腹筋。
佑樹の家は俺の家から歩いて10分程の距離にある。
前回の時間軸では一度も佑樹の家に入った事が無かったが、今世は違う。
何しろ佑樹とは小1からの親友だ。
もう数え切れない程の回数佑樹の家に来ている。
そして家だけじゃない。
佑樹の家族とも交流を重ね、よくして貰っていた。
「浩二君の歳でベラフォンテが好きとは珍しいな。
一番はDay―0かい?」
先日佑樹のお父さんに借りたレコードを返しに来た俺。
珍しく家に居た佑樹のお父さん。
俺は佑樹と3人で音楽談義に花をさかせていた。
「俺も知ってるぜ、バナナボートだろ」
「そうだな、確かにそれも定番だけど僕は[マティルダ]や[さらばジャマイカ]も好きだ」
「そうか、それじゃ今日はこれを浩二君に貸してあげよう」
佑樹のお父さんはレコード棚の中から1枚のLPレコードを俺に手渡してくれた。
見覚えのあるジャケット。
前世、中古レコード屋でこのレコードを見つけ、興奮しながら購入した記憶が甦る。
「…カリプソ」
「父さん、これはとっておきのレコードだろ?
まあ浩二の事だから傷つけたりしないと思うけど」
横にいた佑樹もこのレコードが貴重である事は分かるのか。
確かにこれは日本版じゃない。
アメリカの原盤、しかもジャケットに目立つた傷も無い。
素晴らしい保管状態だ。
俺が前世買ったレコードはどうしたっけ?
…確かレコード針が生産中止になってから聴かなくなって、失くしたんだ。
「浩二、Star-0が入ってるじゃん!」
「おじさん、ありがとうございます!!」
「どういたしまして。
そこでクイズだ、浩二君!」
「は?」
突然佑樹のお父さんが人差し指を立てる。
このジェスチャーって何だろ?
何かのクイズ番組で司会の人がしてたやつかな。
「答える事が出来たらおじさん秘蔵のベラフォンテをもう1つ貸してあげよう」
「やります!」
これは断れないぞ。
「ベラフォンテの曲で日本語のタイトルは?」
「そんなの分かんねえ!」
佑樹は直ぐに降参した。
だが、俺は知っているのだ。
「ゴメンナサイ!」
「浩二も分かんねぇか」
「正解だぞ!」
「え?」
「佑樹、正解だよ[GOMENNASAI]だ」
「本当かよ?たまたまじゃねぇのか?」
「知ってたよ」
「歌い出しは?」
そう来ると思ったぜ!
「ゴメンナサイ アイム ソー ソーリー ゴメンナサイ」
「浩二君正解だ!」
「ついていけねぇ!」
些かマニアック過ぎる会話だった。
更にベラフォンテ、カーネーギーホールコンサートのライブ版まで貸して貰い、ご機嫌で佑樹の部屋に入った。
この後、由香や花谷さんと遊びに行く予定だ。
「着替えるからちょっと待っててくれ」
部屋着を脱ぐ佑樹。
そこに現れたのは佑樹の見事な肉体美。
「なんだよ…人の体をじっと見て」
「素晴らしい....」
「止めろ!」
なぜ隠す?
これは芸術鑑賞に近い感覚なのに。
「なあ佑樹」
「なんだよ?」
「腹筋見せて」
「はあ?」
「腹筋だよ!腹筋!」
「嫌だよ!」
「何で?一緒に風呂に入った仲だろ?」
「3年前の林間学舎だろ!」
確かに見たが、当時の佑樹は9歳か10歳。
今のような成熟度はまだ無かった。
いや、まだまだこれから成長していくのか…
「知らなかったよ…修学旅行は別のクラスだったから風呂は佑樹と別だった。
残念だよ」
「お前祐一の影響か?」
「断じて違う。
シックスパックは男の憧れなんだよ」
「なんだよシックスパックって?
分かんねえよ!」
「頼む、後生だ...」
恥も外見もない。
一目でも見られるならと頭を下げた。
「浩二止めろ、頭を上げてくれ...」
「それじゃ?」
「一瞬だぞ」
「ありがとう!」
「ほれ...」
恥ずかしそうにシャツを捲る佑樹。
見事な腹筋、まさに板チョコ、いや佑樹は色白だからホワイトチョコか。
「おぉ...」
「満足したか?」
「佑樹」
「なんだよ」
「触らせてくれ」
更に佑樹にお願いした。
「はあ??」
「頼む!!」
「何でそこまで?胸の筋肉なら浩二の方があるだろ?」
「胸と腹では違うんだよ」
「なにが?」
「筋肉の価値がだよ。
ブルーワーカーじゃここまでの腹筋は手に入らないんだ!
しかも佑樹の腹筋は見事な形なんだよ。
これは努力でも手に入らない」
「嬉しくねえ!」
佑樹は捲っていた服の裾を戻す。
神の造形たる佑樹の腹筋は再び俺の視界から消えて行くのだった。
「あぁ!神はお隠れに...」
「止めろ!さあ行くぞ。」
佑樹の家を出た俺達は待ち合わせの場所で由香と花谷さんに会う。
「和歌気を付けろよ、浩二は腹筋狂だ」
「何よ腹筋狂って?」
佑樹は花谷さんと会うなり、訳の分からん事を言い出した。
「詳しくは分からんが、さっき俺の腹筋を見たら浩二は異常に興奮しだしたんだ。
和歌、お前も女にしちゃ見事な腹筋だからな」
「いつ見たのよ!?」
全くだ、いつ見たんだ?
それよりも、
「佑樹、君は1つ勘違いをしている。
僕は女性の筋肉にはさほど興味は無い」
「そうなの浩二君?」
由香が不安そうに俺を見ている。
安心してくれ。
「女性の腹はどちらかと言えばプルブル…
そうだな、由香のお腹の周りぐらいなプニプニが丁度良い」
「嬉しくない!
それにいつ見たの?」
「内緒」
「わたしは悔しくない!」
「やっぱり祐一の...」
断じて違う!