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煙草はまだ早いよ。

色々あった高校生活のスタートだったが、気がつけば6月の初夏を迎えていた。

土曜日の午後、学校帰りに俺と由香、孝と川井さんの4人でお洒落なイタリアンレストランに向かっていた。


川井さんが調べた店で料理は美味しくデザートか豊富で女の子の評判が高いとの事だった。

しかし到着した店は満員で並んでいる行列客も店内のお客もスタッフに至るまで全て若い女性だった。


「孝どうする?」


「僕は正直嫌だな」


「僕もだ」


行列を見た俺と孝は小声で囁く。

しかし由香と川井さんは気にせず、


「このパスタ美味しそう!」


「見て由香イタリアンドルチェって初めて見た!」


早速列の最後尾に並び置かれていた1冊のメニューを2人で見ながら盛り上がっていた。

俺と孝は何も言わず黙って由香達の後ろに並び暫くして次の順番になった時、店員が俺達の所に来た。


「すみません次ご案内の席は2人掛けのテーブル席で残りの席も2人掛けのテーブルになりますが離れ離れになります。どういたしましょう?」


申し訳無さそうに店員は言った。


「4人のテーブルは空きませんか?」


由香は諦めきれずに店員に聞く。


「すみません。4人テーブルはまだしばらく空きそうもありません」


店員の言葉を聞いた俺と孝はアイコンタクトを取り頷く。


「仕方ないね由香、川井さんと2人で行っておいで」


「残念だな~、一緒に食べられないなら4人で食べる意味も無いから僕と浩二は別の店にするよ。

瑠璃子も橋本さんと遠慮なく行きなよ」


俺と孝はにこやかに2人を送り出す。


「何か嬉しそうね」


「本当」


やはりこの2人には誤魔化しは通じなかった。


「瑠璃子、でもイタリアン楽しみだったろ。

ゆっくり楽しむなら女の子同士が一番だよ。

さあ行っておいで」


さすがは孝。10年を超える付き合いの長さだ。

川井さんは仕方ないと軽く溜め息をついた、


「由香行きましょ。

お互い言いたい事も溜まって来てるでしょう?」


「そうね瑠璃ちゃん、この際だからお互いたっぷり溜まった愚痴を吐き出そうね」


今度は由香達がしっかり頷いた。


「おい瑠璃子言いたい事って?」


「由香溜まった愚痴って?」


俺と孝は女2人の不穏な言動に思わず聞いた。

由香達は声を合わせてにこやかに言った。


「「内緒!!」」


俺と孝は由香達と別れて適当な所で食事をするべく食堂を探す。

やがて1軒の中華屋さんに着いた。

空腹に中華の匂いは食欲をそそる。


「孝ここにするか?」


「そうだな男同士気軽に餃子を食べてにんにくの臭いぷんぷんって良いよな」


孝と暖簾を潜る。ここも店内は満席だった。


「やっぱりそうだよな」


「仕方ない待つか」


俺達が一旦店を出ようとした時奥のテーブルから声が掛かった。


「おい浩二!」


「あ、浩二さん!」


誰だろう?俺は声の主を見た。そこに居たのは、


「薬師さん」


「やっぱりそうか、こっちに来いよ!俺達は2人で4人のテーブルだから相席しようぜ。

なあ良いよな?」


薬師さんはもう1人の男に聞く。


「ああ、もちろんさ!」


どうやら同意の様だ。


「浩二の知り合いか?」


俺と薬師さんの会話を聞いていた孝が聞く。


「うん。兄さんの友人で僕も小学生からの知り合いで良い人だよ」


「そうか浩二が良い人って言うなら安心だ」


孝と俺は薬師さんの席に向かった。

薬師さんと男は横に並び直し俺と孝は差し向かいに並んで座った。

席に着くと早速注文をする。

薬師さん達もさっき注文したばかりだそうだ。

薬師さん達は私服だった。

(横の男は誰だろ?見たことあるような...

