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刻印のアレリア  作者: 砂ノ城
第一の物語・月の姫
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1部2章《903年》オウロ②

 王妃の侍女に連絡を取り、その翌日会うことに成功した私は王妃への手紙を託す。


 レオスと二人で王を探るために動き出した夜から数日が経つ。あの夜は大した発見もなかったが、王の命令でとある文官が街に向かうことがあること、その文官が呪術師を城へと招き入れてることが分かる。


 ここまで知られることもなかったことが次々と分かっていく、王を疑い、探っていることもあるが。王妃の出産が間近に迫り王も焦っているのか、頻繁に動いているというのもあるだろう。


「王妃の出産が明後日というのは間違いないのか?」


「絶対、とは言い切れんが。可能性は高い」


 刻印使いとしてだけでなく、魔術師としての経験も持つオババの能力は信ずるに値するものだ。


「なら、俺達も本腰を入れて気を付けないとならないな」


「ああ、信用出来る部下から数名を王妃の護衛として、侍女に紛れ込ませてはあるが、警戒は必要だろう。私は当日は王の方に付くことにするから、部下には王妃に付いてもらうお前の指示に従うよう命じておく」


 息子は今日もレオスの奥方に預かってもらっているので、自室で二人で相談していた。呼んではあるので、そろそろオババが来てもおかしくはないのだが、まだ到着はしていなかった。


「わかった、王妃のことは俺が守る」


 仮に暗殺者などを相手どることになってもレオスなら負けることはない、人数的不利で制圧できないとしても、王妃を守りながら時間を稼ぐだけの力を持つ頼れる男だ。


 そうこうしてるうちに自室の窓から大量の鴉が部屋へと飛び込んできた。


「来たかオババ」


 入ってきた鴉達は一ヶ所にまとまり、散るとそこにはいつものローブのオババの姿がある。鴉が変化したのではなく、自身の肉体と同じだけの体積を持つ鴉の位置を入れ換える魔術だ。


「誰だ!!」


 初めて見た時は驚いたし、正直何度か見た私でもまだ驚く。レオスは窓から鴉が入ってきた時点で席から立っていたが、オババの出現を見て、腰の剣を抜き、構えていた。


「待てレオス、敵ではない、この前も話したオババだ」


 斬りかかりはしないが、警戒して剣を構えたままのレオスに剣を下げさせる。


「驚かせたようですまぬの、こうでもせぬと中々城には入れないものでな」


「まあ、そりゃその格好じゃな」


 汚れたローブ姿を見て、うんうん、と納得するように頷いているが、それは違うだろう。


 オババに、こいつは大丈夫か? と尋ねたそうな視線を向けられたので目をそらしておく。


 馬鹿だけど信頼はできるんですよ、馬鹿だけど。


「呼び出してすまないオババ」


「孫たちのことを頼んでいるのはこちらよ、なんでも言ってくれてよいのじゃ、気にするでない」


 席を立ったままのレオスと、入ってきたままの場所のオババに椅子に座るよう勧める。席に着く二人に、陶器のティーポットからカップにお茶を注ぎ、差し出した。


「急な話になるがオババには王妃の子を取り上げてもらいたいのだ」


「オウロ、お前何を言ってるんだ」


「もちろん医師は付く、だが赤子を取り上げるのは出産経験のある女性というだけで他に決まりがあるわけではない、出産の場にオババを紛れ込ませるくらいのことは私には出来る」


 王妃へと渡した手紙にも、出産の場に護衛として人員を送り込むので安心して欲しいとの内容にした。


 妻の後任の侍女に聞いたが、王妃も王の変貌には気づいていたらしく何か起こるのではないかと心配していたらしく、私の提案も素直に受け入れてくれた。妻のことで、信頼されているのもあるのかもしれない。


