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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

キンモクセイ

作者: 樋口斗聖

BLに興味のない方は閲覧に注意ください



木立から差し込む朝日がまぶしい渡り廊下を、僕達は小走りに進んでいく。

先頭を青山くんが、その後ろから僕。

寮は校舎のそばにあって、5分ほど庭園のように整えられた花壇を抜けるとレンガ造りの建物が連なるエリアに入り込む。

一番手前が中学寮。真ん中は教員寮で一番奥が高校寮だ。

自宅から通う僕には縁のない建物に一瞬ひるんでいると、手をとられひっぱっていかれた。

抜け出してきた礼拝堂からはオルガンの調べと歌声が聞こえてくる。

「あのさ 見つからない?」

声をかけた僕に、青山くんが振り返った。

頭ひとつ大きな僕を見あげにこりと優しい笑顔を見せた。

「大丈夫。」

きっぱりした彼の視線をまっすぐに受けても、僕の鼓動はちょっと不安で脈打っていた。

今日は日曜日にもかかわらず地域の中学が合同で主催している合唱会の日で、

本当なら昼まで見学していなければいけないからだ。


『退屈だからちょっと出ない?』

私語が禁止のホール内で青山君がふと僕の耳元に唇を近づけ、囁いてきた。

驚く僕の耳にそして爆弾のような一言。


『この間の 続きをしようよ ねえ?』


「伸くん・・」

「・・・」

ちゅっ。

しっとりとした唇が触れあい、脱出に成功したお祝いのキス。

「汗びっしょり かわいい。」

ニコニコ笑いながら告げられた僕の頬に、かあっと血がのぼってくる。

ふがいなく真っ赤になった顔をどうやって誤魔化そうか、あたふたする僕からするりと離れて青山くんが窓に向かう。

開け放たれた窓から秋のさわやかな風と甘い香り。

いつもなら港の潮のほうが強いのに。

「この匂い 好きなんだよね。」

窓のすぐそばにはキンモクセイ。オレンジと白のクチャッとした花が今を盛りに芳香を撒き散らしている。

「開けたままでいるとよく布団の上に落ちてるんだ。

ルームメイトはトイレの匂いって嫌がるけど。」

青山くんの腕の動きに合わせてキンモクセイの枝が大きくしなり

軽やかに戻ってきた掌には花びらが握られていた。

何の気なしに僕はそれを受け取る。

「中国のお茶でキンモクセイとウーロン茶が混じってるのがあってね。

すごくいい香りがして美味しいんだよ。」

指先で花びらを弄ぶときつい香りが部屋一杯に広がっていくような気がする。

「へえ・・ 伸くん 飲んだことあるんだ。」

「親父が出張のお土産に買ってきたんだ。

 珍しいんで会社でも喜ばれたって。」

「飲んでみたいな それ。」

「中華街にならあるかもしれない。専門て・・」

青山くんがそっと僕の手首に触れてきた。すっと上にのぼり花びらを弄んでいた指先をなでる。

その瞬間僕の体にはまるで電流のような何かが背筋を一気に駆け抜けていく。

「ん。伸くんの指キンモクセイの匂いがする。」

綺麗な指先がその口元に運ばれていくのを僕は目で追った。

ちゅっ ちゅっ くちゅ

息を呑むほど綺麗な顔の青山くんの唇が、舌が僕を愛撫するのを見守るうちに中心がピクピクと脈打っていく。

敏感になった指先が消えては現れ僕の呼吸が速くなる。

「青山くん!」

口元から漏れる卑猥な音、

それだけで一気に高まり達してしまいそうな快楽の波に僕は我を忘れて堕ちていく。

窓の外はキンモクセイ。僕と彼に絡みついてむせ返りそうな芳香に堕ちていく。

浸っていたいような逃れたいような


「あっ・・・・・やっ・・・あっ・・あっ・・あっ」


消えない印のように僕の記憶に刻まれていく。



閉会式のはじまったホールにそっと戻ると何事もなかったように最後尾の席に座り込む。

どっと疲れが押し寄せて前の席に突っ伏したまま一緒に拍手する気にもなれない僕達。

ステージの上では参加した学校の代表者が記念品を受け取っている。

髪の乱れを指でほどきながら青山くんが

「解散したら帰っちゃう?

 落ち着いたらご飯食べに行こう。」

「え、 どこに」

「中華街がいいな。いい?」

物憂げながら斜めに僕を見あげる魅惑的な眼差しにまだ特別な続きがあるのかなと想像して、

さっきの記憶が、感覚が、」頭に、身体に蘇ってきてしまう。

深呼吸・・ そうだ深呼吸・・


指先にはまだ甘い香り、

そういえば あのお茶はなんて名前だったっけ・・・?


秋をテーマにしたものを書きたくなって、漫画のネタで考えていたものを小説におこしました。

後半が甘めになってしまってちょっと恥ずかしいですね

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