第1章[表]・クラス分けテスト③
一瞬のうちに同時に射られた3本の矢
同じ弓から放たれたはずの3本の矢は全てが真っ直ぐに教師へ向かって飛んでいく
この時点でこの女生徒が弓を扱うことに秀でているのが分かる
なんせ普通の人ならば1本であっても真っ直ぐに飛ばすのは困難であろう矢をいとも簡単に、しかも同時に3本を真っ直ぐ飛ばしている
というよりどうやって飛ばしているのだろうか?
周りの意識のある生徒がそんな疑問を抱く中、3本の矢は教師に直撃する直前で教師の手によってなんてことはなく掴みとられる
「ふむ、なかなかの腕前のようだ。だがこんな単調な攻撃では私には通じないぞ?」
「もちろんそれは理解しておりますわ。わたくしの持つ矢が尽きるまでわたくしの技量、めいいっぱいお見せ致しますわ」
そんな会話を交わす舞台の上の2人
教師は掴み取った矢をそのまま捨てると女子生徒の次の攻めを待つのかその場から動かない
といっても今まで教師はこの模擬戦において戦闘中は1歩足りとも最初の位置から動いていなかったりする
舞台に上がってからも教師が動いたのは気絶した生徒を場外へと運ぶ時のみ
つまり初の遠距離武器を前にして教師はどのように動くのか、という新情報をこの模擬戦によって得ることが出来る
だが残念なことに勇斗は近接戦闘しか行えないのでほとんど参考にはならないし、他の残っている生徒達を見ても誰一人として遠距離用の武器を手にしている者はいないためにこの試合は残りの者にとってはさほど良い情報源とはならないだろう
勇斗含め一部の戦意を失っていない生徒達がそう考えながらも観戦している間にも教師と女子生徒による模擬戦は続いていく
女子生徒が2度目の攻撃に用いたのはこれまた3本の弓矢
だが今回は真っ直ぐに飛ばすのではなく上空へ向けて射る
知識が無い者からすればこの女子生徒がいったいどこを狙って矢をはなったのか分からないだろうが勇斗はこの行動の意図をすぐ理解する
(これは…曲射かな。余程技術力があるんだろうなぁ、僕が知っている情報だとほぼ真上への曲射は相当難易度が高いらしいのに)
勇斗の考え通りに曲射を行ったあと、すぐさま間を置くことなく女子生徒は舞台の中心に立つ教師の周りをぐるぐると回りながら何度か矢を射る
しかしそれは当然の如く教師の手によって掴み取られる
ここで教師が矢を避けずに掴み取っているのは場外にいる生徒に矢が当たってしまうことがないようにというためだろう
はたまたわざわざ掴むことで女子生徒を焦らせようとしているのかもしれない
そうして時間が経つにつれ所持している矢の数を減らしていく女子生徒であるが、動きから察するに教師の意識が自分から外れるタイミングを狙っているのだ
そうさっき上空へと放ったが降りそそいでくるタイミング
このタイミングならば一瞬ではあるが教師の意識が上の方へと逸れるはず
そう考えた女子生徒の思惑通りに矢が降ってくるそのタイミングで教師の意識が女子生徒から上へと逸れるのが分かる
「これで決めますわ!」
そう宣言した女子生徒は矢筒から残りの矢をとると何本も連続で射ったあと、あきらかに他の矢とは違う矢を取り出すと僅かな溜めののち手を離す
そのあきらかに他の矢よりも細く、先の鋭い矢はその矢の前に放たれた普通の矢によってその姿を隠し飛んでいく
(これは当たる!)
その様子を見た勇斗はそう確信する
だが現実はそうはいかなかった
ブンッッツ!
