プロローグ[裏]
《side 光夜》
澄み広がる春空に穏やかな風
両脇を満開の桜で彩るこの地区最大かつ人気のある小学校へと続く道を仲良く手を繋ぎながら少し気だりげに歩く少年とその少年の手を握り満面の笑みを浮かべている少女
そんな2人のうち片方は真新しい制服、しかも今日本において絶大なる人気を誇る日連魔法戦闘高等学校の制服を身に纏う少々おぼこい少年であり、もう片方はこの道の先にあるこれまた有名な小学校の真新しい制服を身に纏う可愛らしい少女である
周りの人々から見ればこの2人はこの春から高校に通う少年と小学校に通いはじめる少女、といった仲の良い兄妹に見えていることだろう
普通の人ならばそう思う
ここで間違ってもこの2人の関係が兄妹……ではなく親子であるなんて考えもしないだろう
その証拠に2人は
「きょうはいいてんきだねっ、パパ!」
「そうだな〜。晴れてよかったわ、ほんと。雨が降るとカメラとかが濡れちゃうからなぁ。あと普通に雨の日に外出はダルい」
とそんな何気ない会話を先程からしており、これからも分かる通り少女の方は間違いなく少年のことを父親扱いしている
それに対して少年も満更でもない反応…と言うよりもパパと呼ばれることが嬉しくてたまらないといった感じが伝わってくるレベルで笑みを浮かべているのはきっと気のせいだと思いたい
まぁ実際には気の所為なんかではないのだけれども
ちなみにこの会話を耳にした人々は例外なく少年と少女に視線を向けている
普通に考えると無理もない
だってどう考えたとしても年齢差がおかしい
2人が誰がどう見ても分かる制服姿なのがその疑問の後押しとなっている要因の一つ
それに流石に少女も小学生ならば兄と父親を間違えたりしないであろうし、少年のほうは高校生なのでどう頑張っても年の差はそこまで無い
まさか少年の方がこんな日に高校生のコスプレをしているわけでもあるまい
そんなわけで周りの視線をかっさらっている2人であるがそんな視線に少年の方は気づいていても特に気にしてない様子
もちろん少女の方は全く気づいておらずただただ笑顔を浮かべながら父親である少年に話しかけている
恐らく少年としてはどんな風に見られていようが興味ないのだろうが少年とは逆に周りの人々はこの2人の関係が気になって仕方ないと思われる
そんな風に注目を集めつつも平然とした様子でのんびりと歩いていき目的の小学校へと辿り着いた2人
そう今日はこの小学校、日連魔法戦闘高等学校付属小学校の入学式の日なのである
そう、名前からも分かる通りこの初年・御神楽光夜が今日から通う予定の高校である日連魔法戦闘高等学校と関連のある小学校だ
所謂エスカレーター式の学校であり、この小学校で余程のことをやらかさなければ無事に中学からは日連魔法戦闘高等学校へ通うことができるという具合
そんな理由からもこの小学校もたいへん人気がある
その倍率およそ30倍
受験を経験した人なら分かるだろうが気の遠くなるような数字である
ちなみに日連魔法戦闘高等学校の方の倍率は70倍近くだったりするのだけれども
そんな場所であるこの小学校に無事に入学することを許された少女・御神楽雛は久しぶりに見る学校を前にテンションが上がっている
「パパ、パパ!ひな、きょうからこのがっこうにまいにちきてもいいんだよね!?」
そんなことを言いながら目を輝かせている雛に光夜は
(何この生き物っ!めちゃくちゃ可愛いんですが!)
