中学生になりました。
季節は5月、仁政中学校に入って1ヶ月が過ぎた。
仁政は幼稚園から大学までエレベーター式に上がれる一貫校。
附属小学校から上がって来た生徒と一般入試で入った生徒との学力差が大きいと祐一がぼやいてた。
もちろん内部進学で上がって来た全ての生徒が、外部から来た生徒に劣っている訳ではない。
あくまで一部の生徒がそうだということ。
特進コースは附属の小学校から上がって来た成績優秀者が20名。
入試で特進コースに合格したのが10名で、一般コースから特進コースに編入した俺と由香を含め計32名のクラス。
入学式の翌週に実力テストがあり その結果で成績順の席が決められたのは驚いた。
一学期の中間試験でクラスの席順が決まると思っていたのだ。
教壇から一番前が成績優秀者で、最後列が成績不振者となる。
目が特別悪い生徒や、病気の人間は暫定的に特別席が教壇横に設けられている。
だが逆に目立ってしまうから、特別席に座る人間はいない。
幸いな事に俺と由香は実力テストの結果、上位10番以内に入ったので、前の席を確保する事が出来た。
学力カーストは恐ろしい、中間試験からは点数が校内に貼り出されるらしいので、更にピリピリする事だろう。
俺と由香は同じクラスになるのが目的で特進クラスに入ったので、苛烈な環境に戸惑ってしまう。
特進コースの校舎は一般コースと違う校舎で、三階のフロアーに各学年の教室が並んで配置されている。
因みに佑樹と花谷さんが在籍する体育科コースは特進コースと同じ校舎の2階にある。
近くにいるのは嬉しいが、体育科と特進クラスの交流は全くと言っていいほど無い。
特進クラスの人達は体育科を運動だけで学校に入ったと蔑み、向こうは特進の人達をガリ勉と見下している様だ。
そんな事は無いと思うが、一年の俺達が学校に波風を立ててはいけないので、徐々に変えていければと佑樹達に話している。
コミュ能力に優れた佑樹と花谷さんの事だから、直ぐに状況は変わって行くだろう。
朝練で早く登校する佑樹達と始業前に会うのは、一階の廊下になった。
少し寂しいが、昼休みは学食で会えるので我慢だ。
「補習授業は大変だな、毎日二時間もあるんだろ?」
学食の定食をパクつきながら佑樹が聞いてきた。
佑樹は弁当を持って来ているが、いつも午前中には食べてしまうそうだ。
だから昼飯は学食で食べている。
いつもの4人と新たに祐一も加わり5人で昼食。
家から持って来た弁当を食べながら祐一を見る。
合格するまでの願掛けと言っていた祐一の髪は結局切る事が無かった。
祐一の髪は受験の時と同じように、後ろで束ねられている。
校則では男子の髪の毛は耳にかからない。
後ろ髪は襟足まで。
女子は肩までと厳しく決まっている。
入学式早々、祐一は職員室に呼び出されたが、何故か特例で許され無事に学校生活を送っている。
「毎日大変だよね。特進コースってクラブ活動も出来ないんでしょ?」
小さな弁当箱からミニトマトを摘まむ祐一。
着ている制服は男子用の筈なのに、何故だ?由香と花谷さんの三人で並ぶと女子の制服に見えてくる。
いや、そうとしか見えない。
「そうなのよ、クラブは全部ダメなの」
小さなおにぎり三個と唐揚げ等のおかずが入った由香の弁当箱、祐一より一回り大きい。
「マジかよ、俺には信じられねえな」
佑樹、お前はスポーツ推薦だろ?
「でもさ、同好会なら参加出来るんでしょ?」
真ん丸な海苔で包まれた直径15センチ爆弾おにぎり三個と学食のうどんを啜すする花谷さんが聞いた。
凄まじい食欲、さすがは佑樹の彼女だ。
「英会話同好会、日本歴史研究同好会、後は名画同好会の3つだけ」
指を折りながら残念そうな由香。
仁政中学は文科系のクラブも充実しており、由香と俺はどこに入るか楽しみにしていた。
特進の生徒はクラブに入部出来ない事は学校のパンフレットには書いてあったが、特進に編入する事になると思わなかった俺達はそこまで読んでなかった。
「漫画同好会とか料理同好会とかないのかよ?」
漫画は読みたいだけで、料理は食べたいだけだろ?
呆れた事を佑樹は全く。
「でも名画同好会って、色々な映画見られそうで面白そうだね」
「祐ちゃん、名画って絵画よ映画じゃないの」
「なんだつまんないな」
祐一よ、それよりお前はクラブに入らないのか?
空手部なら仁政中学にあるぞ。
「それじゃ浩二と由香が何か同好会を作れば良いのよ」
ご飯粒を頬に付けたまま、花谷さんが由香に言った。
「簡単に言うわね、特進コースの生徒が同好会に参加出来るだけで先生達に良い顔されないのよ?
自分たちで作るのは今はちょっとね...」
「残念、料理同好会期待したのに」
おい花谷!
「ところで橋本?」
「何?」
「浩二の目出し帽とマスクいつ外せるんだ?
食べ物口に入れる時だけ外すの不便だろ」
「そうだよ由香ちゃん目出し帽はまだ分かるけど
口にマスクまではやりすぎだよ」
祐一よ、目出し帽は分かるのか?
すごく不便で暑いんだぞ。
「私も先生に言ってるんだけどね、入学式以来毎日クラスの中で失神者が出ちゃったるからしばらくは校内で外したらダメですって。
徐々に外す時間を増やすからって」
「マスクは?」
「浩二君の声を聞くと思い出してちゃう生徒がいるからこれも徐々にだって」
由香よ、そんなに冷えた目で見ないでくれ。
確かに第一印象が大事と張り切ったのは反省してる。
入学式から笑顔全開で行ったからな、自己紹介の時は由香が周りの生徒達から注目を集め過ぎていたので、守る意味も兼ねて、渾身の笑みを浮かべてしまった。
「確かに、三階の教室はパニックだったらしいな」
「私達は小1年から浩二の笑顔に慣れてるもんね」
「僕はまだまだだね、浩二君を見つめ続けると凄くトキメクもん!」
こら祐一、胸に手を当てて微笑むな!
「でも川口君、不意に見たら来るよね?」
「くるな確かに。和歌はどうだ?」
「トキメキとは違うけど、頭が真っ白になっちゃうわね」
佑樹達まで来るのか?
「浩二君の笑顔って僕のいる一般クラスでも噂になってるよ」
「祐ちゃんどんな噂?」
「レインボースマイル男って」
「レインボー?虹色笑顔男?なんだそりゃ?」
「私達も意味が分からないわ」
俺はインドで修行してません!!!