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今行きます。

(今何時だろう?)

俺は体を起こす。


あれから何日過ぎたのかな?

ここ数日の記憶がはっきりしない。

家族には心配かけているだろう。

病院に行ったが内容は余り覚えていない。

処方された薬を飲む。

この薬兄貴は余り薦めて無かった。

これを飲んだ最初の頃は力が入らないし喉は渇くで何もする気にならなくなったな。

でも薬に慣れたらしく今は眠くなるだけだ。

それが調度良い、俺は眠っていたいのだから。

(夢だ。この人生は夢なんだ。早く眠らせてくれ..)


俺は目を閉じる。

眠りを渇望するがそれまでに頭は色々な事を考えてしまう。


(何の為に俺は戻って来たのか?)

兄貴を幸せにする為?

それならもう問題はない。

兄貴は順子さんときっと結婚するだろう。


佑樹も花谷さんと結ばれるかな?

薬師さんは杏子さんと...後は本人次第だ。

孝や川井さん、祐一は問題無いな。


(俺と由香は?)


俺と由香はどうなるんだろう?

由香は俺といて将来幸せになれるのか?


(分からない。分からないんだよ...)


俺の意識はまた漆黒の闇に堕ちていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


その頃由香は浩二の家に着いた。

玄関の前に立ち呼び鈴を押す。


「...はい」


返事が返ってくる浩二の母の声だ。

声を聞いただけで分かる全く生気の無い声だった。

やがて玄関の扉が開く。


「どちら様です..か..」


由香を見て浩二の母は固まる。

由香も浩二の母を見て固まってしまった。

余りに憔悴していたのだ。

由香は力を込めて元気に挨拶をする。


「こんにちは、お母さん(....)浩二君いますか?」


「由香ちゃん...」


浩二の母はしばらく玄関で固まっていた。

明らかに由香を浩二に会わせるべきか迷っている。

しかし由香は敢えて元気な態度を崩す事なく靴を脱ぎ玄関を上がる。


「おじゃまします」


「あ、あの由香ちゃん...」


浩二の母が由香を押し留めようとした時


「母さん由香ちゃんに任せてみて!」


階段から大きな声がした、有一だ。


「有一...」


「母さん、由香ちゃんに任せよう」


「...そうね由香ちゃん浩二をお願い助けてあげて」


「お母さん...」


由香は浩二の母の肩をそっと抱いて頷いた。


「由香ちゃん.浩二の部屋に行く前に僕の部屋に来て。状況を説明するから」


「はい」


由香は有一の部屋に案内された。

部屋には医学書が散乱しており表紙はうつ病に関する書籍や心理学の本が多かった。


「ごめんね散らかってて」


「いえ」


「早速だけど説明するね。4日前の夜に浩二が突然大声で叫んだんだ。慌てて浩二の部屋に行ったら浩二はベットで寝ていて、その時は大丈夫って言ってたんだけど。

次の日の朝から...」


「朝から?」


「次の日の朝から浩二は違う人みたいになったんだ。

僕を見て『兄貴良かったな今度は幸せになれよ』って凄い笑顔で言ったんだ。

後は母さんに『今度は兄貴の本当の素晴らしい家族が出来るよ、もう苦労しなくて良いぞって』これも凄い笑顔で。」


「病院には行かれたんですか?」


「すぐに病院に連れていったみたいだけど。

僕は学校に行ったんで診察や診断を詳しく知らないんだ」


「そうですか...」


有一の話を聞きながら(病院に行った所で今の浩二君は混乱している、未来から戻って来た話なんか聞かされたら正しい診断なんか下せる訳が無い)と思う由香だった。


「薬を処方されたんだけど」


「薬?」


「うつ病の薬。

僕も素人ながら調べたんだけど余り浩二に合ってると思えなくて。

ずっとウトウトしてて無気力になっていってるだけの気がする」


「薬を取り上げてみては?」


「僕もそうしようとした。薬を取り上げて志穂達のお父さんに見てもらって他の薬を探してもらえたら、そう考えたんだけど。

でも浩二が止めちゃって。

『兄貴、これは夢だろ?夢ならこのまま眠らせてくれ。最高な夢だ、みんな幸せになった』って言ったかと思ったら突然『由香ごめんね!』って叫ぶんだ」


「.....」


余りに浩二の深刻な状態に言葉を失う由香。

そんな由香を見て有一は頭を下げた。


「お兄さん...」


「由香ちゃんお願いだ浩二を助けてやって下さい。

浩二は昔から僕の為にずっとずっと頑張って来たよね、同時に浩二は周りの人達も一生懸命助けて幸せをあげて来た。だから僕も浩二に負けない位な人になろうって決心してここまで来れたんだ。

何で周りを一生懸命幸せにしてきた浩二が苦しまなくてはいけないの?

おかしいよ!そんな馬鹿な事ってある?

おかしいよ...」


有一は一気にそう話すと下を向いたままテッシユの箱を取った。

涙を拭いて鼻をかみ下を向いたまま無言でテッシユの箱を由香に差し出した。

由香は自分の顔も涙と鼻水で大変な事になっていってるのに気づく。

慌てて涙と鼻水を拭き取る。

気を取り直して由香は有一に尋ねる。


「今浩二君は?」


「今寝てると思うよ、睡眠薬で」


「睡眠薬?」


「うん薬の中身を入れ換えたんだ。一番弱い睡眠薬にね。

本当は絶対しちゃダメなんだろうけど浩二の症状と処方された薬に合ってないと僕だけでなく橋本さんも言ってた」


「橋本さんって私のお父さんに?」


「違うよ、志穂達のお父さん。由香ちゃんの伯父さんだね橋本隆一さんだよ」


予想外な名前が出て由香も少し混乱したがすぐに気持ちを落ち着ける。


「そうですか分かりました。この事は伯父さんも知っているんですね」


「うん秘密にして下さいってお願いしたんだけど」


「秘密ですか」


由香は伯父さんの性格を考えて恐らく無理だろうと思った。この事は自分の父や母、祖父母まで知られるだろう。

しかし由香はどんな事があっても浩二とは離れないと誓っている。

(何があっても一緒だよ!)

由香は心で叫びながら有一に告げた。


「それではお兄さん行ってきます」


「由香ちゃんお願いします」


有一の部屋を出た由香は浩二の部屋の前でもう1度深呼吸をする。


「浩二君今行きます」


小さな声で呟き由香は扉を開けた。



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