表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/229

夢のお店だ!


「ありがとう佑樹、今日は朝から付き合わしちゃって」


春休みの昼下がり花谷和歌子は川口佑樹と駅前の薬局に来ていた。

今は街のあちこちに大きなドラッグストアがあるが、昔は町の小さな薬屋が全盛で新製品や変わった医薬品は取り寄せが主流だった。


「構わねえよ。俺も調度切らしていたからな」


佑樹はスプレーの消炎剤を買い物籠に入れている。

和歌子の買い物籠には新製品の半透明消炎湿布薬が入っていた。


「やっぱり駅前よね、品揃えが全然違うわ」


「そうだな和歌の湿布薬初めて見たぜ」


「薄くて半透明だから目立たないけれど

やっぱり湿布薬は白くてしっかりしたのじゃないと効かないって思ってる人が多いのね。

どうして笑ってるの?」

 

「いや湿布薬の見た目を気にするなんて和歌も女の子なんだなって」


「当たり前でしょ!佑樹は私にどんなイメージ持ってるの?」


「1センチ角に切った白い湿布薬をこめかみに貼るイメージかな?」


「それいつの時代よ!」


「冗談だよ、冗談。ところで買い物はここで終わりか?」


「まったく佑樹は...さっきのお店で手拭いも買ったし。ここで終わりね。」


「そうか、俺もう腹ペコだ、早く駅前のハンバーガー屋に行こうぜ」


「そうね。私シェイクが飲みたいわ」


薬局で会計を済ませると2人は行きつけのハンバーガー店に向かった。


「うわぁ...」


「凄いな」


店内は満席で注文を待つ客の列が店の外まで溢れていた。


「今日が日曜日だって忘れてたわ」


「学校が休みに入ると曜日感覚狂うよな、どうする並ぶか?」


「止めとく」


「いいのか?和歌シェイク飲みたかったんだろ?」


「こんなに混んでたら並んでいるお客さんが気になって落ち着けないよ」


「それもそうだけど、日曜日の昼下がりだから食べ物屋さんなんか休みか混んでるかだぞ」


「どうする?一旦帰って何か食べてからまた遊ぶ?」


「いやせっかく朝から和歌と夕方まで2人っ切りだからな、俺は離れたくないし。

どうした赤い顔して」


「たまに佑樹って恥ずかしい事サラッて言うのね」


「本音だからな。さて、ダメだ。ここのレストランも混んでる。

仕方ない駅前を歩くか、良さそうな店があったら入ろう」


「そうね」


しばらく駅前を歩く2人、10分ぐらい歩き回るが良いお店は見つからない。

表通りを離れ裏の筋に入ってみる。


「お?」


「佑樹どうしたの?」


「そう言えばあそこにみえる喫茶店」


「喫茶店?」


「うん。1度浩二に教えて貰ったんだよ。

『美味しいコーヒーとケーキが食べられるお店だから花谷さんと行きなよ』って。

間違いない浩二から教えて貰った店だ。 場所も名前も間違いない」


「美味しいケーキは魅力だけど、お腹が空いてるから残念だけどまた今度ね」


「でも看板に喫茶、軽食って書いてるし入ってみようぜ」


「私達だけで?」


「大丈夫だ、浩二は大体一人で来てるってよ。

さあ行こうぜ」


「分かった手を引っ張らないで。

...何で手を離すの。」


「こうか?」


「うん!」


二人仲良く手を握りながら佑樹が店のドアを開ける。


「いらっしゃいませ」


日曜日の昼下がり喫茶店は平日と違い店内は逆に空いており、客は誰もいなかった。


少しためらった2人だが、佑樹は浩二が

『とてもいいマスターだから緊張しないで、なんなら僕の名前を言ったら良い席に案内してくるかもよ』そう言っていたのを思い出した。


「あの浩二、山添浩二君がここのお店が凄く良いよって」


「浩二君の紹介ですか?

いらっしゃいませ。ひょっとして川口佑樹さんですか?」


浩二の名前を聞いたマスターは親しげに佑樹の名前を尋ねた。



「え? 何で俺...僕の名前を知っているんですか?」


「浩二君から教えていただきまして、そちらのお嬢さんが花谷和歌子さんですね」


「わ、私の事も?」


「はい、『大きな男の子と芯の強そうな女の子が僕の名前で訪ねてきたら宜しく』と」


「浩二らしいな」


「そうね」


浩二らしい配慮に思わず2人の笑みが溢れた。


「さあ入って下さい。ご案内いたします」


「おじゃまします」


「失礼します」


2人は店奥のテーブルに案内される。

テーブルに置いてあるメニューを広げる。

その様子をみたマスターはお水をテーブルに置き。


『決まりましたらお声かけを』


と言うとカウンターに戻って行った。


「わ、すっげえ軽食って書いてあったからトーストとか茹で玉子かサンドイッチ位と思ってたらレストラン並みのメニューだよ」

 

「どれも美味しそうなイラストが書いてるし何にしようか迷うわ」


「分からないからミックスフライ定食にする」


「何その決め方。じゃ私はハンバーグ定食にしようっと」 


「よし呼ぶぞ、すみません」


佑樹はカウンターに向かって声をかけた。


「はい、お決まりですか?」


マスターはすぐに注文を聞きに来た。


「はい。ミックスフライ定食とハンバーグ定食で二つともご飯大盛りで!」


「ちょっと何で私まで大盛りにするの?」


「いつも大盛りじゃん」


「言わないの!」


クスッとマスター笑いながら、


「はい。ミックスフライとハンバーグの定食でライスが大ですね。かしこまりました」


オーダーを復唱してカウンター奥に戻って行く。


「もう佑樹ったら」


「すまんすまん。次からご飯少し大盛りにって言うから」


「どんなのよ、少し大盛りって」


「俺にも分からん」

 

佑樹と和歌子が不思議な会話をしているとマスターが2つのカップを並べた。


「どうぞコンソメスープです」


熱々のスープがテーブルに置かれる。


「「ありがとうございます!」」


先程から空腹の限界を迎えつつあった2人、置かれたコンソメスープに飛びつく。


「うっま!」


「美味しい!」


それは鮮烈な味だった。

スープと言えばコーンスープぐらいしか知らない2人にとってコンソメの香りは感動を呼ぶ。

あっという間に飲み干す2人。


火傷しないのか?