とか内心吐血しながらも
「そうだな。流石に休みの日は来ないと思うけどこれからいっぱいこの学校に来れるよ」
と平静を装いながら答える
そんな光夜の返事を聞いて雛はとても嬉しそうにする
そしてそんな雛を見て光夜は再び内心吐血する
こんな感じがよくある2人の様子である
「おっと、もうこんな時間だ。雛、そろそろ教室に行かないと行けない時間だからクラスの方に行こうか」
腕にした時計をみてそろそろ入学式前の軽い顔合わせ、もとい各クラスへの移動をしなくてはならない時間がそろそろのため夜光は雛の手を取りつつも校舎の方へと歩みを進める
既に雛のクラスは確認済みでAクラス
それに担任も若い女性なので特に問題なし
もし男性が担任だったら……確実に何かしらの摩訶不思議な現象が光夜の手によって起こされていたことは間違いない
それをやりかねないのが光夜クオリティだ
そしてそんな1年Aクラスの教室がある場所へと向かおうとしている光夜に雛が少し悲しそうに尋ねる
「パパはクラスまでひなといっしょにきてくれるの?」
そう言いながら上目遣いで光夜を涙目で見る雛
この時点で光夜のライフはゼロになりかけであるがさらなる一言が雛の口から発せされる
「パパ……きょうはずっといっしょにいてっ!」
「任せろ!」
即答である
いやもはや反射的に出た言葉である
だがもともとその予定なので特に問題はない
ちなみにこのやり取りから少しは分かるかもしれないが今日1日だけは保護者の同伴OKなのだ
つまり雛のクラスへと行くのも、そのあとの入学式へへの参加も、更には入学式のあとの保護者会をも全てに光夜は参加するつもりである
だがそんな教室へと向かっていく光夜を見て周りの人々は皆が疑問に思っただろう
(((あれ?あの子、高校の入学式は?)))と
そう思うのも無理はない
なんせ今日はこの小学校の入学式、と同時に日連魔法戦闘高等学校の入学式でもあるのだ
そしてその入学式は間もなく開始時刻である
つまるところこんな時間にこの場所にいる時点で既に高校の入学式には間に合うはずもないのだけれども、それでも高校に向かう素振りも見せずに小学校の中へと入っていったあたりそういうことなのだろう
この少年は入学式には出ない…と
まぁ勿論そんなことは光夜にとっては当たり前である
なんせ光夜の行動の中心は全て雛のこと
雛の入学式があるにも関わらずに自分の入学式に出席するなんて有り得るはずがない
光夜にとっては入学式をサボることで高校の教師から目をつけられることなんかよりも雛の晴れ姿を見る方が1万倍大事なのである
にも関わらず今日光夜が制服を着てきている理由はただ単純に「ひなとおそろいのあたらしいおようふくだねっ!」と雛に言われたからでありそれ以外の理由は一切存在しない
これからも分かる通り光夜は完全に親バカである
親といっていいのか分からないがバカではある
雛を溺愛してやまないこの少年、雛のためであるならば恐らくなんだってやり遂げでしまいかねない
例えば雛が「パパはいろんなことしっててすごいね」と褒めたとしよう
それまでは自身の年齢層の平均的な学力さえも保持していなかった光夜であるが、その僅か1ヵ月後には高校までの全課程の知識を有するレベルへと変貌する
あるいは雛が「パパはなんでもできてすごいね」と褒めたとしよう
それまでは適当に家事炊事洗濯、更にはその他の趣味を一切持っていなかった光夜はその後僅か一年足らずで家事と洗濯をマスター、加えて料理はプロ顔負けのレベルへと、そしてその他様々な事柄においても光夜の苦手とする分野は無くなっていた
要するにこんな感じなのである
つまり光夜は雛に頼まれたら未知のチカラを発揮してしまい、結果的にはやり過ぎるところまでやってしまう傾向にあるのだ
余談だが光夜はこんな少年であるためなんと今年度の日連魔法戦闘高等学校の入学試験ではそこそこの成績をおさめていたりする
この学校では入学試験では筆記テストとこの学校に入るならば必ず必要となる魔精力の測定が行われるのだが、光夜はその入学試験において筆記テストは文句無しの満点を取っている
だが魔精力がDランクであるがためにそこそこの成績におさまっているというわけだ
もちろんこの情報は学校側しか知りえない
ちなみに魔精力の日本における平均はEランク
日連魔法戦闘高等学校における平均はCランクであるので光夜は世間一般的に比較すると魔精力を保持している側といえるが日連魔法戦闘高等学校においては平均より下というわけなのだ
もっともその測定結果が正確かどうかは知りはしないが
