表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/229

それぞれの年越し 佑樹と和歌子編

浩二達と別れた後、佑樹達はそれぞれ家に一旦帰り家族に説明した。

和歌子の家族は快く佑樹の家に行く事を了承した。佑樹と家族の人柄を良く理解していたからだ。

佑樹も家に帰って家族に事情を説明した。


「ほう珍しいな佑樹が花谷さんを急に家へ呼ぶなんて」


佑樹の父は意外な息子の願いに驚いた。


「和歌子ちゃんに会うのは久し振りね」


佑樹の母も和歌子に会うのを楽しみにしてそうだ。佑樹の母はイギリス人とのハーフでとても綺麗な人だ。


「そうかいそうかい、和歌子ちゃんが来るのかい」


近所に住む佑樹の祖母も嬉しそうな顔で佑樹の話を聞いていた。

仕事の忙しい両親に代わって佑樹を育ててくれたと言ってもいいおばあちゃんだ。

  

「それで、和歌..いや花谷さんが年越し蕎麦を作りたいって言うんだけど良いかな?」


佑樹は少し恥ずかしそうに言った。


「え?和歌子ちゃんが作ってくれるの?」   

「大丈夫かい?」


佑樹の母と祖母は少し困惑した表情になる。

今まで和歌子が料理をすると聞いた事が無いのである。

 

「大丈夫だよ。俺食べた事あるけど旨いんだぜ」 


「ほう佑樹は花谷さんの手料理を食べた事があるのか」


佑樹のお父さんは嬉しそうな顔で言った。


「そうかいそれは楽しみだね」


「それならお任せしようかしら」


「それじゃ花谷さんにお願いしよう」


家族みんなの了解をもらえて佑樹ほっとした。


その後8時過ぎに和歌子は佑樹の家にやって来た。


「こんばんは」


「いらっしゃい和歌子ちゃん」


「おばさんお久し振りです」


「和歌子ちゃん元気だったかい?」


「おばあ様もお久し振りです。お元気そうで良かったです」


「こんばんは花谷さん。君も相変わらず元気そうで何よりだ。さあ上がって」


「おじさんこんばんは。

この度は無理を言いましてすみません」


和歌子は佑樹の家族全員に挨拶をする。 

佑樹は家族の後ろで照れ臭そうにしていた。


家に上がった和歌子はしばらく佑樹の家族に囲まれてお話をしていた。

やはり緊張するのか少し固い様子だ。

時計は夜9時を回ろうとしていた。


「それでは年越し蕎麦を作らせていただきます」


和歌子は立ち上がり持参のエプロンを着け鞄から鰹節や昆布等材料を取り出して台所に向かう。


「本格的ね」


和歌子の後ろで佑樹の母は興味深そうに覗きこむ。


「母さん見ていたら和歌が緊張するから」


「はいはい、分かりましたよ」


佑樹の言葉に笑いながらテーブルに戻る佑樹の母だった。


しばらくすると和歌子が美味しそうな年越し蕎麦を5つ運んで来た。


「お待たせしました。お口に合えばいいですが」


緊張しながら和歌子は蕎麦をみんなの前に並べていく。


「いただきます」


皆一斉に箸をつける。

和歌子は箸をつけずに皆の反応を見ている。

しばらく無言で蕎麦を啜る音だけが響き和歌子は緊張した表情で皆の反応を待っていた。


「美味しい!」


「...これは美味しいね」


「旨いな」


「和歌旨いよ!」


称賛の声が上がる。


「良かった...」


和歌子は思わず涙ぐむ、その様子に抱き締めたくなる気持ちを抑える佑樹だった。


その後和歌子は佑樹の家族と一緒にテレビをみたりお話しをする。

すっかりリラックスして佑樹の家族に溶け込んだ和歌子の様子に嬉しくなる佑樹だ。

紅白も終わり、ゆく年くる年が始まる。


「そろそろ初詣に行くか?」


「そうね」


佑樹は立ち上がり上着を羽織るが他の家族は行く様子はない。


「皆さんは行かれないのですか?」


「私達は朝に行くからあなた達だけで行ってらっしゃい」


「おばあちゃんが風邪を引くと大変だからね」

 

「楽しんでおいで」


にこやかに佑樹達2人で行くように進めた。


和歌子は初詣の後そのまま帰る予定の為玄関で佑樹の家族に挨拶をする。


「今日はありがとうございました。よいお年を」


「和歌ちゃん今日ありがとう。よいお年を」


「ありがとう和歌ちゃん。よいお年を」


「気を付けて行って来なさい。佑樹、ちゃんと花谷さんを自宅まで送るんだぞ」


「分かってるよ」


佑樹の家族に見送られ家を後にする。


「緊張したか?」


「最初はね。でも優しくしてもらって緊張もすぐに無くなったわ」


和歌子もいつもの口調になり佑樹との話も弾む、しばらく歩くと神社に着いた。


「うわ~」


「凄い人だね」


初詣の人達でごった返している神社の様子に絶句する2人。


「はぐれたら大変だ」


佑樹は和歌子の手をしっかり握る。

和歌子は佑樹の大きく暖かな手に安心し離す事なく無事に本殿への参拝を終えた。

そして2人はおみくじを引くため並ぶ。


「よし大吉だ!」


「私も!」


2人共大吉のおみくじを引き当て盛り上がる。


「良いことばかり書いてるぜ」


「本当。『願い事は叶う』ですって」


「俺もだ」


互いのおみくじを見せ合う。

たくさんの人が行き交う神社の境内、自然と2人は近づき気がつくと息が掛かる程密着していた。


「.....」


「....」


鼻先が触れあいそうな程近くにいる事に気づきお互い見つめ会っていた。


「...そろそろ行こうか」


「...そうね」


真っ赤な顔で並んで神社を後にする、気がつくと神社からかなり離れていたが顔に血が昇っていた2人は気づかなかった。


「少し遅くなっちまったな」


腕時計を見ながら佑樹は呟いた。


「本当ね」


「改めて和歌、今年も宜しく」


佑樹は頭を下げる。


「いきなりね、佑樹今年も宜しく」


頭を上げて見つめ合う2人。


「和歌...大好きだ。今年もずっと一緒だぞ」


佑樹のいきなりの告白に和歌子は顔に血が一気に昇るのを感じた。

当然佑樹の顔も真っ赤になっている。


「私も佑樹が大好きよ。『今年も』なんて言わないで。今年も来年もその先も、ずっとずっと一緒よ」


「和歌子...」


「佑樹...」


神社の帰り道。誰もいない路地裏で二人は初めてのキスをした。


冬の寒さを全く感じない2人だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