ある日の朝の教室
小学校に入学して2ヶ月が過ぎ、新しい学校生活にもようやく慣れてきた。
入学して最初の1ヶ月はクラスメートの名前や性格を覚える事に努力した。
何しろ40年以上前に一緒だったクラスの事なんか殆ど覚えて無かった。
そして迎えた月曜日の朝。
「おはよう」
「おはよう浩君」
「おーす」
「添ちゃん、おはよ」
俺は4人グループの中にいた。
「浩君、今日漢字のミニテストあるね。
今回余り自信無いなー」
自信なさげに眉毛を八の字に下げてる。
この子は橋本由香。
小さな顔に、長い髪、少し小柄な女の子。
前回は小学校1年の途中で転校したので印象が薄い。
この前の入学式に赤木先生から叱られた時、一緒にいた子だ。
「そんな事言って、由香この前のテストも100点取ってたじゃん。
良いな~、添ちゃんと由香は頭が良くって」
女の子にしては短く刈り込んだ髪。
ちょっと太い眉毛に大きな瞳が勝ち気な性格と良く合ってる、この子は花谷和歌子。
前回の時間軸の時は女子のリーダーだった子だ。
「そりゃ頭の作りが俺等と違うから仕方ねぇな。
橋本の親は医者だし、浩二は完璧兄ちゃん、山添有一の弟だからよ」
花谷さんの向かいに座り、諦めた様に頭を振る1人の男子。
彼の名前は川口佑樹。
大きな体、小学1年にして精悍な顔つき。
たしか両親どちらかの爺様がイギリス人だった。
つまりクォーターだ。
そして前回の時間軸の時、男子のリーダーだった男。
「ちょっと俺等って何よ!
あんたみたいな運動馬鹿と一緒にしないで!」
「なんだよ本当の事だからカチンと来たのか?
俺の運動馬鹿は否定しないが、お前も大概運動馬鹿じゃねぇか」
「何よ!」
机を挟んで睨みあう佑樹と花谷さん。
お互い手こそ出さないが、体格の良い2人は声まででかい。
忽ち教室にいるクラスメートの注目が集まる。
「ち、ちょっと止めて2人共...」
佑樹と花谷さんの間で2人を止めようとする由香ちゃん。
怯えながらも必死で仲裁しようとする姿が健気だ。
前回の時間軸では、この2人の対立が始まりで、それがクラスの男子と女子の対立に繋がって行って。
一部男子と女子の暴力までエスカレートし、
学年か上がってクラス替えになっても収まらず、結局この一学年全体は卒業するまで男子と女子は対立したままだった。
今回はそんな事、させる訳にいかない。
「まあ、落ち着いて2人共。
テストで100点取れる人もいれば、佑樹や花谷さんみたいに駆けっこで学年1、2番を取れる人もいるでしょ?
佑樹はジュニアサッカーのクラブに入ってるんだろよね、凄いよ!
花谷さんも日本一になった剣道選手を育てた剣道道場の子だから3歳から大人に混じって竹刀を振ってるのも凄い!
そして口喧嘩しても、絶対手は出さないのがなにより凄いよ!」
俺は2人の目を見て、微笑みながら話した。
「あ...そうだな、ごめん花谷、ちょっと熱くなってしまった...」
「う、あ、うん...良いよ佑樹。
私も、運動馬鹿なんて言ってごめんなさい」
何とか収まってくれたみたいだ、良かった良かった。
「いつもながら凄いよね、コージースマイル」
「あの笑顔の前では喧嘩を続けられないよね」
「あいつは神か?仏か?イエスか?」
なんか、他のグループから変な声が聞こえるが聞こえて無い振りをしよう。
意味が分からないし、なんだよ神か仏かって?
「山添浩二の兄ですが、浩二いますか?」
教室の扉が開き、2年生の兄貴が顔を出した。
「あれ?兄ちゃんどうしたの?」
「浩、体操袋を僕のと間違えて持って行っただろ?ハイ交換」
兄貴の言葉に自分の持って来た体操服の入っている袋を確認する。
[山添有一]と名前が書いてある。
小2と思えない兄貴の書いた字だ。
「ごめんなさい、兄ちゃん」
「次は気をつけるんだよ。すみません、おじゃましました」
軽く頭を下げ、兄貴は笑顔で自分の教室へと駆けて行った。
「良いなー、優しい兄さん」
「私の兄ちゃんなら取り違いしたらボロクソに怒って来ると思う」
「優しいだけじゃなく成績優秀、先生がクラスの、いえ2年生のまとめ役に指名してるんだって」
口々にに上がる兄貴への賛美。
何かここまで兄貴の評価がドンドン上がってる気がする。