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見つけに行くよ。


「浩二君!!」


安道のパンチを顔面に食らった浩二、1メートル近く吹っ飛ばされ、後ろにあった大きな壺に後頭部を強打し、意識を失ったのか前に崩れ落ちた。

由香は絶叫しながら浩二にすがり着く。


「浩二君しっかり!お願いよ目を開けて!」


「このガキが!!」


意識を失い倒れている浩二を更に殴ろうと安道が向かったその時、


「貴様!!!」


見た事も無い鬼の表情をした祐一が安道の顔面に正拳を叩き込んだ。 


「グオッ!」


祐一の拳が安道の頬を捕らえた。

長年の稽古で培われた祐一の空手、安道は横倒しになり吹き飛ばされた。


「この野郎よくも浩二を!」


痙攣する足で立ち上がろうとする安道に佑樹がタックルをする。

180センチ近い佑樹のタックルをまともに食らった安道は完全に意識を失った。

しかし佑樹は止まらない、馬乗りになって安道を殴ろうとした


「佑樹やめて!!」


花谷の絶叫に近い声が部屋に響いた。


「離せ和歌、俺は、俺はこいつを殺...」


バシーン!!


花谷の渾身のビンタが佑樹の右頬に炸裂した。

 

「バカ!あんたがこいつを殺したら浩二が目覚めた時にあんたに会えないじゃない!

私達も2度とあんたに会えないじゃない!

いやよ、そんなのいや!!バカ!バカ!バカ...」


花谷は泣きながら抱き締めながら止める、佑樹の拳は安道に触れる事は無かった。


「おばさんすぐに警察と救急車を!」


「橋本さん、祐一、浩二を揺すっては駄目だ。早く離れて!」


「瑠璃子!紐かロープを、こいつ(安道)を縛るんだ!」


青木が叫ぶような声で的確に指示を出す。


まもなくパトカーと救急車が到着した。

2人の怪我人が出た為すぐに傷害事件として祐一と佑樹は拘束される。


病院で意識を取り戻した安道は頬に軽い打撲だけでその他には大した外傷は無かった。

あの場面でも祐一は加減をしたのである。


当初安道は警察に『話し合いに訪れた家でいきなり現れた浩二達に殴られた。命の危険を感じたので咄嗟に反撃した物でこれは正当防衛だ』と主張した。


しかしリビングの各所に設置されたビデオカメラとテープレコーダーによって安道の主張は完全に崩された。


もちろんビデオカメラやテープレコーダーは浩二達によって設置された物だ、小学校時代の友人石田によって貸し出された各種機器の録音録画データーは証拠として申し分ないものだった。


警察は当初自分達だけで解決を図ろうとした川井家サイドを責めたが浩二が警察署に行った時に録音したマイクロカセットテープの音声を花谷さんのおじいさんのコネで警察の上部に提出すると彼等は自らの非をしぶしぶながら認めた。


佑樹と祐一の拘束も一晩で解かれたのだが、



浩二の意識は戻らない。



あれから3日が過ぎた。


「おはようございます」


「おはよう由香ちゃん」


病室に入り由香が浩二の母に挨拶をする。

努めて明るい声を出すが2人、しかし両目が真っ赤に腫れている。


「どうですか?」


「まだダメみたい、お医者が言うには脳に異常は無かったって言うんだけどね」


昨日と全く同じ会話をしている2人、何か話さないと気か触れそうなのだ。


「さあ由香ちゃん早く学校に行きなさい、意識が戻ったらおばさん真っ先に学校に電話してあげるから」


必死の笑顔で由香に笑いかける。


「わかりました、また帰りに寄ります」


そんな浩二の母にこれ以上心配かけまいと由香も学校に向かう。


病院は浩二の母が殆ど付き添っていた。

食事や着替えを取りに自宅に帰る時だけ浩二の祖母と交代するだけの生活。

浩二の母も3日間全く寝ていない状況が続いている。

病室は面会謝絶にされていた。

そうしないと面会希望する友人達で大変な事になるからだ。


「おはよう」


「おはよう由香」


「おはよう、どうだ浩二は?」


学校に着いた由香は校舎に入るなり2人に捕まる。

意識が戻ってないことは知っているが聞かずにいられないのだ。


「畜生俺が、俺がもう少し警戒すれば...」


「佑樹...」


「・・・・ごめんね私教室に行くから」


もう由香も限界だった、佑樹と花谷の言葉も耳に届かず返事を返す事なく1人教室に向かう。


「・・・おはよう」


教室に入る由香、その異様な雰囲気に誰も返事を返す者はいない。

川井瑠璃子と青木孝は事件以来学校の別教室で1週間の謹慎授業となった。


警察沙汰になった以上学校側として何も処分しない訳に行かなかった。

(他の生徒の好奇の目から逸らす為もある)。


昼に祐一達と食事をするが由香は殆ど食べない。

最初は何とか食べさせようとしたが吐いてしまい今はそっと見守る事にしていた。


やがて下校の時間となる

補習授業が終わると由香は病院に走った、後は面会時間ギリギリまで浩二の傍に居るために。


浩二の病室に入る由香、ベッドの傍らに朝と変わらず浩二の母がいた。


「おかえり由香ちゃん」


「ただいま戻りました、お母さん」


「あらお母さんだなんて」


「あ、ごめんなさい...」


「謝らなくていいのよ、家は男の子2人だから嬉しいわ」


立ち上がろうとする浩二の母だが疲労で崩れ落ちた。

 

「おばさま!」


由香はすぐにナースコールを押して看護師に来てもらった。


診察の結果は疲労による貧血だった。

すぐに別室に運ばれた浩二の母はベッドに寝かされ点滴を打って貰った。


「こんな時に、ごめんね由香ちゃん」


「いえ、大した事じゃなくて良かったです」


「しばらく浩二を見ててあげてくれる?」


「もちろんです、お母さん(.....)


由香は手を握りながら笑顔で浩二の母に返事をする。


「ありがとう、由香...」


安心したのか浩二の母は笑顔で眠りについた。

病室に戻る由香。浩二と2人きりになる。


「浩二君」


ベッドの脇に座り小さな声で語りかけた。


「浩二君いつか言ったよね、変わる前の未来の時は私と結ばれてるか聞いた時に『それは言えない』って。

あれって結ばれてないって言ってるのと同じだよ。

でもこの未来、浩二君は私と一生一緒にいるって言ってくれたよね?

嬉しかった・・・・・ねえ私凄く今・・・悲しいんだよ、浩二君がいないからだよ。

・・・浩二君の中に入って見つけに行くね」


由香は浩二とおでこを合わせて呟き続ける。


「・・・浩二君」 「・・・浩二君」 「・・・浩二君」 「・・・浩二君」


「・・・帰ろう。浩二君・・・」


由香は泣きながら浩二の唇にキスをした。



・・・その夜浩二の意識は戻った。

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