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決壊。

夏休みに入り8月も終わりに近づいた頃。特進クラスの俺と由香は短い夏休みを終えて再び学校に登校する日が来た。

祐一が見た事のない深刻な顔をして俺と由香を呼び出した。


「浩二君由香ちゃん、少し時間をくれない?」


「どうしたの祐ちゃん?」


「何か困った事が出来たのか?」


俺も祐一のただならぬ様子にいつもみたいに『小悪魔』なんて言えない。


「うん実は久とりっちゃんの事なんだ...」


祐一はそこまで言うと黙り込んでしまった。


祐一から出た2人の名前を聞いた由香は俺の顔を見る。

俺も動揺するが祐一の話の続きを聞かない事には何が起こったか分からない。

俺はもう前回の人生を振り返らない。何を言われても大丈夫だ。

俺は黙って由香を見ながら頷いた。

 

「祐ちゃん、2人に何かあったんでしょ?」


由香は冷静に祐一に話の先を促す。

 

「...子供が出来たんだって...」


「.....」


「.....」


余りにも予想外な祐一の言葉に俺と由香は完全に頭が真っ白になる。


「ごめんね、こんな事浩二君や由香ちゃんに関係無い事なんだろうけど...」


俺はこの先の事は余り覚えていない。

前回の人生の事が一気に脳裏に甦ってしまった。

由香が言うには俺の顔から全ての感情が消えていたそうだ。

気がつくと俺は電車に揺られていた。

どうやら補習も終わり俺達は帰っている様だ。

俺はようやく少し感情が戻って来た。


「由香...」


「浩二君...」


「すまない僕は何にもあの後の事を覚えてないんだ。あの後祐一の話を詳しく聞いたかい?」


「ええ」


「後で教えてくれ」


「...分かった。」


由香も意を決した顔で俺を見ながら頷いた。


「それじゃ帰りに...」


「分かった由香の家に寄るよ」


そして帰りに由香の家に着いた。


由香は部屋に入ると俺を座らせ俺の手を握りながらゆっくりと祐一から聞いた話を俺に聞かせてくれた。


「祐ちゃんは夏休みに久君と律子さんに呼び出されて妊娠を教えられたんですって」


「.....」


「今妊娠2ヶ月で7週目に入った所で...」


「どうして妊娠が分かったの?」


「律子さんの生理が来なくて婦人科に行って妊娠が分かったんですって」


「そうか...」


駄目だ!また血の気が引いて頭が真っ白になる。

(由香の話を聞かなくては!)

俺は必死で由香の顔を見ようとするが目の前が色褪せて何も分からない。


「浩二君!!」


由香は俺の顔を押さえる。

次の瞬間俺の唇に何かが触れた。


「え?」


由香は俺の唇にキスをしていた。

とたんに俺の頭に血が昇る。


「落ち着いた?」


由香は真っ赤な顔で俺を見つめていた。


「ああ」


「良かった...」


「ごめんね」


「ううん私の方こそごめんなさい」


由香は俺を見て涙を溜めている。

これ以上由香を不安にさせてはいけない。

俺は頭を整理する。


「つまり久は律子さんを妊娠させたって事だね。

病院に行って分かったと言いう事は家族は...」


「ええ、みんな知っているそうよ」


「そうか」

 

今、久と律子は大変な事になっているのだろう。

なにしろ2人はまだ高校1年生だ。

確か律子の誕生日は6月だったから今は16歳。

久の誕生日は知らないがまあ15、6歳だろうな。


「産むのかな?」


「2人は産みたいって言ってるらしいわ」


「まあ難しいだろうな」


「浩二君...」


「何だい?」


「浩二君と律子さんの間に子供(...)はいたの?」


由香は俺の顔を泣きながら見つめて聞いた。


「僕と律子に子供はいた...しかし僕達の実子(...)ではなかった...」


「それって...」


「そうだよ養子だよ」


俺は力無く項垂れた。


「まさかこの事が原因で律子さんは子供が出来ない体に...」


「分からない...」


「え?」


「分からないんだ!

俺は前回そんな事律子から1回も聞いた事無かった!

俺に何にも言わず子供が出来ない事を隠していたのか?」


俺の乱暴な言葉に由香は固まる。

そんな事には全く気遣えない。


「落ち着いて前回律子さんが浩二君の子供が出来なかったのは他に原因があったからかも知れないでしょ?」


いつもなら聞き流せる由香の言葉が俺に突き刺さる。


「俺が原因だって事か?」


「そんな事...そんな事言って無いじゃない!」


俺と由香は声をあげて泣いた。


その日はただ泣くしかできなかった。


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