忘れた)俺はもう1人の事は考えるのを止めた。


「こちらは薬師さん。兄さんと古くからの友人だよ。僕も昔から仲良くさせてもらってるんだ」


俺は孝に薬師さんを改めて紹介した。


「初めまして」


薬師さんが軽く会釈する。


「こちらこそ初めまして私、青木孝と申します。

山添浩二さんにはいつもお世話になっております」


孝はそう言って薬師さんに頭を下げた。

やはり昭和男だな。


「俺の事は覚えてる?」


俺が薬師さんの紹介しかしないので焦ったもう1人の男は俺に聞いてきた。


「知らん!」


俺はキッパリ言った。


「ぐっ!」


その知らない男が呻いているが俺は気にならない。だって知らない男だから。


「浩二少し冷たくないか?」


「孝、そう言うが知らないのに知ったそぶりは失礼だろ?」


「『知らん!』の一言もどうかと」


俺と孝の会話を楽しそうに聞いていた薬師さんは、


「浩二、こいつは北村だよ、北村みつる。

覚えてないか?」


と教えてくれた。


「北村です」


「どうだ浩二、思い出したか?」


3人が俺を見る。

『北村みつる?』そんな奴いたかな?分からん。

何か考えるのも面倒だ。もう1回俺は言おう。


「知らん!」


3人はガクっとなる、某新喜劇みたいだな。


「まあ良いか。みつるは俺と一緒にクラブを中学時代立ち上げた仲間だよ」

 

薬師さんはそれで説明を締めた。


「偉く簡略したな」


まだ何か男が言ってる。まあ良いけど。


しばらくして注文した料理が運ばれて来た。

4人同じタイミングで料理が来たのは助かった。

俺達は旨い中華料理を堪能することが出来た。


「ご馳走様」


食べ終わった俺達は一緒に店を出た。


「「ありがとうございました」」


俺と孝は薬師さんにお礼を言う。ついでにもう一人にも。


「良いって、ご飯は多い人数で食った方が旨いし。それじゃまたな」


薬師さん達が見えなくなるまで俺と孝は見送る。


「さて今からどうする?」


「そうだなカメラ屋に行かないか?」


俺は余りカメラに興味が無い。

写真を趣味にしている人には申し訳ないが俺は今回の人生で昔から写真を撮られる事がやたらに多くて正直ゲンなりしていた。


「余り乗り気じゃないみたいだな」


俺の様子を見て孝はそう言った。


「すまん」


「良いって、瑠璃子もそうなんだよ」


孝はあっさりと諦めてくれた。


「それじゃ模型屋に行こう」


「模型?」


「そうだよ、プラモデルさ。僕のもう1つの趣味なんだ」


これは知らなかった。孝がプラモデルを作るのが趣味だったか、プラモデルなら俺も前回はよく作ったものだ。

しかし俺の作ったのは昔の戦闘機や空母等の類いで孝と嗜好が合うのか少し不安になる。


「例えばどんなをの物を作ったんだ?」


俺は孝に聞いてみる。


「そうだな零戦やタイガー戦車だな」


まさか同好の士がいたとは。


「孝」


「なんだ?」


「さあ模型屋に行こう」


「なんだよ急に」


「良いから」


俺は孝と模型屋に向かう。

途中で喫茶店の角を曲がる時ガラス越しに店内の様子が見えた。


「あれ?」


俺は店の中に薬師さんがいたのに気づく。

しかし手には煙草を持っていた。


「どうした浩二?」


急に立ち止まった俺に孝は聞いた。


「いやさっきの薬師さんがそこの喫茶店にいたんだが」


「それが?」


「手に煙草を持ってたんだよ」


「で?」


孝の反応が鈍い。


「いやいやだからまだ薬師さんは17歳なんだよ。

煙草は20を過ぎてからだろ」


「え?薬師さんってまだ高校生だったのか?」


「そうだよ、さっき言ったろ兄さんの友人だって」


「それは聞いたけど浩二の兄さんの同級生とは聞いてないぞ。それに向こうは私服だったし」


そうだった。しかしそんな事はどうでもいい。

未成年の薬師さんが煙草を吸おうとしている。

その事の方が一大事だ。 

俺は喫茶店に向かおうとする。


「おい浩二どうする気だ?」


孝が俺を止めた。


「止めさせる」


「やめろ、ほっとけばいいだろ」


孝が俺の腕を掴む。

俺は孝の腕を振りほどこうとする。


「ダメだ止めさせないと」


「落ち着けよ浩二」


孝は俺の体を引き寄せた。


「孝?」


「浩二よく聞け。今お前が店に入ってあいつの煙草を取り上げて騒ぎを起こしてみろ。

もし店から連絡が行って警察や保護観察になったらあいつも只ではすまんだろ?

まずここはやり過ごせ、そして後で連絡をするんだ」


孝の言葉に納得する。やはり孝は冷静だ。


「分かった」


俺は薬師さんに帰宅後電話をする事を決めるのだった。


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