「和歌これは...」


「期待出来るわね」


2人おでこを引っ付けるように顔を近づけ囁く。


「お待たせしました」


「わ!うまそう!」


まず最初に来たのが佑樹のミックスフライ定食

お皿の上にはキャベツの千切りにカットトマトの横にエビフライ、白身魚のフライ、メンチカツが熱々に揚げられていた。

ミックスフライ定食のお皿の脇には特製のウスターソースとタルタルソースが置かれた。

もちろん二人分の大盛りご飯も一緒に。


「和歌先に食べるがいいか?」


「良いわよ早くどうぞ」


鼻息荒い佑樹の様子に少し怯えながら和歌子は返事する。


「熱!うんまー!エビっぷりっぷりじゃん!」


タルタルを付けたエビフライを一口かぶるなり叫ぶ佑樹。


「和歌少しやるよ」


佑樹がエビフライを差し出す。

いつもなら

『いやよあんたと間接キスなんて』と怒る和歌子だかうまそうに食べる佑樹の様子と 先に和歌子の分も来た熱々の大盛りご飯が和歌子の心から[我慢]の文字を消していた。


「な、何これ!?美味しい!」


「だろ?旨いだろ!」


2人は感動しながら次々と佑樹のフライ定食をを分ける。


「お待たせしました。ハンバーグ定食です」


「わあ!」


「これは!」


丸く整形されたハンバーグ。そして掛かったソースの黒さに驚く2人。

今は一般的なデミグラスソースだが40年近く前はケチャップが多かった。

初めて見るドロッとしたソース。

だが、先程から次々提供される至福の料理に2人は確信していた。


「「ここの料理にハズレなし!」」


フォークとナイフを使わず(上手く使えない)割り箸で器用にハンバーグを切る。

中から溢れる肉汁。

和歌子はソースを絡めてご飯の上に置き素早く一緒に掻き込む。

[野獣だ!]彼女からマナーの文字は消えていた。


「ど、どうだ?」


「...私が今まで食べてきたハンバーグ何だったの?

油要らずのフライパンで焼くだけハンバーグに喜んでいた私は何だったの?

大変だ明日からここ以外のハンバーグ食べられるかしら?」


「そんなに?」


「食べてみる?」


「いいのか?」


「佑樹のミックスフライも大分食べたし」


「そうか」


ハンバーグを口に運ぶ。

その瞬間佑樹の目がカッと開く。


「...和歌子の表現が決して大げさじゃないぜ」


「でしょ?」


2人の様子をカウンター奥から優しく見るマスター。

先程ハンバーグ定食を持って行った際コンソメスープのお代わりもサービスする優しい人だった。


「終わりか」


「終わりね」


空になった皿を見つめ呆然とする2人。

皿にはご飯粒1つすらキャベツの切れ端1本も残っていなかかった。


「ご満足頂けましたか?」


皿を下げに来たマスター。


「「はい!」」


元気一杯返事をする2人。


「食後は飲み物何に致しますか?」


「「あ」」


すっかり忘れていた2人 定食には食後の飲み物が付くのだ。


「俺コーヒーホットで」


「佑樹コーヒー大丈夫?」


「俺コーヒー好きだぜ」


「そうなの?」


「親父がコーヒーに凝っててよ。和歌は?」


「私はこの抹茶って出来ます?」


「ええ追加で100円になりますが」


「じゃそれでお願いします」


「かしこまりました」


「おい、和歌 抹茶ってあの茶道のチャカチャカ混ぜるあれか?」


「チャカチャカって佑樹あんたね」


「うまいのか?」


「美味しいわよ」


「飲んだ事あるのか?」


「うん剣道の大会の後で1回飲んだの。美味しかったわ」


和歌子から抹茶を教わっているとマスターが飲み物を持ってきた。


「お待たせしました」


立ち上るコーヒーの香りにブラックで飲む佑樹。


「うま!このコーヒーうまいよ」


「ありがとうございます本日の豆はコロンビアになります」


「そっかコロンビアって豆から取った国名なのか」


逆だぞ佑樹。


「美味しい。抹茶、私が前に飲んだ抹茶より美味しい!」


「本当か?」


さすがに和歌子のカップに口を着けるのは躊躇う佑樹。


「良いわよ」


「え?」


「良いわよ佑樹なら」


顔を真っ赤にしながらカップを差し出す和歌子。

佑樹も顔を真っ赤にしながら和歌子のカップに口を着ける。

味なんか分からなかった。

マスターは決して

『新しいカップを用意いたしましょうか』とは言わない。

先日の薬師君なら言うかもしれない、いや言わない。


「ご馳走様でした」


「ご馳走様でした。今度はケーキを食べに来ます」


「ありがとうございました。またお待ちしております」


2人は店を出る。


「感動したな」


「夢みたいなお店だった」


「これも浩二の言う」


「「運命だ!」」


笑いながら2人は走って行く。


近くの運動公園に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