そう何かを大きな物を振り回したような音が聞こえた瞬間
教師に向かって飛んでいたはずの矢が何か強制的な力を上から受けたかのように舞台の上へと落ちる
上空から教師を狙っていた矢も舞台の上
そして特別な矢は教師の手の中
流石にこの様子には女子生徒の方も僅かばかりの驚きを見せるがすぐに分表情をもとに戻す
そして勇斗も少し驚きを露わにすると同時にさっきの音の正体を推測したことで軽く冷や汗が流れる
あの音の正体
勇斗の推測が間違っていなければ教師から発されたものであり、より詳しく言うならば…そう、ただ手を上から下に振り下ろしただけの動作によって生まれた音なのかもしれないのだ
そして恐ろしいところはこの教師の動作
勇斗には一切見えなかった
つまり勇斗に見えない攻撃を教師はいとも簡単に行えるという事実
これすなわち、模擬戦での近接戦闘において5分間の耐久は極めて困難であることを意味する
そんなことを考え焦りを見せている勇斗の耳に教師の声が聞こえてくる
「なかなかいい作戦だ。俺が上に意識を向けた瞬間に本命を混ぜた攻撃を仕掛ける。まぁ私には通じんがな!ガッハッハッ」
そう高笑いする教師
だが今回に限っては女子生徒の方が1枚上手だったようだ
「わたくしもこのような攻撃で貴方から1本とれるとは考えてもいません。わたくしの狙いは別ですわ」
そう女子生徒が告げると同時にストップウォッチの音がアリーナに鳴り響く
その音を聞いて女子生徒は笑みを浮かべ告げる
「制限時間は5分、これで模擬戦は終わりですわね?」
それを聞いて勇斗はやっと気づいた
この女子生徒の狙いは最初から教師に一撃を加えることではなく5分間戦闘不能にならずに耐えきること
すなわち一撃を加えるよりも攻撃をしつつも5分間耐久しきった方が評価が高いと踏んでの行動だ
それにしても何故5分近くも矢は降って来なかったのだろうか?
そんな疑問も残っているが勇斗は2人へ意識を向け続ける
流石の教師もこの発言を聞いて少しだけ驚きを見せたが、すぐ笑顔になると
「ガッハッハッ、これはしてやられたわ!。素晴らしい計算能力だ、これからの学校生活でそれを活かして上を目指してくれ。しかも少しだが使えるときた、君には期待しているぞ」
と女子生徒へと言う
そんな教師の言葉を聞いた女子生徒は
「もちろんそのつもりですわ」
と言い一礼した後、舞台から降りる
今までに誰一人として1分も耐え切れなかったこの模擬戦においてこの女子生徒は高評価を得たこと間違いなし
誰もがそう考えていると教師の声がアリーナに響く
「よし、次の者舞台へ!さっきみたいな私を驚かしてくれる戦闘内容を期待してるぞ」
そう言われて舞台へあがる生徒
だがその生徒の顔は暗い
(まぁ無理もないよね。あんな戦闘内容を見たあとじゃ誰だって緊張してしまう……と、人のことは置いといて僕もどうするか考えないと)
勇斗がそんなことを考えている間にもまた1人、また1人と生徒達が教師によって意識をかられていく
どこぞの無双ゲームを見ているかの様子だ
「よし、次!」
そうしてついに勇斗の番になる
(よしっ!……もうなんも考えないで攻めよう)
そう諦め混じりに考えを纏めた勇斗は背負っていた袋から自分愛用の武器を取り出す
それは篭手…というよりはガントレットに近いのだろうか
だがガントレットにしては手の部分で生身が剥き出しのところもあるし、見た感じ柔軟性もありそうだ
ともあれそんな武器を両手に着ける勇斗
そんな勇斗の戦闘方法は体術メイン
というより八坂流拳術という戦闘技法が主流だ
そして名前からも分かるだろう
この流派は勇斗の実家にだいだい伝わるものであり、勇斗はこれを小さい頃から習ってきており今では師範代のレベルまで到達している
そんな珍しい装備をして舞台に上がった勇斗を見て教師が一言
「その武器…もしかして八坂流か」
そんな呟くような一言を勇斗は聞き逃さない
否、聞き逃せるわけが無い
「っ!八坂流のことを知っているんですか?」
一縷の望みを胸にそう聞く勇斗に対し、教師はその希望を打ち砕く答えを返す
「ああ知っている。以前に八坂流を使う者と軽く手合わせをしたことがあったからな。特殊な装備を持っていたから印象に残っているな」
こうして状況は更に絶望的なものへと陥った
この教師はどこまでかは分からないが少なくても八坂流の戦い方や技を見て知っている
つまりは初見プレイではない技を使用したら最後、強烈なカウンターをくらって1発ENDってことだ
