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大晦日です。後編

食事の後は由香の部屋で過ごすことにした。


(由香の家族と年越し蕎麦を食べて初詣に行くだけの事じゃないか)


年越しを由香と過ごすのは別に大した事では無いと自分に言い聞かす。


「年末年始を一緒に過ごすのは初めてだね」


由香が緊張した顔で言う。


「初めてってだけで様子が違うよね」


「初めての様子?」


由香が赤い顔で俺に聞く。


「いやあの町の様子が...」


「あ、ああそうだよね...」


俺達は顔を真っ赤に黙ってしまう。


「ち、ちょっと外に出ようか?」


「そ、そうねまだ3時だもんね。」


俺達は由香のお母さんに声を掛けてから家を出るて北風が俺達を襲う。


「寒!」


「由香大丈夫?」


「手を繋いでもいい?」


「もちろん」


俺は由香の手を握ると手袋越しに手の感触が伝わる。


「暖っかい」


「良かった」


俺は由香に微笑む。

由香は顔を真っ赤にして首に巻いているマフラーに顔を鼻まで埋めた。


「どこに行こうか?」


「浩二君と一緒ならどこでもいいよ」


「じゃあこの辺りを散策しようか?」


「うん」


嬉しそうな由香を連れて目的もなく近所を歩く。

いつの間にか小学校の通学路を歩いていた。 


学校前の文具屋が見えて来た。


「小学校の名札はここで買ったな」


「あら学校から各新学年の時に1つ支給されたはずよ。私は学校から貰ったのを1年間使ってたから新しく買った事無いわよ」


「そうだったっけ?」


思わぬ記憶違いに俺は由香の顔を見る。


「あはは」


由香は笑い出した。どうやら俺は今間抜け顔らしい。

楽しそうに笑う由香に釣られて俺も笑いながら歩く。

そして小学校の前に着いた。


「懐かしい...」


「そうね、でも2年しか経ってないんだね」


「中学2年間色々あったな」


「そうね」


中学校に入学以来様々な出来事の記憶が甦る。

その時遠くから走って来るジャージ姿の男女が見えた。


「おーい浩二か?!」


「佑樹か?」


佑樹と花谷さんだった。


「やっぱり浩二か橋本もこの寒い中何してんだ?」


少し遅れて花谷さんも来た。

息があがっている。


「ゆ、佑樹す、少しは私にも合わせなさいよ」


「すまん和歌俺は走り出したら止まらない男なんだ」


佑樹、お前はマグロか?


「和歌ちゃん大丈夫?」


「あ、あれなんで由香がいるの?」


「和歌ちゃんこの前言ったわよ、今日帰って来たの」


花谷さんも由香が帰って来る日を忘れてたみたいだ。


「で、何で大晦日の昼間に小学校の前にいたんだ?」


「別に意味はないよ。少し散策してたんだ。

佑樹達こそ大晦日までトレーニングか?」


「俺達は今年の走り納めだ」


元気な2人だな。この寒空の中走り回るとは。


「由香今日は浩二君と一緒に年越しでもする気かな?」


花谷さんがイタズラっぽく聞く。それは無いだろうって口振りだ。


「うん。今日は浩二君と年越し蕎麦食べて初詣に行くの」


由香は少し自慢気に言った。


「え...本当?」


由香の予想外な答えに驚く花谷さん。


「へえー。浩二やるな。」


佑樹もびっくりした目で俺達を見る。


「いいなー、私も佑樹と年越しをしたいな...」


「和歌ちゃん?」


花谷さんが思わず本音を漏らした。


「あ!駄目何でもない佑樹聞かなかった事にして忘れて!」


「...俺は忘れない」


「え?」


「和歌の都合が良いなら俺は良いぜ」


「佑樹..」


佑樹の言葉に声を失う花谷さん。


「私は良いよ...」


「なら決まりだ和歌、帰りながら予定を決めよう。

それじゃ浩二またな良いお年を!」


「ああ佑樹良いお年を」


「由香も良いお年を」


「良かったね和歌ちゃんも良いお年を」


顔を真っ赤にした佑樹と花谷さんは手を繋ぎながら去って行った。


「和歌ちゃん達良かったね」


「そうだね、僕達も由香のお家に帰ろうか」


「うん」

 

