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夢の時間だぜ!


「暇だ」


春休みのある日薬師明信は暇を持て余していた。

今日は白石杏子の紹介してもらった女の子達と

クラシックコンサートに行く日であった。

いつもつるむ4人組だが、今日は薬師一人が居残り組だった。

杏子が師事している先生のお手伝いで昨日からいない為一人余った男子は薬師が辞退したのである。


「しかたない駅前のレコード店に行くか」


着替えて愛用の自転車に乗り駅前のレコード店に向かった。

家の近所にもレコード屋はあるが

駅前のレコード店はかなり大きくクラシックから最新アイドルまで取り揃えており

学生からクラシック愛好家まで利用者の多い店であった。


「お、テンプテーじゃん」


薬師は最近はまっているミュージシャンのレコードを手にして興奮していた。

財布に3500円入っているがLPレコードは3000円であった。


「ええい買っちまえ」


意を決してレコードを持ってレジに向かう。

途中でクラシックコーナーで思わぬ人を見つけた。


「白石じゃんか」


「あれ?明信、偶然ね。コンサートは?」


「俺はキャンセルだ」


「どうして?」


「白石が行かないからだ」


「気持ち悪いわね」


「うるせい。今帰りか?」


「うんさっき電車で駅に着いたの。今から帰るんだけど『勉強になるから』って勧められたレコードを探していたの。

明信は?」


「俺は新入生のクラブ紹介の時に歌うレコードを探していたんだよ」


「その手に持ってるの?」


「これも候補曲だな」


「ふーん。」


「なんだよ」


「アイドルしか聞かなかった明信がねえ」


「今でも聞いてるぞ。ところで白石この後暇か?」


「まあ帰るだけだから暇だけど」


「良かったら...」「嫌よ」


「まだ何にも言ってないぞ...」


「遊びにでも行こうとか言うんでしょ。」


「違う!...事もないか。」


「やっぱり」


「いや実はこれを聞いてアドバイスを貰いたかったんだ」


薬師は杏子に1枚のレコードを見せた。


「レコード?」


「そうだよ近くに喫茶店があってなマスターにお願いしたら掛けてもらえるんだ」


「明信、あんた喫茶店なんか行くの?」


「喫茶店ぐらい一人で行くさ、って言いたいところだが浩二に教えて貰ったのさ」


「浩二に?」


「うん、あいつが見つけた喫茶店でさ、禁煙でマスターも気さくないい人なんだ」


「へえ、行ってみようかしら?」


「なら決まりだ」


薬師はレコードの会計を済ませると2人喫茶店に向かった。

喫茶店はレコード店の裏の筋にあり1分とかからなかった。


「マスター来たよ」


「おじゃまします」


「いらっしゃいませ」


いかにも常連気取りで入ってきた薬師だが実は今回で3回目で浩二のいないのは今回初めて。

しかしマスターは出来た大人なので言わない。


「マスターこのレコード掛けてよ」


「かしこまりました。ゲットレディから行きますか?」


「そうだねテンプはゲットレディからだよね」


半可通ぶってるが前回アメリカのコーラスグループ<ドリフターズ>の[渚のボードウォーク]の話をマスターと浩二がしていると。


『え!ドリフってコント以外もやってたんだ?』


と土曜8時のグループと勘違いした事もマスターは絶対に言わない。


「さ、杏子座って座って」


「何急に呼び捨て。まあいいわ、良い雰囲気のお店ですね」


「ありがとうございます。ご注文は?」


「先に杏子からどうぞ」


「あらありがとう。マスター、ココアはどちらの物を?」


「オランダです。」


「それなら私はミルクココアで。明信どうぞ。」


(オランダのココアってなんだ?

菓子メーカーのココアか強い子の麦芽飲料しか知らねぇぞ)

 

「あ、ああマスター僕、俺はブルマンにしょうかな」


「はい、かしこまりました」


「明信あんたコーヒー飲めるの?ブランドまで指名して」



「杏子、馬鹿にするなよ。コーヒーぐらい」


前回来た時コーヒー豆の話をしていた浩二とマスターの間に割り込みコーヒーのオーダーの時、[違いの分かる男]のCMのインスタントコーヒーをオーダーした事をマスターは決して言わない。


「それで最近どうなのクラブの方は」


「ああ、部員も10人に増えたし本格的な活動が出来そうだ、顧問の先生も次の学期から就くそうだし」


「がんばってるのね。マスター浩二に頼りきりかと思ったわ」


「頼りきりじゃ、

<浩二が安心して中学に行けないんだ。>」


「どこかで聞いたセリフね」


「忘れてくれ」


薬師が緩い話しを杏子にしているとマスターが注文の品を運んで来た。


「お待たせしました」


「ありがとうございます」


「ありがとう」


「良い香り、うん。美味しいです。マスター」


「ありがとうございます」


ココアを飲みながら薬師の注文したコーヒーを見るとカップが2つ並んでいる。

1つはコーヒー、もう1つにはホットミルクが入っていた。


「あれ?明信コーヒーはフレッシュじゃなくホットミルク?」


「ああ僕...俺はこうして飲むのが好きでね」


前回来た時、結局浩二と同じブルーマウンテンにしたが苦くて飲めず浩二にホットミルクを頼んで貰い砂糖を3杯山盛り入れてやっと飲んだ事をマスターは生まれ変わっても決して言わない。

因みに今薬師の前に置かれたホットミルクに砂糖山盛り3杯は溶かしてある。マスターの優しさである。


コーヒーにミルクを注ぎ入れ白石の手前砂糖を入れずに口を着けた薬師はマスターに頭を下げる。

マスターはカウンターから静かに右手を上げた。


その後薬師と白石の話は以外と盛り上がった。

やはり音楽の繋ぐ縁か6年以上の腐れ縁か。

とにかく盛り上がった。


「ありがとう明信楽しかったわ。良いのココア代?」


「ああ誘ったのは俺だ。ここは払わしてくれ」


伝票に目を落とす。<800円。>

残金は500円しかない事に気がつく薬師。

顔一杯に汗が吹く。


(白石にバレる!)観念しかけたその時。


「薬師様、代金はチケットから払わして頂きます」


マスターは静かに薬師に言った。


「チケット?」


白石が聞く。


「ええ、コーヒーチケットです。薬師様のチケットで代金を精算させて貰います」


「なんだチケットあったから奢ってくれたのね、

ありがとう明信。今度一緒に映画でも行こ。

今日の埋め合わせよ」


いたずらっぽく笑い先に店を出る白石杏子。

ニッコリ微笑むマスター。

 

「はい、レコードお返し致します」


「あ、ありがとうございます」


頭を下げて店を出る薬師。

薬師と白石はしばらく歩いた後分かれてそれぞれの家に帰った。



家に帰った薬師はレコードのジャケットに挟まれた紙を見つける。


[料金は次回にでもお支払い下さい。

楽しい時間をまた当店でお過ごしを]


綺麗な字で書かれていた。  


「ありがとうマスター!

こんな素晴らしい店を教えてくれた浩二もありがとう!」


薬師明信は夢の時間に感謝するのだった。


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マスターかっこいい!抱いてー!!
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