(お、オワタ…。)
そう考える勇斗に教師が追い討ちで一言
「知ってる技は通じないからな。是非とも私の知らない技で私を楽しませてくれ!」
そんなことを笑顔でのたまう教師
そしてこの言葉を聞いた勇斗は決意を固めた
何も考えずに本能に任せて攻撃することを
そう、ヤケクソである
舞台にあがり最初の位置につくと構えをとる勇斗
そんな勇斗を見ても構えすらとらずに笑顔のままの教師
そして教師がストップウォッチのボタンを押したとき、模擬戦が開始された
勇斗は開始と同時にすぐさま教師の目の前へと距離を詰めていく
その速さに教師は一瞬目を見開くが笑みは崩さない
そんな隙だらけのように見えて隙が全くない教師に勇斗は力を込めた正拳突きをはなつ
だがそんな攻撃では当たるわけがない
正拳突きを軽く手のひらで受け止められた勇斗は動きを止めることなく次の技を繰り出す
(八坂流拳術六の型・梟)
初級の技じゃ通じないと考えて中級の技を繰り出す勇斗
両手による攻撃が一貫性なく左右バラバラに繰り出されることによって予測では躱しづらいこの技であるはずなのだが教師は軽々と捌いていく
だがそんなことは承知のうち
梟が通じないことを知った勇斗は素早く教師から距離をとると体勢を整えるとまた直ぐに攻めこむ
だがここで教師が動いた
今までのように防御無視で生徒の意識を飛ばそうとしてくる不可避の一撃が教師によってくりだされる
(っ!八坂流拳術四の型・流水)
そんな教師の一撃を両手によって絡めとるように流しすことによって受けきる勇斗
だがあまり体験したことのないほどの攻撃力を持つ教師の攻撃を完全には受けきれずに少し体勢が崩れる
そんな勇斗へ逆の腕でさらなる追撃を繰り出す教師
そしてそんな攻撃に対して勇斗は…無意識に反撃をくり出した
向かいくる拳に全力を込めた拳をぶつける
そしてその拳と拳がぶつかった時
ゴヅンッッッ
そう鈍く大きな音がアリーナに響く
はじめて教師の攻撃を真正面から受け止めた勇斗
そんな勇斗は本来ならば痺れる腕を庇って距離をとるべきにも関わらずに一瞬意識が別のものに惹き付けられる
それは薄く皮がむけて血を流す拳
そう、驚くことにこの攻撃によって教師がはじめてダメージを受けたのだ
その事実に教師も驚く
「これは…。ふむ、今年はなかなか素質のある奴が多そうだな。一瞬とはいえ無意識に魔精力の使用をするなんて予想外だ」
そう真剣な表情をして呟く教師だが、ハッと我に戻るとまた笑みを浮かべて勇斗にこう告げる
「とりあえず私にダメージを与えたことは賞賛しよう。だがまだ模擬戦は終わってないぞ?」
この言葉を最後に勇斗の意識は空の彼方へと飛んでいったのであった
そしてその日の夜
いつの間にか教師との模擬戦が終わり保健室で夕方まで眠っていた勇斗はそのまま帰宅
そしてたまたま家に遊びに来ていた優奈と今日の結果について会話していた
「今日はどうだったのよ。さっき帰ってきたってことは今まで何してたのよ」
そう問い詰める優奈に苦笑いを浮かべ答える勇斗
「模擬戦で気絶させられたらしくてさっきのさっきまで保健室で気を失ってたんだよ」
「えっ?勇斗も気絶させられたの?怪我はないんでしょうね?大丈夫なの?」
「怪我は大丈夫だと思うよ。他の人も気絶させられたりしていたけれど特に問題なさそうだったし」
「他の人も?てことはそっちの教師も生徒を気絶ポンポン気絶させていったってことね?」
「そうだよ。優奈の方もそうだったの?」
「私の方は人によったわね。私なんかは5分間戦ってもらえたけど大半の人は1分くらいで適当に戦闘不能にさせられていたわ」
「そうなんだ。僕の方はほぼみんな1分たたずで終わってたなぁ。僕の前の順番で即殺されなかったのは1人だけだったよ。それと僕の後の人は意識がなかったから分からないや」
「あっ!それよそれ、勇斗が簡単に気絶させられるなんてよっぽど教師が強かったんでしょ?私の方も全然かなわなかったわ」
「確かにね、だけど当面のいい目標が出来たよ。それに僕はまだまだ強くなって行けるってことが分かったしね」
「それはどうゆうこと?なんか嬉しそうね勇斗」
「それはね………。」
そうして夜がふけるまで話を続けていた勇斗と優奈
2人は今日行われた教師との模擬戦による興奮が抜けきらなかったことによって話が止まらず、明日ある最終テストのことなぞ頭から抜け落ちてしまっていた
そしてその事を嘆くのは翌日の朝である
……To be continued