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刻印のアレリア  作者: 砂ノ城
第一の物語・月の姫
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1部3章《903年》オウロ③

 ここはどこだ。私は……眠っていたのか。くっ、頭が痛い。


 横になっていた寝台で体を起こして、頭を振って痛みを紛らわせると目を開く。どうやら私の自室のようだ。


「やーっと起きたか、なにやってたんだお前は」


 声のする方を向き、レオスと目を合わせると、体を起こして座る私の額を拳で小突いてくる。


 何をするんだと睨むと、よかったぜ生きていて、と抱きついてきた。


「なんだ、いったい何があったんだ?」


「何があったじゃねえよ馬鹿野郎。お前こそ何してたんだ、城の廊下で倒れてるとこを兵士が気づいて俺に知らせてくれたんだぞ」


「私は何を……」


 呟く私に、体を離して、寝台の横の椅子に腰かけるレオス。


「生きていてよかったけどな、このまま目を覚まさんかったらどうしてくれようかと思ったぞ」


 意識を失っていたのか私は、ならその前は。


 確か王妃の出産を間近に控え、私は王の側に……


 駄目だ、思い出そうとしても何も出てこない。


「……!! 王妃は、子供はどうなった!?」


 飛び上がるように寝台から下りると、手で落ち着けと肩を押さえれる。


「焦るな、大丈夫だ」


 オババの姿はここにはない、王妃の元に居るのか。


「出産は無事済んだ、王妃も子供も元気だ」


 そう言うわりには、浮かぬ表情だ。


「何かあったんだな」


「ああ、ちょっと想定してなかったことがあってな。お前が起きるのを待っていたんだ、どうしたものかと思ってな」


 状況はつかめないが、着替えて、王妃の部屋へと向かうことにする。



 王妃の部屋の前には妻の後任として働いている顔見知りの侍女が立っていた。私達に気付き頭を下げる、手を上げ応えると中へ入る許可を貰い、部屋へと入る。


 寝台に座る王妃の横には赤子がいた。オババは寝台から離れた位置の椅子に座っている。


 王妃にとっては子供を取り上げてくれた老婆で、私に護衛の魔術師でもあると言われているのもあってか、出産後も部屋から出ず近くにいるのを不思議がる様子はない。


「王妃様、ご出産おめでとうございます」


「オウロ、私達のためにいろいろ動いてくれていたのでしょう、ありがとう」


 直接顔を合わせるのは久しぶりだが、ソールとレオスと訪れ、王妃の産まれ育った屋敷で初めて会った頃から変わらぬ美しさと笑顔だ。


「いえ、王妃様も姫様もご無事で何よりです」


 王妃に頭を下げ、顔を上げるとオババが立ちあがり近づいてくる。


「まずいことになるかもしれぬ、すぐに話を」


 言葉は少なかったが小声だったので、ここで話すのはまずいことかと理解し、頷いて応じる。


 レオスも付いてくるようなので、王妃の護衛をこのまま残しておくよう伝え、部屋を出た。



 自室まで戻ると王妃の部屋から距離が離れすぎるため、椅子などはないので立ったまま話すことになるが、普段使われることの少ない資料などを保管してる部屋へとオババとレオスと入る。


「すまぬオババ、私は何かしくじったようだ」


 意識を失っていたのはおそらく王の部屋の側にいたからだろう。何をされたかまでは思い出せぬのは、呪いをかけられたのかもしれない。命を奪われることはなかったのは幸いだが。


「かまわぬ、生きていてくれて何よりじゃ」


「ああ、殴っても起きなかった時は死んだかと思ったからな」


 意識を失っている私を殴ったのかお前は。


「オウロ、王のせいかまでは分からないがまずいことになるかもしれないぜ」


 深刻な顔つきのレオスとオババ。


「オババもレオスも、いったい何があったんだ」


「王の子、姫様には太陽の天刻印は受け継がれなかった」


 やはりか。


 王がそれを望んでいたのは知っていた、そしてそれを防ぐために私達は動いていた。けれども天刻印は必ず長子に受け継がれるものでもない、二人目にということもあるので、絶対に王の仕業かと言われると確信は持てない。


「王の狙い通りに、というわけだな。だが姫が力を持たず産まれたのなら、王の不安は解消されたのではないか? 太陽は未だ王の手許にあるということだろう」


「おそらくそうだろうな」


 腕を組んで話を聞いているレオスが頷いて答え、そのあと首を横に振って続けた。


「だが問題はそこじゃねえんだ」


 レオスがオババに何かを合図する。


 するとオババはローブから左手を出し、普段から手を覆っている布切れを外していく。刻印を持つ者は自分の能力を知られぬよう刻印を隠す手袋や包帯など布で見えぬようにするものも少なくはない。


 なので私もオババが刻印を持つことは知っていたが、見たことはない。


「オウロよ、これを見るがよい」


 オババは私に左手の刻印を見せる。


 すべての刻印を知っているわけではないが、見たことのない刻印だった。それにこれは……


「天刻印……?」


 刻印の形は様々あるが、その刻印の周りを一周、円で囲ってあるものが地刻印、二周囲ってあるが天刻印だ。必ずしも丸い円とは限らないが、1つの線で繋がったもので囲ってある


 そして天刻印は後継に受け継がれるまで光を放つが、後継に受け継がれたあとは鈍い光になる。


 オババの天刻印は鈍い光を放っていた。



 王妃の祖母にあたるオババの手に鈍い光の天刻印、これが意味するものとは。


「まさか……」


「そうじゃ、子が産まれ、孫が産まれてもずっとワシの元にあり続けたこやつが、今になって曾孫を新たな主と認め移っていきおったわ」


 刻印を隠していた布を再び巻き始める。


「ワシの死期が近づいてきたという意味なのかもしれぬがの」


 冗談なのか本気なのかそんなことを呟くオババ。


 いやオババの近しい血族がどれだけいるのかは分からないが、後継に選ばれるのは実の子の血筋のほうが可能性が高く、オババの年齢的なことで受け渡しが行われたのかもしれない。


