夢の喫茶店! 前編
いよいよ明日は中学校の入学式を迎える。
俺達4人は由香の家で春休み最後を過ごしていた。
「あー明日か。緊張するな~」
「そうだね最初に教室入る時緊張するだろうな」
「でも私は浩二君と同じクラスって分かっているから気持ちは楽よ」
「そうね私も佑樹と一緒だって分かっているから気分は楽よね」
緊張する俺達と違い女子達は落ち着いていた。
「でもよ他のクラスメート気になるよな。良い奴ばっかりじゃないだろうし」
「そうだね、後担任はどんな人かとか」
「悩んだところでクラスメートも担任も決まっているからどうしようもないけどね」
「そう言う事ね、由香明日の荷物は大丈夫?」
「明日の荷物って?」
由香は花谷さんの言葉を聞き返した。
「何か入学式の後に簡単な学校説明があるからノートと筆記用具持参って書いてあったわよ」
「大丈夫。全部用意してあるよ。
鉛筆に消しゴムみんな新調したんだから」
「そういえば中学校からシャーペンも解禁だね」
「シャープペンシルって芯がポキポキ折れるから私苦手なのよね」
「そうだ昔浩二が言ってた細い芯のシャーペン駅前の文具店で売ってたぞ」
「え?本当!」
佑樹の意外な言葉に俺は思わず大きな声になった。
「ああ、和歌と駅前に行った時に文具店で見つけたんだ」
「知らなかった、まさかあの店にあるなんて。
塾の帰りよく行ってたのに」
「今から買いに行く?」
由香は俺がすぐにでも買いに行きたいのが分かったみたいだ。
「みんないいの?」
「和歌と俺はかまわねえよ、昼飯食べに行くところだったしな」
「私も良いわよ」
「駅前で丁度昼過ぎだからな和歌」
「そうね、昼過ぎだわね佑樹」
佑樹と花谷さんは顔を見合せ笑う。
「どうしたの和歌ちゃんと川口君ニヤニヤして」
「いや何でもない、早く駅前に行こうぜ」
そして俺達4人は駅前の文具店に出掛けた。
駅前の文具店は大きな店で子供の好きそうな練り消しゴムやフャンシーな蛍光ぺんから製図用品、画材まで扱う店だった。
「あ、あった。これだよ。佑樹ありがとう」
「へえこれが浩二君の言ってたシャープペンシルとその芯か、見た目そんなに普通のと変わんないね」
「でも由香見てこの芯」
「細いね、0.3ミリ? 私0.5ミリでもすぐに折れちゃうのに!」
「由香、慣れだよ慣れ」
「浩二君 初めて使うのに?」
(しまった前回の時間軸の時に大学時代から愛用していたからつい!)
「橋本、使ってるうちに慣れるって事だろ」
「そっかそう言う事だね」
(佑樹ナイス!)
「ありがとうお陰様で良い買い物が出来たよ。
今1時過ぎだね遅くなったけど何か食べに行こう」
「私腹ペコ。和歌ちゃん今日は大人しいね。いつもは『お腹空いたー死ぬー死ぬー』って騒ぐのに」
「由香あんた最近毒舌ね。でも私は怒らない。
ね、佑樹」
「ああ、空腹も最高のスパイスさ。早く行こうぜ!」
「佑樹、もう店決めてるの?」
「ああ、浩二も知ってるあの店だ!」
文具店を出るなり走り出す佑樹と花谷さん。
後に俺と由香も続こうとするがスポーツ万能の佑樹達についていける訳がない。
「和歌ちゃんも川口君も早いよ。待って!」
「悪いが待てない!」
「ごめんね由香!」
「おーいどこの店に行くか言っていけ~!」
俺は消えて行く佑樹の背中に叫ぶ。
「喫茶店~!!」
(あの喫茶店に佑樹達行ったんだ?あの店の料理食べたんなら。成る程納得。)
「分かった先に行っといて!あ、2人共もういない」
「浩二君、喫茶店って?」
「ああ、由香とはまだ行った事なかったね。
中学生になったら一緒に行こうて思っていたんだ」
「え?でも川口君には教えたんでしょ、ズルイ」
由香は頬を膨らませて俺を見た。
「僕と一緒に行った訳じゃないけどね。
あの2人ってどう見ても小学生に見えないでしょ」
