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うどんの味は

「それじゃ行ってきます」


有一は出来たばかりのうどんの出汁を夏には麦茶を冷やすのに使っていた入れ物に入れて家を出る。手には他にも何か入ったタッパーを持っている。


「行ってらっしゃい」


浩二は玄関で兄貴を見送った。




「いらっしゃい」


順子は有一が来るのを家の外で待っていた。


「ありがとう順ちゃん寒いでしょ?早く入ろ」


有一は冷えてしまった順子を心配しながら家に入った。


「大丈夫よ、私は丈夫なんだから」 


順子は元気一杯で有一に笑いかけた。


「でも風邪を引いたら大変だからね」


優しく順子を見つめる有一。


「有一君...」


「おい、二人」


「早速見せつけてくれますわね」


「まったくですわ」


玄関の扉を開けると唯と志穂、美穂の3人が呆れた顔で並んでいた。


「みんなもう来ていたんだ?」


「それだけ?」


「まあいいじゃありません事?」


「そうですわ」


有一の態度に怒る事もなく、苦笑いの3人だった。


「有一、その手にあるのが例の物か?」


唯が有一の手に握られている容器に気がつく。


「うん、みんなの分もあるよ後で一緒に食べよう」


「楽しみです」


「楽しみだ」


「楽しみですわ有一様のお料理」


みんな有一の作る夜食を楽しみにしているようだった。

 

「それじゃ夜食まで勉強しよう!」


「「「「おー!」」」」


有一の言葉に皆続いて声を上げた。


その後9時過ぎまで5人揃って勉強をする。


「そろそろ夜食にしようか?」


有一が腰に手をやりながら立ち上がる。


「それなら私も手伝うわ」


順子も有一に連られるように立ち上がった。


「順ちゃん今日は僕に任せて僕が美味しいうどんを作ってあげるから」


有一は家から持って来たエプロンを着けて台所に向かう。

皆有一のエプロン姿に溜め息をする。


「可愛い...」


「...「似合う」


「お人形さんみたいですわ...」


「...これはたまりませんわ」


皆有一のエプロンに呆然としていると台所から包丁の小気味良い音がしてきた。

もちろん台所に立つ許可は順子の両親から貰っている。


4人は大きなテーブルに集まり座りながら有一が料理を持って来るのを待つ。


「楽しみだな有一君の料理」


「...ああ」


「本当に...」


「...楽しみです」


順子以外の3人はいつもと違い神妙な顔をしている。


「どうしたのみんな?」


順子は気になり3人に声をかける。


「別に...」


「ええ...」


「気にしなくても良いです...」


やはりいつもと違う3人だった。

暫くすると良い匂いと一緒に有一が5人分のうどんを運んできた。


「お待ちどう様」


「「「「わあ~!!」」」」


丼には美味しそうな熱々のうどんが入っていた。


「はい、順ちゃん」


「美味しそう!」


「はい唯」


「旨そう」


「はい志穂」


「美味しそうなうどんですわ」


「はい美穂」


「たまりませんわ」


そして有一は自分のうどんを置く。


「あれ、みんな具が違うぞ?」


唯がみんなのうどんに乗っている具が違う事に気がつく。


「本当だ、私は炙った鶏肉よ」


順子のうどんには鶏肉に焼いた白ネギが乗っていた。


「私は大きなお揚げだ」


唯のうどんには甘辛く炊いた揚げが乗ったきつねうどん。


「「私達はかき卵にお餅ですね。」」


志穂と美穂のうどんはふんわりしたかき卵に小さな焼き餅が1つ入っている。


みんな有一の心遣いが分かる。

それはみんなの好物ばかりだった。


「いただきます」


有一の言葉にみんな続く。


「「「「いただきます!」」」」


「美味しい!」


順子は大きな声で喜んでうどんを食べる。


「良かった」


順子の様子に満足そうな有一。


他の3人は黙って有一のうどんを食べる。


「どうしたのあまり美味しくなかった?」


不安そうに有一は3人に聞く。


「美味しい...」


「美味しいですわ...」


「とっても...」


それだけ言うとまた無言でうどんを食べる3人、やがてすすり泣くような声がした。


「唯?」


順子は唯の異変に気づく。

泣いているのは坂倉唯だった。


「何でも無い、何でも無いんだ」


そう言いながら唯の目から涙か零れた。


「唯泣いたらいけませんわ!」


「そうですわ泣かない約束をしましたでしよ!」


「志穂?美穂?」


志穂と美穂も泣いていた。


「どうしたのみんな?」


有一も訳か分からず混乱する。


「「「何でもないんです」」」


有無を言わせぬ唯と志穂と美穂の言葉に有一と順子は口を閉ざすしか無かった。

重い空気のままうどんを食べ終えた。


みんな汁の1滴も残さず、綺麗に食べた。

有一と順子は空いた丼をシンクに下げる。


「すまなかった」


落ち着いた唯が口を開く。


「「ごめんなさい」」


志穂と美穂も続く。


「私達は有一を諦める事を決めていた」


「唯?」


「ごめんなさい順子最後まで言わせて」


唯に聞こうとした順子を志穂が制する。唯は続ける。


「だから受験が終わって順子が合格するとみんな身を引くつもりだ」


「唯...」


「でも無理みたいだ」


「え?」


唯の続けて言った言葉に有一と順子は息を飲む。


「だってそうだろう?みんなの好きな料理を作ってくれた有一の優しさに触れて、はい諦めろ何て出来るもんか!」


「そうですわやっぱり無理ですわ!」


唯の言葉に志穂や美穂も続く。


「順子まだ勝負は着きません事よ!」


「早く合格しろ順子」


唯の無茶な言葉に口を開けたまま固まる順子と有一。


「そんな、すぐは無理よ」


「うるさい順子それなら早くA判定を取れ。」


「そうですわ早くA判定を貰って私達を安心させて下さいな」


「それもちょっと..」


順子は困惑の表情を浮かべる。


「まごまごしていたから有一様の料理の味が余り分かりませんでしたわ、順子のせいですわ!」


無茶苦茶な事を言われる。

  

有一は黙って聞いていたが、やがてみんなの方を見て話す。


「唯、志穂、美穂、ごめんねみんなの気持ちは良く分かったよ。

でも僕は順ちゃんが好きなんだ」


「有一...」


「「有一様...」」


有一のきっぱり言い切った言葉に静まり返る。


「それでも構わない」


「「そうですわ構いませんわ」」


唯と志穂と美穂は止まらなかった。

溜めていた気持ちが爆発したから仕方がない。


「分かったわ」


順子は静かに微笑みながら3人を見る。


「諦め切れない気持ちは分かります。

私もあなた達の立場なら絶対にそうですもの」


「順ちゃん?」


「ごめんなさい有一君、私は有一君が大好きよ。

でも唯や志穂、美穂も大好き。だからまだまだ勝負はお預けなの。それで良い?」


決然とした順子の言葉に3人は頷く。


「望むところだ!」


「吠え面かかせてやりますわ」


「あら志穂さんはしたないですわ、わたしも同じ気持ちですけども」


女4人の決意に何も言えなくなる有一だった。

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