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お餅をお持ちしました。

先日搗いた餅を持って川井さんの家に持って行く。


「おっす」


「おまたせ」


途中で佑樹と合流、今日は一緒に川井さんの家に行く約束をしていた。


由香は昨日から家族旅行。

花谷さんは今日実家の道場が稽古納め。

で俺と佑樹は2人連れ。


「浩二と2人なんか久し振りだな」


「そうだね余り最近はなかったね」


そんな会話をしているうちに電車は川井さんの家がある駅に着く。


「あ、浩二君、佑樹こっちこっち!」


改札を出ると祐一が待っていた。


「久し振り!」


祐一は嬉しそうな笑顔で走ってくる。


(まったく、何で祐一は男なんだ?罪な奴め)


俺はまたバカな事を考えていた。


「久し振りって、お前2日前に終業式で会っただろ?」


「2日も浩二君と佑樹に会えなかったんだよ?淋しかったもん」


祐一はそう言うと俺と佑樹の腕に自分の両腕を絡ませて来た。


「止めろって!」


佑樹は祐一の腕を振りほどこうとするが軽く絡ませているはずの腕はほどけない。


「何でだよ!」


佑樹は焦るがにこやかに笑う祐一の腕は全然離れなかった。


「...諦めよう」


「そうだな...」


俺達は諦めて腕を組んだまま川井さんの家に行く事にした。


「ふふふ、勝ったもんね」


祐一は心底嬉しそうな顔をしている。


「羨ましい、かっこいい男の人に挟まれて」


「本当、可愛い女の子は得だわ」


なんか周りの女性から聞こえるが俺と佑樹は聞こえないふりをして早足で川井さんの家に向かった。

(こいつ(祐一)は男だぞ!)

そう心の中で叫びながら。


しばらく歩くと川井さんの家が見えて来る。


「あ!母さん来たわよ」


「本当!」


「おーい!」


川井さん母娘と孝はいつも玄関前で待っててくれる。


「こんにちは」


俺達3人は並んで挨拶をする。


「何で3人並んでるんだ?」


孝からもっともな質問が、


「ほどけないんだ」


諦めたように佑樹は言う。


「ほどけないんだよ!」


にこやかに祐一も続く。


「良く分からんが楽しそうだな」


孝はニヤリと笑った。


「おい、浩二何か知らんがムカつくな」


「偶然だな佑樹、僕もだ。...祐一行け!」


「ラジャー!」


祐一は俺達から離れて孝に向かって走っていく。


「わ!止めろ!」


孝は慌てて祐一から逃げるが、意外と足の速い祐一に捕まってしまう。


「止めてくれ!瑠璃子助けてくれ!」


「祐ちゃんは祐ちゃんだから諦めて」


川井さんの言葉に孝は良く分からないが諦めた。


「さあ寒いから家に入りましょ」


俺達の様子を本当に楽しそうに見ていた川井さんのお母さんの言葉に俺達は家に上がらしてもらう。


「はあー暖けぇ」


「本当に」


俺と佑樹は暖房の利いた部屋に安堵の声を出す。


「僕は寒くないよ。暑いくらいさ」


「お前は走り回ったからだろ」


祐一の言葉に佑樹は呆れてる。

孝はまだ肩で息をしていた。


「お餅を持って来ました、皆さんでお召し上がりください。

青木君の分も入ってますのでお分けください」


川井さんのお母さんに持参したお餅を渡す。

因みに祐一にも同じ物を駅で渡して祐一は駅のロッカーに預けていた。


「ありがとう」


「サンキューな」


「綺麗なお餅ねありがとう!」


川井さん達にも好評なようだ。


「早速少し食べても良いかしら?」


「どうぞ、どうぞ」


川井さんのお母さんは立ち上がりお餅を持って行く。


「私も手伝うわ」


川井さんもお母さんに付いてキッチンに。

しばらくするとお椀に入った料理が出てきた。


(この匂いは...)


覚えのある匂いに固まる。

俺の事をよく知る佑樹はニヤニヤ笑う。


「良かったな浩二、好物じゃねえか」


「あら浩二君ぜんざい好きなの?良かったわ」


川井さんのお母さんは最高の笑顔で俺を見る。


(止めてくれ、餡子の類いはすべて苦手なんだ!)


俺は心の中で叫んだ。


「さあ召し上がれ」


川井さんのお母さんは期待の顔で見る。

俺は覚悟を決めてお椀の蓋を開けた。


やはり中はぜんざい(当たり前だ)


みんな一斉に口をつける。

どうやら苦手は俺だけのようだ。


「うっま!」


「美味しい!」


佑樹と祐一の歓声が上がる。

俺も口をつける

...やはりダメだ、苦手な物は苦手だ。

だがここは空気を読まねば。


「美味しいです...」


静かに呟いた。


「どうして目を瞑っているの?」


川井さんが聞く。


「浩二はぜんざいを食べる時はいつもこうなんです。特に美味しいぜんざいを食べる時は。」


佑樹がいらない事を言う。


「そう良かった!お代わりもあるから遠慮しないでね。」


川井さんのお母さんがとんでもない事を言う。


「良かったな浩二」


「「良かったな(ね)」」


佑樹は俺の困惑を知りながら更にいらない事を言う。

何も知らない孝や祐一も続き、結局2杯のぜんざいを食べる俺だった。


「あら浩二君、お餅は食べないの?」


川井さんが聞いた。

餅は大好きだけど小豆まみれの餅は絶対に無理です。


仕方がないので禁じ手を使う事にする。


「すみません日本茶を頂けますか?」


「はいはい、甘いものには日本茶よね」


川井さんのお母さんは日本茶をみんなの分も淹れてくれた。


「行儀が悪いですが僕はこうしてお餅を食べるのが好きなんです」


俺は箸でお餅を摘まみ上げ、湯飲みに浸けて小豆を洗い流してから綺麗になったお餅を食べる。


「か、変わった食べ方ね」


川井さんのお母さんは驚いている。


「ええ、お勧めはしません」


「誰も真似しねえよ」


みんな佑樹の言葉に頷いている。

腹が立ったのでみんなに気づかれないように佑樹の湯飲みと俺の湯飲みを入れ換えてやった。


「食べた食べた!」


「ご馳走様です」


「浩二君美味しかったね!」


「美味しかったです..」


みんなのテンションに乗れない。


「甘い物の後はお茶だな」


佑樹は湯飲みに手を伸ばす。

激甘のお茶を一口飲んだ佑樹の頬が膨らむ。

きっと逆流したんだろう、必死の表情で飲み込む佑樹。

さすがだ。


飲み終えた佑樹は苦笑いを浮かべながら俺の耳元で言った。




「...やりやがったな」



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