俺達は由香の家に戻る。

家には由香のお父さん達も帰っていた。


「おかえり由香。いらっしゃい浩二君」


「おじさんこんにちは。今日はお世話になります」


「はは浩二君そう固くならなくて良いよ。ゆっくりしたまたえ」


由香のお父さんは気さくに笑ってくれた。


その後由香の家族と一緒に夕飯を食べてのんびり過ごす。


「やっぱり浩二君がいると家の雰囲気が全く違うわね」


「そうね梨香、何か安心感が違うと言うか全てが明るいわよね」


「私もそう思うよ。浩二君は周りを明るい気分にさせるね」


「みんなそう思うでしょ」


由香の家族から誉められて俺は照れまくる。


「あ、浩二君照れてる!かわいい!」


梨香さんが嬉しそうな顔で俺の顔を覗きこむ。


「もう姉さん近いよ!」


由香は梨香さんの体を俺から離そうとする。


「はいはいあなた達そろそろ年越しそばを作るわよ。」


「私作る!」


「私も!」


由香のお母さんの声に由香と梨香さんが席を立つ。


「何で姉さんも作るの?」


「いいじゃない、1度くらい男の人に料理してみたいの。」


「駄目!」


何やら揉めている姉妹がいる。


「あなた達いい加減にしなさい!」


とうとう由香のお母さんが怒ってしまった。


「だって由香が...」


「姉さんが...」


仕方ないから仲裁しよう。


「皆さん落ち着いて。家族だけで一緒に過ごせる時間は限られています、貴重なこの時間を楽しく...ね、由香。」


俺は微笑みながら由香達を見る。


「あ...」


「うん....」


「はあ....」


俺を見る由香達は真っ赤な顔をして固まってしまった。


「...そ、そうね梨香、由香、みんな一緒に作りましょ」


「「は、はい」」


少しふらつきながら3人仲良く台所に行った。

大丈夫かな?


「...やっぱり凄いな浩二君は」


なぜか顔を赤くした由香のお父さんにも感心された。


出来上がった年越しそばはとても美味しくみんな顔を真っ赤にしながらいただいた。


その後テレビで紅白を見る。

やがてゆく年くる年が始まった。

 

「そろそろ行こうか」


由香のお父さんの声で全員立ち上がり初詣に行く。


「浩二君待って」


コートを着て玄関に向かう俺を由香が呼び止める。


「はいこれを首に巻いて」


由香は俺にマフラーを手渡す。Kの英字が入ったマフラーだ。

これは一目で分かる手作りだ。


「由香これは?」


「うんクリスマスに間に合わなかったけど何とか昨日出来たの」


由香は恥ずかしそうな顔で俺を見ている。

俺は早速首に巻く。


「ありがとう由香暖かいな、一生大事にするよ」


「ありがとう大事にしてね」


由香は嬉しそうな顔だ。


「良いなあ私も手編みのマフラーを好きな人に贈りたい...」


後ろで梨香さんが何か言ってるが聞こえない事にしよう。


その後みんなで神社に行く。

途中で新年を迎えた。


「おめでとうございます」


「おめでとう」


簡単な新年の挨拶をして神社に着くと初詣で神社は大混雑だ。


「ここは固まっていたら危険だ、浩二君は由香と2人で行きなさい。

我々は3人で行く。終わったらまた家に戻ってきたまえ」


「はい分かりました」


「由香、家の鍵はあるわね?」


「お母さん大丈夫だよ」


「それじゃまたね浩二君」


由香の家族と一旦ここでお別れして俺達は初詣を済ませた。

おみくじは人が一杯で今回は断念する。


「凄い人だったね」


「うん、びっくりしたよ」


俺達は神社を出て2人ゆっくり家に戻る。


「願い事ちゃんと出来た?」


「うん由香は?」


「出来たよ。これからもずっと浩二君と一緒にいられますようにって」


「良いの話して?」


「浩二君には話して良いんだよ」


由香は嬉しそうな笑顔で俺に言った。


「それじゃ僕の願い事も由香に教えてあげる」


「それはいいわ。」


由香は俺が言おとするのを止める。


「どうして?」


「浩二君の願い事は私の願いでもあるからよ」


由香はそう言うと俺の手を握って笑った。


(ありがとう由香、俺の願い事はみんなの夢が叶いますようにだよ)


俺は由香の横顔を見ながら心の中で呟いた。


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