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怒りのじいちゃん達

いよいよ6時前になり俺はそわそわしていた。


「ごめん母さん、ちょっとトイレ」


俺はベッドから立ち上がり付き添う母さんを押し留め1人個室のトイレに行く。

パジャマから例の物を出そうとしたら何かいつもと違う物をはいている事に気がつく。


「これ紙おむつか?」


当時は珍しかった大人用紙おむつをはいている事に驚き、用を済ました後ベッドに戻った。


「母さん僕、紙おむつしてたの?」


「そうよ、だって浩二意識なかったから。

今パンツに替える?」 


「今は止めとくよ由香が来たら大変だ」


「あら紙おむつを交換するときも由香ちゃんいたわよ」


(何ですと?由香に見られた?)


「由香見たの?」


「何を心配してるの、もちろん履き替えは看護婦さんがしたのよ。

でも由香ちゃんにお尻は見られたわね」


「ぐお!」


「大丈夫よ、由香ちゃんはお医者の娘さんでしょ?何にも感じてないわよ」


(そんな問題じゃない。俺が恥ずかしいのが問題なんだ)




「失礼します」



部屋をノックする音に続いて聞き覚えのある声がした。


「はいどうぞ」


母が返事をすると病室の扉が開く。


「浩二君....」


「由香」


「浩二君!!」


由香はベッド脇に膝立ちになり、俺の手を握った。


「浩二君がしゃべってる!起きてるよ!ママ浩二君が私の名前言ってくれたよ!」


もう後は声にならない、由香はただ泣きじゃくる。


「浩二君」


「はいおじさん」


「良かったよ...

言いたい事は山程あるが今は1つだけにしておく。 

君の事を心配する君の家族がいるように、

由香の事を心配する私達家族がいる事を忘れずに今後は行動しなさい!

分かったか!」


「あなた...」


「君は浩二君のお母さんと談話室でお話しして来なさい。私は主治医と話しをして来る」


そう言い残して由香のお父さんは病室を出ていった。


「山添さん、後は由香に任せて少し外しましょうか」


「そうですね」


お母さん同士も病室を出て行き、残されたのは俺と由香の2人になった。

さっきからずっと由香の頭を撫でている。

10分ぐらい経っただろうか由香の泣き声が落ち着いて来た。


「由香」


「浩二君...」


「おじさんに怒られちゃった」


「うん...」 


「心配かけたね」


「ううん」


「助けに来てくれてありがとう...」


「うん」


「これからずっと一緒だよ...」


「うん」


「由香、好きだ」


「うん、私も」


俺と由香はただ見つめ会う。


「浩二いるか?」


その時病室の外から父の声がした。


「はい」


俺の返事に病室の扉が開き、父を先頭に家族が入って来た。


「浩二」


「はい、父さん」


「良かった。本当に良かった」


それだけ言うと横を向いた。涙が出そうだったのだろう。

次に兄貴が立った。

夢で見た中年じゃない13歳の兄貴だ。


「浩二」


「兄さん」


「僕を1人にしないでよ...」


「兄さん...」


「僕を1人にしないでよ!僕達は兄弟だよ。

浩二は生まれてからずーと一緒に暮らしてきた

たった1人の僕の大切な弟だよ!

だから、僕を、僕を1人にしないでよ!」


兄貴は静かに涙を流し続けた。


「兄さん...ごめんなさい」


ばあちゃんは父さんに支えられて話せる状態じゃないみたいだ。

痛々しくて心が痛む。


「浩二」


「じいちゃん」


「バカもん!!!命は粗末にするもんじゃないわ!!!」


とんでもない大声が廊下にまで響き渡った。


「いいか、どんな優れた作戦でも最後の詰めを誤ると取り返しがつかんのじゃ!

もしやられたのが橋本さんや川口君なら貴様はどう責任を取るつもりだったんじゃ!!