「もう小学生じゃないけど。まあ確かに高校生でも通じそうね」
「ここだよ」
話をしているうちにお目当ての喫茶店に着いた。
「へえ古い洋館みたいな建物ね。でもガラスもピカピカ扉もきれいね」
「さあ入ろうか」
「うん」
俺は喫茶店の扉を開けた。
「お待ちしておりました浩二君。お連れ様はあちらのテーブルです」
「ありがとうマスター、久し振り。
紹介するね、橋本由香さん。僕の、僕の彼女です...」
「は、初めまして。はひ、橋本由香です。
宜しくお願いします」
俺と由香の初々しい自己紹介を優しい目で見つめてくれるマスター。
「ははは、頭を上げて下さい。お客様に頭を下げられたら困ってしまいます。
あなたの事は浩二君からよく聞いておりますよ。
私がこの店のマスターです。今後とも宜しく。
さあ、あちらのテーブルにどうぞ」
「よ!俺達はもう決めたぜ、浩二達も早く決めてくれよな」
マスターの案内で席に向かうと既に椅子に座り俺と由香を待つ佑樹達がいた。
「まだメニューも見てないのに無茶言うね。
由香何にする?」
「えー沢山あるわね、二人のオススメは」
「「ミックスフライとハンバーグ」」
「え?どっち?」
「「どっちも!」」
「分かんないから浩二君と一緒で良いや」
「良いの?」
「うん、私苦手な食べ物ないし」
由香は何でも好き嫌い無く食べる女の子なのだ。
「分かったそれじゃ注文するよ。佑樹達から先に言ってね。すみません!」
「はいお決まりですか?」
「カツカレー大盛り!」
「私はスコッチエッグ定食ご飯大盛り!」
「和歌ちゃん大盛りって....」
「由香ここで恥じらいは不要よ」
「和歌ちゃん....」
鼻息粗くする花谷さんの姿に驚く由香。
「僕達はハヤシライスを2つ下さい」
「かしこまりました。お飲み物は?」
「食後にまた注文します」
「かしこまりました」
「うー楽しみ!」
「あぁ、この店のカレーは期待度が高いぜ」
2人共涎を垂らさんばかりに興奮している。
いや、既に2人共垂れていた。
「ハヤシライスってトマト味だよね」
「そうだよここのハヤシライスはしっかり煮込まれたデミグラスソースにトマトが合わさって絶妙なんだ」
「楽しみ!」
「お待たせしました。カツカレー大盛りとスコッチエッグ定食の大盛りになります。
ハヤシライスは後5分程お待ち下さい」
「さ、先に食べるぞ」
「ごめんね由香、待ては出来ないわ」
「ど、どうぞ」
由香の声を聞くのを待たず料理に飛び付く2人。手を出すと噛まれそうだな。
「うわーカツがサクサクでカレーの辛みと絡んで堪らん。そしてルーの肉が柔らかい事、柔らかい事」
カレー食って泣くなよ佑樹。
「えっ!卵半熟?嘘初めて見た!
母さんのスコッチエッグ中までカチカチなのに。
美味しい!周りのミンチに黄身からめて、最高!そしてこのソースに全て絡めると、ご飯が止まんない!!」
「和歌ちゃん...」
口の周りを玉子の黄身とソースで丸く塗ったようになりながら笑う花谷さんの姿に言葉を失う由香。
「由香見てはいけない。
今彼女は理性をどこかに置いてるだけだ。
しかしスコッチエッグをあんなにきれいに割りばしで割るとは凄いな」
「お待たせしました。ハヤシライスでございます」
「わあ美味しそう。いただきます」
由香と俺の前に美味しそうなハヤシライスが置かれた。
由香は綺麗な所作でハヤシライスをスプーンで掬い口に運ぶ。
「えっ?何私のしってるハヤシライスじゃない。
美味しい!トマトが隠し味になってる!
このルーがデミグラスソースってトマトに絡まり...あぁ、うまく言えない!」
「由香、美味しい時は[美味しい!]だけで充分だよ」
「そうね、マスター美味しいです」
「マスター最高!」
「ガツガツ、ん!」
花谷さん何か言ってね。