ある夏休み 佑樹と和歌子編
季節は8月の夏休みを迎えていた。
浩二達特進コースの生徒達は去年と同じ補習授業に行き、
佑樹達体育コースを中心としたスポーツクラブに所属する生徒達はクラブ合宿や毎日のように学校でのクラブ活動を頑張っていた。
佑樹と和歌子の夏休みの1日を見てみよう。
「ふいー終わった、終わった」
佑樹のサッカー部の練習が終わりサッカーボールや道具の片付けをしてシャワーを浴びていた。
「先輩お疲れ様です」
サッカー部の後輩達が佑樹に声をかける。
「おう!お疲れ、今日もご苦労さん」
佑樹はクラブの中で一番人気の先輩だから後輩達にとても慕われている。
「いつも後片付けまで手伝っていただきありがとうございます」
「いいって事よ。お前らも早く終わらして早く帰りたいだろ?」
「でも先輩は2年なのに...」
恐縮する後輩達。
「だから気を使うなよ。俺もやりたいからやってるだけだから」
佑樹は優しく後輩達に言う。
「ありがとうございました!」
後輩達に感謝されながら部室を後にする。
佑樹はシャワーでスッキリした気分で剣道部の部室前で和歌子の出てくるのを待つ。
「佑樹お待たせ」
10分くらいで和歌子は部室から出てきた。
和歌子もシャワーを浴びていたのか髪が少し濡れていた。
「そんなに待ってねえよ、さあ帰ろうぜ」
2人は並んで学校を出る。
「今日はまっすぐ帰る?」
電車の車内で和歌子はタオルで流れる汗を拭きながら佑樹に尋ねる。
「そうだな、今日は少し涼んでから帰ろうぜ」
佑樹も流れる汗を拭きながら和歌子に言った。
「賛成、あそこ行く?」
「もちろん」
2人は笑いながら電車を降りて駅前からいつもの喫茶店に行く。
「こんにちは」
「失礼します」
2人一緒に扉を開けて店に入る。
「いらっしゃいませ」
いつもの優しいマスターが迎えてくれる。
「あー涼しい!」
「生き返るぜ!」
クーラーの効いた店内に入り2人は歓喜の声をあげる。
いつもの席に座り注文をする。
「マスター、アイスコーヒーね」
「私はアイス抹茶お願いします」
その後2人はクラブの事や身の回りの事等を話す。
「そう言えばこの前由香が聞いてきたの」
「橋本が?何を?」
親友達の話になり佑樹も興味を持つ。
「由香に言わないでね、『和歌ちゃんどうやったら胸がおっきくなるのかな?』って。」
「胸?おっぱいの事か?」
「ズバリ言うわね。まあ、そうなんだけど。」
「何でだ?浩二が何か言ったのかな?」
「そう言う事じゃないみたい。
この前の私の格好や、順子さんの胸を見て由香少し自信を無くしたみたい」
和歌子の言葉に佑樹は頭を捻る。
「浩二が何も言わないなら悩む必要なんか無いと思うけどな」
「私もそう言ったんだけどね」
「だいいち順子さんのおっぱいは論外だろ?
あんなでっけえおっぱい大人でもなかなかいないぜ」
「佑樹、あんたしっかり見てんのね」
佑樹の言葉に少し怒る和歌子。
「まあ女の子は気になるものよ」
「和歌もなかなかでかいからな、親友がでかけりゃ気にもなるわな」
「いつ見たの!」
「この前の変装の時」
佑樹の言葉に思い出し恥ずかしくなる和歌子。
「止めて忘れて!」
「俺は忘れない」
気がつくと真っ赤になっている2人。思わず笑い出す。
「浩二も俺の腹筋をいつも羨ましそうに見てるぜ」
話題を変えるように佑樹は言った。
「そうなんだよね、不思議、浩二って佑樹と違って常識人と思ってた」
「ん?俺と違うってどういう意味だ?」
「まんまの意味よ」
「そうか」
「納得するな!」
また笑い合う二人、それを優しく見守るマスター。
「でさ、浩二ってたまに馬鹿になるぜ?」
「そうかな?」
「ああ、この前 浩二が生タマゴを飲むから見てくれって」
「生タマゴ?どうしてそんな事を?」
佑樹の話に首を傾げる和歌子。
「何か映画で見たんだって、
それでジョッキに生タマゴを8個入れてよ...」
「全部飲んだの?」
「それが5個までは順調だったけど6個目が入らねぇみたいでな、浩二のやつ目を白黒させてよ、6個目のタマゴが浩二の口から出たり入ったり出たり入ったりでな」
佑樹は楽しそうにアイスコーヒーの氷をスプーンに乗せて左右に動かす。
「や、止めて佑樹、お腹が...」
お腹を押さえて笑う和歌子。
「でも浩二に限界でが来てな」
「は、吐き出したの?」
「いや咄嗟に口を抑えた」
片手で口を抑える仕草をする佑樹。
「そうなの?」
「で、次の瞬間浩二の鼻から溶きタマゴが飛び出したんだよ」
「ぶ!」
佑樹のオチに吹き出す和歌子。
暫く2人の笑い声が店内に溢れた。
マスターも浩二の様子を想像して後ろを向いて笑っていた。
ようやく立ち直った和歌子が、
「成る程、浩二って結構なバカな所あんのね」
「だろ?でもよ、浩二再挑戦するって」
「まだやる気?」
呆れた顔の佑樹と和歌子。
「そうなんだ次は最初から溶き卵にしてから飲むって」
「意味分かんない」
「だな」
また2人は大笑いした。
その頃の山添家。
「駄目だ、溶き卵でもやはり生タマゴだ!
バルボアへの道は遠い」
鼻からタマゴを垂らした浩二が項垂れていた。