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不幸なんかじゃないよ。

唯さんの事は帰宅してから兄貴が聞いてきた。


『唯どうだった?』


俺は上手く言えずに黙って兄貴を見ていた。

兄貴は一言


『ごめんね』


それだけ言った。


由香には翌日の帰りに詳しく説明した。


「そうか唯、苦しかっただろうな...」


そう言いながら静かに目を瞑った。


順子さんは俺に何も聞かなかった。

ただ悲しそうで苦しそうな顔をした。


志穂さんと美穂さんは余り変わらなかった。

だが何か決意を固めた様に思えた。


それからしばらくして俺と由香は兄貴達と一緒に学校へ行くのを止めた。


あの日以来俺は考え込む日々が続いていた。

俺は人生を巻き戻る事になり、兄貴に幸せになって欲しいその一心で順子さんを応援していた。


そのお蔭かどうかは分からないが2人は付き合う事となり俺は満足していた。

しかしそれは唯さんや志穂さん美穂さんにとって悲しい結末を招く事になるのは分かっていた。


結局俺は予想された結末に目を背けていただけだった。


(俺は後悔したくない)

(誰も不幸にしたくない)

俺の周りの人みんなが幸せになって欲しかった。

そんな事出来る訳が無いのに。

(結局俺は自己満足したかっただけだったのではないのか?)


そう悩む事が多くなってしまった。

由香はそんな俺を心配し常に気遣ってくれた。


「浩二君?」


俺がまた塞ぐ様な顔をしていると由香が心配そうに声を掛けてくれた。


「大丈夫?」


「うん、ごめんね」


今日は日曜日。家にいたら由香が俺を連れ出して近所の公園に来ていた。


「やっぱり唯の事を考えていたの?」


「うん」


「余り考えすぎないでって言っても無理よね」


由香の言葉に俺は頷く。


「僕が今までしてきた事全ては本当に良かったのかな...」


「そんな...」


由香は俺を悲しそうに見ている。

情けないが由香にしか話せないのだ。

俺の全てを、秘密(未来から戻って来た)を知る由香にしか。


「ねえ浩二君」


「何?」


「少し場所を変えよ」


「どこに行くの?」


「私の家」


俺は由香に手を引かれ由香の家に着いた。

由香の部屋に入り差し向かいに俺達は座った。


「浩二君確かに唯にとって残念な事だと思う。

でもこれは予想出来た事よ。

あなたはお兄さんの未来を変えたくて一生懸命頑張った。その事に後悔は無いでしょ?」


「ああ」


「じゃあなぜそんなに落ち込む様な事になるの?」


「由香の言いたい事は分かってる、でも僕は怖くなって来たんだ」


「怖いって何が?」


由香も不安そうな顔をする。

申し訳ない気持ちになるが話さずにはいられない。


「僕は由香も知っての通り未来からから戻って来た。

由香に言ったよね僕の兄さんは前回は悲惨な結婚生活を送っていたと」


「うん」


「だから兄さんに前回の様な事が起きない様に僕は兄さんに対しての恋を応援して来た。

順子さんの恋をね。

それが唯さんの不幸を呼んだ気がしてならないんだ。だからこの先が怖くなって来たんだ」


「浩二君...」


由香は少し悲しそうな目をした。


「不幸なんかじゃないよ」


「由香?」


「唯は不幸になってない。

確かに唯の恋は実らなかった。でも唯はお兄さんと出会う事で素晴らしい時間を送れたはずだよ。

お願い浩二君そんな事思わないで」


由香は俺の手を握り話続ける。


「私もそう。浩二君に出会う事で救われた。

浩二君の知っている未来の私はどんな人生を歩んだかは分からないけど、それがどんな人生だったとしても今以上の幸せなんか絶対ないよ!

どんな事でも人を不幸にしたなんて言わないで!」


「由香...」


気がつくと由香の目に涙が滲んでいた、そして俺の目にも。


「私だけじゃない。

佑樹君、和歌ちゃん、青木君、瑠璃ちゃん、祐ちゃん、みんなが浩二君に幸せにしてもらったんだよ。

だからお願い...」


由香は震えながら俺にすがり付く。


「そうだな...」


俺は由香の頭を撫でながら思う。


(俺は今を変える為に一生懸命やって来た。

今こうして愛する由香といる。

人を不幸にした何て考えちゃいけないはずだ。)


「ありがとう...」


「.....」


「僕は幸せだ。どんな時でも由香は僕の傍にいてくれる。

こんな幸せな事って無いよね。

ありがとう由香」


俺は由香にまた救われてしまった。


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