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白石さんピンチです。 中編

 杏子姉さんを見届けた由香と花谷さんが駅に戻って来た。

 怒りを堪えきれない俺と佑樹に由香達は直ぐ気づいた様だ。


 俺達は男が吐き捨てた言葉を少し和らげ、由香達に伝えた。


「...許せない!」


「信じられない女の敵よ!!」


 激しく怒る由香と花谷さん。

 特に花谷さんは肩に掛ていた袋に入った木刀で男を追いかけるのでないかと思った程だ。

 佑樹が止めてくれて良かった。


「どうするよ浩二」


 佑樹に悪いが、すぐにアイデアが出るわけもない。


「とにかく今日は遅いし帰ろう」


「そうだな、そうしよう」


 男の言葉に一番ショックを受けたのは由香だった。

 涙を堪え俯き、花谷さんがそっと肩を抱いてくれている。

 一言も言葉を交わさないまま自宅に戻った。

 家に着き、今日の事を紙に書いて整理した。


[男は杏子姉さんを狙っている]


[杏子姉さんは男を警戒している]


[恋愛感情は分からない、少なくとも杏子姉さんは男に心を許してる様子はない] 


[余り時間をかけると、男が何をするか分からない]


[このままでは杏子姉さんの貞操がピンチ]



 紙に書くと冷静な分析が出来る。

 時間の猶予が余りない、時刻は午後9時前。


「...杏子姉さんに電話するか」


 部屋を出て、杏子姉さんの家に電話をする。

 番号は記憶している、数回の呼び出しの後、電話に出てくれた。


『もしもし白石です』


「もしもし山添と申します、夜分遅く申し訳ありません。

 杏子さんいらっしゃいますでしょうか?」


 電話をすると口調がおっさんだった頃に戻ってしまう。

 電話対応は社会人の基本だったからな。


『あれ浩二だよね?どうしたのこんな時間に』


 どうやら電話にでたのは杏子姉さん本人にようだ。


「杏子姉さん、僕達見ちゃたんだけど」


 回りくどい事は止め、本題に切り込む。


『え...何を?』


「昨日と今日。改札で二人して居たでしょ?」


『.......』


 沈黙が続く、不味い所を見られた自覚があるんだろう。


「ごめんなさい。

 昨日はじいちゃんの病院に行ったの帰りで偶然だったんだ」


 追い込むようだが、しらばっくれても仕方ない。


『...全部見たの?』


「どこまでが全てか分からないけど一部始終は」


 絞り出すような杏子姉さんの声。

 電話を切られかねない懸念はあるが、正直に言った。


『明信も見たの?』


「薬師兄さんはいないよ。

 昨日は僕一人で今日は佑樹達とだよ」


『佑樹達って事は由香や和歌もいたのね』


「うん」


『...そう、明信は見てなかったのね』


 薬師兄さんが見てなかった事を知った杏子姉さんの声色が変わる。

 明らかに安堵しているのが分かった。


『...分かった、詳しく言うわ』


「待って」


『え?』


「顔を見て話そう。電話じゃ詳しく聞けないから」


 言いにくい事だ、杏子姉さんの異変に向こうの両親も気づくだろう。

 そうなったら続きが聞けなくなってしまう。


『それもそうね、いつにする?』


「いつが良いの?」


『私はいつでも良いよ』


「分かった、すぐに折り返し電話するから」


 一旦電話を切って由香達に電話をする。

 全員とはすぐに連絡が着き、明日の土曜日なら大丈夫との返事集め、杏子姉さんに折り返しの電話を入れた。


 改札前で明日の昼2時。

 こうして俺達は杏子姉さんと会う事が決まった。

 そして翌日、午前中の学校を終え、駅の改札を出ると杏子姉さんが待っていた。


「待ったかな?」


「大丈夫、私も15分前に着いたところだから」


 杏子姉さんの顔は少し強張っていた。

 緊張は隠しきれない。


「取り敢えず場所を移しましょう。

 こんな話をするのに喫茶店も何だから、今日はハンバーガー屋さんでどう?」


 由香の意見はもっともだ、杏子姉さんと薬師兄さんをよく知るマスターに聞かせたくない。


「そうね、分かった」


 杏子姉さんが頷き、駅前のハンバーガー屋に場所を移す。

 全員飲み物だけを注文して6人がけのテーブルに座った。


「聞きたい事は分かってるわ、あの人は音大生で私の指導員よ」


「指導員?」


 杏子姉さんは先に話を始めた。

 しかし指導員って何者だ?


「私の通う中学には指導員が付くの。

 彼等は音大で授業の一環として私達を指導する。

 指導員に従うと私達は中学から単位ポイントが付いて、指導員も無事に指導期間を終えると大学の単位を貰えるんだって」


「何が無事にだ!ふざけやがって!!」


 話を聞き終えた佑樹が激怒する。

 サッカーの指導で苦しめられた苦い記憶が呼び戻されたようだ。


「女子生徒を食い物にしてるだけじゃないの!!」


 花谷さんも大激怒だ、余りの剣幕に店内の視線が集まってしまった。


「落ち着いて、あの人がおかしいだけ。

 以前に付いた他の指導員さん達はみんな凄く親身になってくれたのよ。

 あの人は私を指導するうち何か勘違いしたのよ、きっと。

 大丈夫、後を数回であの人の指導も終わるから」


 杏子姉さんは涙目で佑樹達を宥める。

 こんな弱っている杏子姉さんを見たことがなかった。


「浩二君助けてあげて」


 由香は悔しそうに言った。


「杏子姉さん、あいつの被害者は?」


「大丈夫よ、あの人が指導員になったのは今年が初めてで。

 私の前は男の子担当だったらしいから」


 まだ被害者はいない。

 勘違い男はどこにでもいる、杏子姉さんは綺麗だ。

 まだ中学生とはいえ、かなり人目をひく存在なのは分かる。

 だが中学生に欲情する大学生、立場を利用するのは卑劣だ。

 こんな奴、元オッサンの俺から見れば所詮はガキが粋がってるだけなんだけど。


「...佑樹、あの男に少しきついお灸を据えたいが協力してくれるか?」


「任せろ白石さんとアッキーの為だ!」


「佑樹、手荒な事はダメだからね」


「花谷さん大丈夫だ。

 今回は乱暴な事をしないから」


 心配そうな花谷さん、佑樹が酷い暴力に訴えないか不安なんだろう。

 そんな事まではしない。


「浩二くん、それってどんな作戦?」


「ビレッジピープル大作戦だ!」


 由香に作戦名を伝える。

 その後、細かく杏子姉さん達を交えての作戦会議か始まった。

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