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因縁の名前

仁政中学に入り最初の夏休みを迎えた。


学校で特進コース夏の補習授業を受けた後自習室で夏休みの課題をしていた。

今自習室にいるメンバーは由香、俺、川井さん、青木君の4名だ。

他のクラスメートは特進コースの自習室か自宅に帰っていた。

佑樹と花谷さんはクラブの合宿で夏休み中殆ど顔を会わしていない。


「ねえ今度はみんな私の家で勉強しない?」


クラスメートの川井瑠璃子が言った。

意外と川井さんと由香は気があったみたいで自習室でも机を並べて勉強していた。

しかし出会った経緯があるから心の底では警戒を解かない由香、さすがだ。


「いいな最近川井の家に行ってなかったな。お母さん元気か?」


「元気よ、最近はすっかり立ち直ったみたい」


青木こと青木孝君は川井瑠璃子さんと仁政の幼稚園からの友人だから川井さんの家庭にも詳しそうだ。

この2人の家がある駅は我々の家がある駅から電車で二駅離れた場所だった。


「ねえ由香達もおいでよ」


「どうする浩二君?」


「家に行ってもお父さんとか家族は大丈夫なの?」


俺の言葉に川井さんは少し悲しげな顔をする。

青木君も気まずい顔をする。


「何かまずい事聞いたかな?ごめん」


「ううん良いの私の家母子家庭なの」


「あ、ごめん」


デリカシーがなかった、俺は反省する。


「言ってなかったもん当たり前だよ。でもお母さんきっと喜ぶと思うんだ」


「そうだな賑やか事が大好きだった人だしな。俺からもお願いするよ山添」


「分かった、また日が決まったら教えてくれ」


学校が終わり俺達は2人と分かれて由香と家に帰る。


「ねえ浩二君どう思う?」


「どうなんだろうな」


「正直に言うね私最初川井さんを警戒してたの」


「何に警戒を?」


「浩二君に好意があるんじゃないかって」


「まさか?」


「浩二君はお兄さんと変わらないぐらい鈍感だからね」


(あんなに酷くないぞ)


「でも違ったみたい、最初は好意らしき物も感じたけど今違う。以前より浩二君といる事は増えたけど好きとかそういうのじゃないみたい」


「じゃあなんだろ?」


「分からない、元々親しく無かったのに私達への近づきかたがそもそも不自然だったし」


「分からない事だらけか、まあ青木君の頼みでもあるしな」


「そうね考えても仕方ないか」


それから数日後、俺達は川井さんの自宅に呼ばれた。


「こんにちは今日はありがとう」


「いらっしゃい。いつも瑠璃子がお世話になってありがとうございます」


「俺からもありがとうな」



「こちらこそお招きいただきありがとうございます」


「こんにちは。今日はありがとうございます」


川井さんの自宅前と思われる門の前で川井さんと川井さんのお母さんと思われる女の人、そして先に着いていた青木君が待っていた。

駅から電話したけどまさか家の前でお出迎えされるとはここまで歓迎されたら少し驚く。


「さあ皆さんあがって下さいな」


「瑠璃子、皆さんを案内して」


「はい皆さんどうぞ」


玄関の門柱を通る。

おや表札が2つ?上に古い表札で[安道]、下に[川井]、2世帯住宅かな?