今後は気を付けい!分かったか!」


「はい!」


思わずベッドの上体の背筋が伸びる。

何故か後で父の背筋も伸びている。


「助かって良かった...」


「じいちゃん。」


じいちゃんは俺に背中をむけて呟いた。


「浩二、儂より先に逝かんでくれ。頼む」


俺は涙を堪える事が出来なかった。


「何ですか今の大声?」


「おじいちゃんでしょ!」


そこに病室の外にいた3人も帰ってきた。

2家族が勢揃いして病室は賑やかになった。


「失礼します...」


暫くして由香と同じ位の女の子を連れた女性が入って来た。

 川井瑠璃子さんと川井さんのお母さんだ。

 

「この度は申し訳ございませんでした!!」


突然2人は土下座をした。


「川井さん何をなさるんですか!」


慌てて由香の父親と俺の父親が2人を立たせた。


「この度は浩二さんをとんでもない事に巻き込んでしまいました。ご家族に多大なご迷惑をお掛けしました。お詫びのしようも御座いません」



「まあ待ちなさい」


じいちゃんが川井さん母娘に近づく。


「川井さん」


「...はい」


「浩二に助けてもろたんじゃろ?」


「はい」


「浩二」


「はい」


「助けて後悔はしとらんじゃろ?」


「はい!」


「ならそれでええ...」


「しかし...」


「当人がええと言うとる。だからこの話は終わりじゃ」


「由香...」


「瑠璃ちゃん...」


「ごめんなさい。私はあなた達を利用しました!」


「利用?」


「入学式からみんなを惹き付ける浩二君の笑顔を利用してお母さんを元気にしてもらいたくて浩二君や由香さんを快く思ってない北川君や中西さんを焚き付けてあなた達に近づきました。

ごめんなさい!

でも青木君は悪く無いの!私が青木君を無理やり巻き込んだの!」


「知ってたよ。ねえ浩二君」


「ああ」


「だって瑠璃ちゃんお母さんに元気になって欲しくて一生懸命だったもんね」


「由香...」


「瑠璃ちゃん1つ確認」


「え?」


「瑠璃ちゃん浩二君の事好きじゃないでしょうね」


「え?え?」 


「答えてね」


(由香怖いよ)


「確かに最初は浩二君の笑顔に惹かれだけど由香と強く結ばれてるのを見てるとそんな気も無くなったよ。

それに私は元々青木君が大好きだし」


「良かった」


「さあ若い者の話はついたところで橋本さん、

浩二の状態はどうじゃった?」


「ええ顔面の打撲は内出血はしてますが骨折はしてませんでした。

頸椎捻挫の疑いがありますのでしばらくは首のコルセットは外せませんが。

その他は本日精密検査ですが私の見解では大丈夫でしょう」


「そうですか良かったのう。

最後に川井さんあの男はどうなったのかね?」


「はい、あの男は逮捕されました。

しかし初犯ですから起訴されても執行猶予がつく可能性が高いと弁護士に言われました」


「ふむまだまだ危ないのう。

儂の大事な浩二に手まで出しおって、

ばあさん、許せるか?」


「許せるか訳ありませんよ、ねえおじいちゃん?」


じいちゃんとばあちゃんの周りにただならぬ空気を感じる。


「どうしたの浩二君のおじいちゃんとおばあちゃんの雰囲気が...」


「僕も分からないよ」


「...これから大変ね」


「母さん、なにが大変なの?」


あの男(安道正一)よ」


「お義父さん余り手荒な事は....」


じいちゃんとばあちゃんの変化に淡々とした母さん。

一方父さんは怯えながらじいちゃんを抑えようとする。


「心配せんでええ。今回は喜兵衛さんの力も借りるからの」


「お祖父様の?」


「喜兵衛さんの人脈も使わせてもらうんじゃ許可は貰っとる」


「本当ですか?」


由香の父さんも思わず口を挟んだ。


「今回の事は喜兵衛さんも大層お怒りじゃ、喜兵衛さんが、『許されるなら自分の手で...』

まあそんな事じゃ。川井さんええの?」


「はいお願いします」


「いいんですか?」


「私達母娘だけでなく皆様にこれ程の迷惑をかけたあの男をどうして許せましょう」


瑠璃子さんも力強く頷く。


「それじゃ儂に下駄を預けて貰おうかの。さて儂らは帰るか」


「浩二、また来るからね」


「ありがとう兄さん」


「浩二君ありがとう」


「川井さん、青木君に宜しく言っておいてね」


「浩二君またおばさんの家に来てくれる?」


「もちろんです、また美味しいコーヒー淹れて下さい!」


「ありがとう浩二君」


「さて僕達も帰ろう、そろそろ帰らないと診察時間に間に合わないぞ」


「由香行くわよ」


「浩二君また学校が終わったら来るわね」


「ありがとう由香、佑樹達にも宜しく言っておいてね」


「分かった!」


「ありがとう皆さんありがとう」


検査を受ける為に母さんだけ付き添いで病室に残る。


「早く退院したいわね」


「もちろん」


退院してまた新しく初まる俺の知らない未来、俺は期待に胸を膨らませた。



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