ついでに言っておくと雛の魔精力はAランクと現時点でも凄まじいものでありこのまま行けば確実に日連魔法戦闘高等学校の中等部へと進学できる
これこそが雛をこの小学校に入学させた光夜の狙いのうちの1つ目である
そんなことはとりあえずわきに置いといて更に視線をあつめながら無事に目的の1年Aクラスへと辿り着いた光夜と雛
教室に入った際に教室内にいたほぼ全員から視線を向けられた光夜であったが、なんのことはなく無視して間もなく集合予定時刻であったがために雛を自分の席に座るように促す
その際に少し戸惑った様子を見せた雛であるが光夜が軽く頭を撫でてやるとたちまち笑顔になり自分の名前が書かれたプレートのある席へと向かっていった
その際に雛の笑顔に見惚れていた奴が何人かいたのだけれどもまだ気にする時期ではないと思い光夜は無視をすることに決めた
さっきの様子からも分かるように雛は学校を楽しみして明るく振舞っていたがやはりはじめて光夜と離れて集団の中で過ごすのは緊張するし不安もあったのだろう
そんな雛を見て光夜は決意する
(雛のためにも絶対に間抜けな姿は見せられないな。それにほかの保護者とも上手くやって雛の学校生活に支障が出ないようにしないと)
こんなことを決意していた光夜であるが、雛に視線を向けているのが子供だけでなく大人の中にも数名いることが分かり、そいつらをどうやって屠りさろうかという思考に一瞬で切り替わってしまったのはここだけの話である
そして場所はかわりここは入学式の会場となっていた体育館
各クラスにおける軽い顔合わせと説明を終えたのちに保護者達はそのまま入学式を行う体育館へと移動
雛達は新一年生は入学式が開始されてすぐに「新一年生の入場です!」という司会役の言葉と共に体育館内へと笑顔を浮かべがら入場してきた
一応人生の区切りの1つである小学校への入学
入場してくる新一年生達を見ながらその保護者達は自分達の子供の成長を感じ軽く涙する者やカメラなどを用いてその勇姿を記録する者、様々だ
もちろん光夜もその例外となることなく
「よくここまで大きくなったなぁ……っ」
と号泣しながらカメラを回していたりする
そんな光夜を周りの保護者は暖かい眼差しで見つめていたりするのだが光夜は気づかない
入場してくる雛を見るので精一杯なのだ
そうしてそんな光夜の涙は入学式が進んでいく最中ですらも止まることなく、入学式を終え雛達新一年生や2年から6年の在校生が退場するまでつづいた
そしてそんな入学式もサクサクと終わり今は保護者への説明会の時間
この間に雛達は各クラスにて自己紹介なんかを行っていることだろう
その間に光夜は色々と話を聞いておく
それが父親としての光夜の役目であるから
といっても特に特別必要な事項があるわけではない
明日からの学校生活における必要な道具は既に揃えてあるし、学費や保険なんかの手続きも全て終わっているので特段急いでやる必要事項はない
ちなみに学費がかなり安くて生徒達の安全性がかなり高い点こそがこの学校に雛を入学させようと決めた最大の点である
光夜自身も学校に通うためにそれぞれが学校にいる間は直接雛を守ることが出来ないと考えた上での光夜の苦渋の決断だ
光夜としてはお互い学校なんて行かずに家で仲良く暮らしていくつもりだったが、雛に「がっこういきたい!」と言われればそれまで
あっという間にここへの入学を決めたのであった
そしてそんなことを考えているうちに説明会も終わり保護者達は新一年生達と共に帰宅する時間
光夜の周りの保護者達もそれぞれの子供がいるクラスへと足を向け体育館から出ていく
(とりあえず他の保護者達との絡みは上々、それにこの学校の教師から俺に対する印象も悪くは無いはず。ひとまずは今日はこんなところか)
そう今日1日の自分の行動を顧みて評価する
さっきの保護者同士での雑談の時間で光夜はやはりといった感じで沢山の保護者から話しかけられた
といってもそこは流石に大人である
光夜が詳しくは聞かれたくはない家庭の事情などはそれほど質問されずに、会話の主な内容としてはこれからの事や有事の際には協力し合うこと、あとついでに学校行事関連の連絡を取り合うために連絡先を何人かと交換したぐらいか
それに加え教頭や校長といったこの学校の主要人物とも関わりをもち連絡先を入手出来たのは大きい
そんな風に着々と雛が楽しく学校生活をおくるためへの下地を作り上げていく光夜
そうしてそのあと無事に光夜は雛と合流
行きと同じように仲良く手を繋いで自分達の家へと歩いて帰っていくのであった
その帰り道、光夜は自分の周りを騒がしくしていく運命の出会いをしているとも知らずに
……To be continued