 そもそも天刻印は子が産まれると受け渡すことが多いもので、オババほどの年齢まで力を失わず所持し続ける方が珍しいのだ。


「で、どうする? 産まれた姫様の刻印を見て、オババが咄嗟に魔術で隠したので、王妃やその場にいたものは姫様に天刻印があるのは気づいていないが」


「それはオババの判断が正しいだろう」


 天刻印の性質や前例から、今回のことを鑑みれば、王は王妃の不貞を疑うことになりかねない。


「父である王の太陽の天刻印が受け継がれず、母である王妃は天刻印の持ち主ではない。それで産まれてきたのが違う天刻印の姫では、別の父親がいると言っているようなものだ」


 王妃の性格を思えば、そんなことをするはずもない。


 だが昔のソールならともかく、変わってしまったアイツがどう考えるかまでは分からない。


「隠しとおすべきだろうな……」


「やっぱそうなるか」


 レオスも同じ考えのようだ。


「オババ、聞いていなかったがその天刻印はなんなんだ? 見たことないやつだが」


 レオスが尋ねてくれたので私もオババに顔を向け答えを待つ。私も気になっていたことだからだ。


 天刻印は書物などで世間一般的に知られてるだけで二十六種、それに含まれぬということは二十七個目の天刻印ということになる。


「おぬしらを疑るわけではないが、ここだけの秘密に出来るかの。本来誰にも知られてはならぬものじゃが、これからのことを考えれば真実を知るのがワシだけというのも危険じゃろうしの」


 真剣な顔つきで私達に確認を取るので、当然だと頷く。隣でレオスも力強く頷いている。


「この天刻印の名は月、かつて七大天刻印などと呼ばれたものの一つである」


 七大天刻印……。


「ちょっといいだろうか、それはもしや六大天刻印のことではないのか? 我々、人族六種族に与えられたという」


「ふむ、長い歴史の中で忘れられていった、違うの人族が犯した過ちゆえに消し去った過去かの……。かつて、この大陸にはの……いや、話がそれるので、これはまたいずれ語る機会がくれば話すとしよう」


 話の腰を折ってすまないと謝罪し、オババに続けてもらう。


「この天刻印、月は他の天刻印と違い、子世代に受け継がれるというわけでもなく、ワシも親からではなく祖父から受け継いだ」


 子世代に、というのは、天刻印は我が子に受け継がれることが多いが次に多いのが、甥や姪などだ。一世代をあけて孫世代にというのは、なくはないのかもしれないが、珍しいことだ。


「ゆえにワシは生き別れてしまった子や、産まれているかもしれない孫を探して旅をしていたのじゃ。子は刻印を持たなかったが、孫に受け継がれてるとしたら、それを守らねばならぬからの」


 オババには語ってない秘密がある、そしてそれは私達に話すのはまずいことなのだろう。なので追求しないほうがいいことはわかる。


「わかった、私達も姫様を守りたい気持ちは一緒だ、これからも協力することは約束する。だから、いくつか教えてほしいことがある」


「なんじゃ、ワシが語れることならばかまわぬぞ」


「オババの血族や刻印についてこれ以上聞くつもりはない、それをいずれ話すかどうかはオババの判断に任すが、これは聞いておかないとまずいことになるのでな。姫様にかけたという魔術、天刻印を隠すという魔術はどれほどの時間有効なものなのだ。今隠せていても、すぐにバレるのでは意味もないだろう」


 逆に隠したことがまずい状況を生む可能性もある。


「特に問題が起きねば、一年ほどは気づかれることもないとは思うぞい。その頃には再びかけ直さねばならぬが」


「なるほど、一年ごとにかけ直せば気づかれず過ごすことも可能か」


 安心した表情を浮かべる私に、オババは忠告する。


「ただしワシの魔術は力を封じるものではない、曾孫が力を使おうすれば周りに気づかれるじゃろう」


 確かにそれはそうだろう。


「月の刻印は成長の過程で、自然と使い方を身に付けるものなのか? その存在を知らなくても」


「それはないのう、ワシもジジ殿に教わってからもしばらくの訓練が必要じゃった」


 天刻印といえど、それを自覚し、制御する術をもたねば何の役にも立たないものだ。


 魔術により自身が刻印を持っていることに気づかぬまま成長すれば、力を使うこともないかもしれない。


「じゃが、身に危険が迫るようなことがあれば咄嗟に力を発動させることはあるかもしれないのう」


「そうだな、刻印を身に付けても発動出来ないものが一番目覚めるのが、自分の身が危険にさらされた時だ。自覚してなくても、体に刻印がある以上、その可能性はあるだろう」


「オババもオウロも難しく考えるなって、王子ならともかく姫様だぜ? 戦場に出ることにもならんだろうし、城にいれば俺達が護衛してる、危険が迫るようなことは起こさせやしないさ。だから、バレやしないって」


 長い話に飽きが来てるのか、理解できなくなってきてるのか腕を組んでうんうん唸ってたレオスが言った。


「ふっ、楽観的すぎるとは思うが、そうだな、今はこの脳筋の意見に乗っとくとするかオババ」


「そうじゃの、なるようにしかならぬしの」


「お前ら殴るぞ」


 怒ってる表情をわざと作るレオス、せまい部屋の中、三人で顔を合わせて笑った。


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