
夕方にも関わらず、8月の暑い空気が部屋に入るが、3日間閉め切られていた空気を入れ換える。
「ううん...」
数分、浩二は苦しそうに呻き出す。
由香は急いで窓を閉め、カーテンも閉じる。
クーラーのスイッチを入れ、部屋の照明を弱くした由香は、ベット脇に座ると、浩二に語り始めた。
「こうして眠る浩二君にお話しするの3年振りね。
全く、浩二君はいつも私に心配かけて、本当に困った人だぞ」
眠る浩二の鼻先を指でちょんと突ついた。
穏やかな顔で眠る浩二の寝顔、由香は続ける。
「...でも私は貴方に会えて幸せです。
私だけじゃない、みんなもだよ...
前も言ったよね、みんな浩二君に感謝してるんだ...」
耐えきれない涙が由香の頬を伝い、浩二の顔を濡らす。
「...浩二君...ごめんなさい。
浩二君を激しく傷つけて、ごめん...ごめんね....」
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(何だ?俺の手を握りながら泣いているのか?
誰だろう?折角夢の世界を楽しんでいたのに)
「誰?」
俺は目を閉じたまま不機嫌な声で尋ねる。
一瞬手の力が緩む。
(この手の感触...)
「まさか」
俺は慌てて目を開ける。
そこには涙を流しながら驚いた顔をした由香がいた。
「おはよう」
俺は混乱して間抜けな言葉を口にする。
「おはようって、今夕方だよ」
由香も混乱しているようだ。
俺達は目を合わせて笑う。
だんだん俺は頭が覚醒してきた。
(何故由香がここにいるんだろう?
そうか俺は学校を休んで心配した由香が来てくれたんだ)
ようやく理解する。
「ごめん由香」
「私こそごめんなさい」
「どうして由香が謝るの?僕が心配かけたのに」
由香は俺の言葉に申し訳無さそうに言った。
「浩二君を傷つけてしまいました。
浩二君は何も悪くないよ。私が酷い事を...」
「そんな事無いよ。僕思い出したんだ」
「思い出したって未来の事?」
「うん。結局由香の言った通りだった。
子供が出来なかったのは僕が原因だったよ。
忘れていたとしても由香には本当にごめん」
俺は由香に言った。これで由香との未来が失われてしまう事になるとしても仕方ない、律子の時の様な悲しい思いをさせたくなかった。
「そっか...」
由香は俺の言葉を静かに聞いた。そして由香は俺に聞いてきた。
「子供が出来なかった時律子さんは何か言った?」
「え?」
俺は由香が何を聞こうとしているのか分からない。
「教えて浩二君」
「あ、ああ律子...彼女は僕に言ったよ。『残念だったけど仕方がないよね、この先も僕と一緒に生きて行こう』って」
俺は律子との会話を思い出しながら由香に教えた。
「...そっか、やっぱり律子さんも私と一緒だったんだ」
「由香?」
「私も一緒だよ、浩二君と生きて行きたい。
未来は変えられる事ばかりじゃない、けれど私は浩二君との未来以外は欲しくない。
何があっても離れない、だって浩二君は私の運命の人だから...」
由香はそう言うと優しく俺に微笑んだ。
「...由香良いのか?」
「良いよ...浩二君...愛してる」
俺は由香を激しく抱き締める。
もう俺達は止まらなかった、激しくキスを交わし、ベッドに由香を寝かせ、激しく激しく求め合う。
何の打算も、建前も無くし、剥き出されか感情をぶつけ合う様に時間が過ぎた。
「愛してる!俺は由香を愛してるんだ!」
「浩二君!絶対に離さない!浩二君!絶対に絶対に一緒だからね!」
俺達はここに誓った。
絶対、一生一緒に生きて行く。