案内された大きなリビングで持参したケーキを渡す。


「美味しそうなケーキですね、後でみんなで食べましょう」


川井さんのお母さんは喜んでくれたみたいだ。

その後勉強を始める。

2時間ほど経って時計は午後3時をまわる。


「さあ皆さんお茶にしましょう瑠璃子、皆さんに紅茶をお運びして」


「分かった」


ケーキと紅茶が並ぶ。俺は紅茶には詳しくないがきっと美味しい紅茶なんだろうな由香の顔で分かる。


「どうかしら紅茶は口に合いました?」


川井さんの母さんに聞かれる。


「はいとっても」


「美味しいです」


「おばさんの紅茶はいつも美味しいな」


しばらくみんなで談笑する。

川井さんのお母さんは明るい人のようだ、最初の少し疲れた感じも取れてリラックスしてきたみたいだ。


「あ、紅茶が終わったみたいですねお代わりいかがですか?」


「ありがとうございます」


「でも山添って学校では紅茶よりコーヒーばかり飲んでるな。コーヒーの方が好きなんだろ?」


「孝君!」


「あっすみませんおばさん...」


「大丈夫よ孝君、おばさんもう元気一杯よ。

確か私が飲んでいた豆が残っていたわね、

少し待っててね今おばさんが美味しいコーヒー淹れてあげる」


「待ってお母さん私も行く」


2人はキッチンに消えていく。


「何か事情がありそうだな」


「そうだね」


「プライベートな事だけど聞いてくれないか?」


「良いのか?」


「良いよ瑠璃子に許可は貰っている」


「そうか」


「あいつのお父さんは2年前に出ていってしまったんだ」


「出ていった?」


「ああ、表札に名前が2つあったろ、あいつの前の名前は安道(あんどう)瑠璃子だ」


(安道?どこかで聞いた名前だ、珍しいあんどうだな安藤じゃなく安道...思い出せない)


「それで離婚されて今は川井になられたのね」


「そうだ。川井は瑠璃子の母さんの旧姓だ。そして、出ていったあいつの父親の好きだったのが飲み物がコーヒーなんだ。

あいつの母さんは今でもあいつの父親が好きだったコーヒーを自分で淹れて飲んでいる」


「まだ好きなのかな?」


「かもしれない、女を作って一方的に出ていったあの男がな」


「青木大丈夫か?」


「すまん興奮したな」


「たぶん瑠璃子は山添の笑顔でお母さんを元気付けたくて今日呼んだと思う」


「...何となく川井さんが分かってきた」


「由香?」


「元気付けてあげて浩二君。最高の笑顔で!」


「そんな計算したみたいに良い笑顔が出るかな?」


この前まで笑顔を封印されていたのに出来るか分からない。不安だ。


「お待たせしました。さあ美味しいコーヒーよ」


川井さんのお母さんは勤めて元気な声を出す。しかし少しさっきより疲れているみたいだ。


「いただきます。良い香りですね」


匂いを楽しんだあと俺は口を付ける。


「こ、これは美味しい...」


例の喫茶店のコーヒー位?いや違う更にうまい!

何が違うんだろ豆の保管方法か?豆をを挽くミルか?それともネルが違うのか?いや温度か?


「どうかしら美味しい?」


「これは...うまいです」


俺は先程の不安も忘れ最高の笑顔を照射していた。


「な何、な、あアァ...」


「おかあさアア、うゥン...」


川井さん母娘気を失ってしまった。


「凄いわね...少し浩二君もやり過ぎかしら」


由香も少し上気した顔で言う。


「や、山添、いや今から浩二と呼ばしてくれ。頼む!」


青木君も少し壊れた。


しばらくして川井さん母娘は気を取り戻した。


「ありがとう浩二君、おばさん今度こそ本当に元気になったみたい❗」


「噂通り...いえ噂以上ねありがとう!お母さんも私も元気になれたわ!」


川井さんは俺の手を握り感謝する。

由香の方をチェックするのは忘れない。

(笑ってる、よしセーフ)


「いえ本当に美味しかったです。ありがとうございました!」


「ふふふ、今まではコーヒーを淹れたら色々楽しかった頃の事を未練がましく思い出すためだったけど未練なんて全て吹っ飛んじゃった!浩二君の笑顔を呼んだ喜びのコーヒーね!」


「そうよお母さん、嫌な事なんか忘れましょうよ、あんな奴なんか忘れましょう」


「もう瑠璃子ったらあんなやつだなんて。

お父さんでしょ[正一(しょういち)]さんでしょ」


「しょういち?」


「浩二君どうしたの?」


「正しいの(しょう)に漢数字の(いち)ですか?」


「そうよ何で知っているの?」


「お母さんあいつ医者だよ、テレビにも出たこと結構あるし有名だったからよ」


(医師、安道正一)


「浩二君!どうしたの!」


耳の奥に由香の声が響く。

聞きたくなかった因縁の名前。


[安道 正一]


前回の時間軸の時兄貴の嫁だった女の不倫相手だった男だ。



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