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二人の罪

精密検査の結果も問題なく無事に退院して学校に復帰出来たのは更に1週間後の11月の頭からであった。

俺はすぐに学校に戻りたかったが頸椎捻挫(ムチウチ)が電車の振動に良くないからと由香の父さんに言われては休むしかなかった。


おれが休んでいる間毎日、由香や佑樹に花谷さんが家に来てくれた。


「はい今日のノート」


「ありがとう由香助かるよ」


「それと学校から出された課題」


「おい橋本、浩二は学校休んでるのに宿題あんのか?」


「うん事情が事情だから学校に言えば大丈夫なんだろうけど提出した方が良いって青木君が」


「孝が?あいつ委員長なのに融通効かねえな」


「こら佑樹!孝だって浩二の為に学校に掛け合って追加で課題を由香に持たせてくれてるのに!」


「でもよ和歌、宿題だぜ?休んでるのに宿題が出るのはたまんねえよ」


「でも佑樹、青木君が由香に持たせてくれた課題には大事なポイントや難しい文章には全て書き込みがあるんだよ」


「わっ!細っけえー文字、これを書く方が課題するより手間じゃんか」


「そうなんだ川井さんも手伝って毎日由香に持たせてくれてるんだよ」


「孝、あいつはなんて優しい男なんだ!」


佑樹の変わり身の早さに大笑いしながら早く学校に戻りたいと思った。

そして迎えた11月1日の月曜日。

俺は2週間振りに学校に帰ってきた。

 

「おかえり!」


駅でいきなり祐一に出迎えられる。


「久し振り祐一、色々お世話になったね」


「ううん僕何にも役に立てなくてごめんね)


涙ぐむ祐一。


「入院中も面会謝絶だし行きたかったんだよ!」


「分かってる、由香に聞いてたから」


「退院してから行きたかったけど迷惑になったら駄目だから我慢したんだよ」

 

「電話で聞いたよ」


「でも元気になって良かった!」


「ありがとう、さあ一緒に学校にいこう」


俺達は3人仲良く学校に向かった。

道行く生徒は俺の顔を見てギョッとする。

俺の顔にはまだ内出血の跡が紫に染まったままだ。

由香のお父さんの話では後2週間もしたら少しずつ消えて行くと聞いている。


「それじゃまた昼に学食でね!」


祐一と別れて校舎に入る。   


「お、来たな待ってたぜ」  


「おはよう浩二」


「浩二大丈夫だったか?」


「元気になったみたいで良かった」  


校舎に入ると佑樹や孝達4人が待っていてくれた。

佑樹と花谷さんは朝練があるのでいつも先に学校に来ている。


「浩二、聞いていたがアザは大丈夫なのか?」


「跡に残らないわよね?」


孝と川井さんが心配そうに聞く。


「大丈夫2週間もしたら少しずつ消えるらしいから」


「瑠璃ちゃん大丈夫よ、お父さんもそう言ってたから」


2人はほっとした顔をした。

その後時間一杯まで6人で楽しくおしゃべりをした。


「それじゃ孝また明日な!浩二また昼に学食でな」


「瑠璃ちゃんバイバイ!」


元気な佑樹達と別れて俺達4人は特進クラスの教室に入る。


「おはよう」


朝の挨拶をする。


「おはよう浩二」


「元気になったみたいで良かったね、由香...」


「早く一緒に自習やろうぜ楽しみだな」


暖かな言葉をかけられる。誰も俺の顔を見ても何も言わない。

一部を除いて。


「なんだよ帰ってきたのかよ!」


「中間テスト前に入院したら良かったのに!」


「おいやめろよ北川...」


「そうよ中西さんも駄目よ」


冷や水をかけられたような言葉を投げつけられる。


「北川君!!」


「止めろ由香!」


走り出した由香を慌てて孝と2人で止める。


北川と中西の周りから他の生徒が離れて行く。


「なんだよ帰って早々にイチャイチャか?熱いね!」


「でも見てあのアザ、あれじゃ幸せな気分とかになれないわね」


「そうだ、おい山添!」


「なんだよ!」


後ろから由香を羽交い締めにしながら聞く。


「その顔に目出し帽被せろよ、気持ち悪いぜ!」


「本当ね!」


完全に空気が凍る。


「北川君。中西さん」


いつの間にか2人の前に立つ川井さん。


「なんだよ川井?まだあいつを庇うのか?」


「そうよ山添がいたせいでお父さんと仲直りできなかったんでしょ」


「何も聞いてないと思うな...」


「何?」


「私が何も聞いてないと思うな!!

私と青木君が1週間教室にいない間にあなた達が言った事みんな知ってるんだからね!

『浮気されて捨てられた母娘』 『惨めな奴』 『可愛く無いから捨てられて当たり前』 

私が知らないと思うな!!」


「だ、誰だよ?俺は言ってないぞ!」


「わた、私も知らないわよ」


「僕が君らの机の中にカセットレコーダーを置かして貰ったのさ」


「青木...」


いつの間にか川井さんの隣に立つ孝。


「あんまりこんな事したく無かったけどね」


「糞、誰だよそんな物を置いた奴は?橋本!お前か!」


「俺達だよ」


次々立ち上がるクラスメート達。


「私達が青木君達に教えたのよ。

北川君達があなた達の事を酷く言ってるって。」


更に次々立ち上がるクラスメート達。


「もう君達の勉強は見ないからね」


「ええ?」


「『瑠璃子の色に狂った哀れな青木孝』は君達の勉強は見ないと言ったんだ!」


「残念ね、小学校1年から青木君や私からテストのポイントから授業の解説まで ずっと受けてやっと特進コースにまで来たのにね」


「川井さん、でも僕達のせいでもあるんだよ」


「私達の?」


「彼等の成績では中学校の特進では通用しないのは薄々気が付いていたよ。

実力以上の環境に置かれて焦りからこんな事になったんだろう」


「そうね」


「畜生!馬鹿にするな!」


「川井!あなた許さないわよ!」


逆上した2人が孝と川井さんとに襲いかかる、その時。


「貴様ら何をやっとるか!」


教室に入って来た担任によって二人は観念した。


北川と中西の2人は2ヶ月の停学になり学校から一般コース行きが命じられた。

青木君と川井さんは学校と掛け合って停学を取り消してもらい一般コース行きだけにして貰った。

更に退学しようとした2人に孝と川井さんの懸命の説得で一般コースでやり直す事になった。


「どうして孝はそんな奴等を助けるんだ?」


佑樹が聞いた。


「僕と瑠璃子の罪でもあるんだよ」


孝はそう答えた。



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