「なるほどの、王が孫やその子供に何かするなら、ワシがその場に居た方が対処のしようがあるというわけじゃな」


 レオスは納得のいってない表情だ。


「孫? 子供? その婆さんはいったい」


「この方は王妃の祖母にあたる方だ。天刻印の持ち主で、優秀な魔術師でもある。が、このことは私くらいしか知らない」


 言うなと言われているのもあるが、いきなり面識のない老婆が、王妃の祖母など言い出す者が現れても、追い出されて終わりだ、信用されるはずもない。


「信じられるにしろ疑われるにしろ、ワシが王妃の身内だなどと気付かれると面倒なことも多くての」


 それはそうだろう、王妃は貴族だ。王妃の母君も貴族として生きている。


「ワシの血族はひっそり暮らしておったが、まさか生き別れてた娘が貴族へと嫁ぎ、孫娘がこのような大国の王妃になるようなことになるとは思いもしなかったんじゃよ」


 オババの血族が隠れて暮らさねばならなかった事情などは聞いていないが、獣人や鬼人などの亞人族とも、私達のような人族ともまた違う存在だという話だ。


「話はよくわからんが、婆さんは俺達の味方ってことでいいのか?」


「私達の、ではなく王妃と産まれてくる子供の味方だがな」


 それでも今回王の狙いを止めることになるのであれば、共闘する味方ではある。


「味方と思ってもらってよいぞ。ワシは孫娘のためにならお前達も敵とするが、そうはならん、そうじゃろ?」


 尋ねるオババに、私とレオスは力強く頷く。


 王とは親友であった。彼の味方をしたい気持ちもある。それでも私もレオスも女性、子供の味方だ。


 ソールも以前はそうであったのだ。


 弱い者の味方となり、守るために強い者とだって戦う。


 そのために立ち上がったのが私達で、この国を守るために戦う私達の世代の人間はほとんど同じ志を持っていた仲間だ。


「オババ、私達はそれが親友のためだと思うから、間違っているなら止めるために戦う」


 いよいよ明後日だ。


「ああ、友が道を違えたら、殴って正す、それが友情だよな」


 拳を握って突き出すレオス。


「ふっ、この脳筋が」


 私が笑うと、珍しくオババの笑い声も聞いた。



 まだ産気付く様子のない王妃だが既にレオスは王妃の部屋の近くに、オババと侍女として潜り込んである部下は部屋の中に控えてるはずだ。


 私は王の部屋の側にいるが、王は執務を行う部屋から動く様子はなく。現時点では王の協力者とみられる男や呪術師も姿はない。


 昼を過ぎた辺りか、オババから鴉の伝令が来る。


「いよいよか……」


 ソール、頼むから大人しくしていてくれよ。


 私達はお前と敵対なんてしたくないんだ。


「陛下、王妃様が産気付いてます。声をかける場面があるとは言えませんが、近くへと向かわれますか」


 部屋の扉を数度ノックして声をかけるが、反応がない。


「陛下!!」


 さらに強くノックしたがやはり反応はない。


 まさか!と思い扉を開ける。


 扉を開けると壁に穴が開いていることに戸惑ったが違う、壁が扉のように開いていて奥には人一人通れるくらいの道が見える。


「隠し通路だと!? 何をする気だ、ソール!!」


 追いかけるため慌てて隠し通路に入り、走る。


 するとすぐに突き当たり、下へと降りる階段があった。


 通路が一つではないため、おそらく城内のいくつかの部屋からこの隠し通路に入れる作りになっているのだろう。


 だが、他の部屋に移動したと考えるよりは、直感で下かと、下へと降りることにする。人が走るには狭い道、階段を、勢いよく駆け降りていく。


 王の居た場所は、城の三階部分であった。


 駆け降りた段数を考えるとすでに1階より下だろう。


「地下……」


 確かに城に地下はある、罪を置かした王族や、身分の高い貴族用の牢獄として使われる部屋などが。



 私はそれ以外の地下の部屋など知らなかったが、なんだこれは……


 その地下とは思えない広間には壁や天井、床にも刻印のような物が刻み込まれてる。


 床には太陽の刻印を陣のように描いてある。


 中央の陣を囲うように5人のローブの人影、陣の中心には王の姿があった。


「ソーーールーーー!!!」


 叫ばずにはいれなかった。


 どう考えても、まともなことをしてるわけがない。


 勢いで殴りかかろうとした私に、ローブ姿の一人が体当たりし、別のローブの人影が鎖を投げる。


 鎖は生きてるかのように動き、私の体に巻き付いていく。それほど強く締め付けられてるわけではないが、関節を封じられ動きを奪われる。


「オウロか、やはり止めに来たか」


 私に気づいた王。そして私が何をしているかも気づいていたのか。


「お前は何をしている! まさか我が子の誕生を阻むつもりでは、それを呪うつもりではないだろうな! そんなことを行うのなら私もレオスも、かつての仲間たちだってお前を許さないぞ」


 陣の中央の王は私に振り返り、苦笑を浮かべる。


「我が子の誕生を喜べぬほど堕ちたつもりはないさ、だが、私にはまだ太陽の力がいるのだ……」


 王の左手の甲にある太陽の天刻印、輝かしく光を放っていたその刻印の光は鈍く、鎖のような刻印がその上から刻まれてるように見える。


「だから、我が子にすべての力が渡ることを避けるために、この者達の鎖の刻印の力を使い、太陽の力を我が身から抜け出さぬよう封じているのだ」


「なんでそんなに力を失うことを恐れる! お前が戦場に立つ必要なんてもうないだろ、力なんかなくても私達の忠誠はかわらないぞ」


「そんな話ではない、私は私なりに我が子を守りたいのだ」


 なんで、そんなつらそうな顔をする。


 お前は自分勝手に、譲るべきものを譲らぬと言っているだけではないのか!


「いったいなんだというのだ! 友である私達にも話せない理由があるとでもいうのか!」


 ぐっ、王に迫ろうとすると、鎖を強く締め付けてくる。


 先程から人刻印の力を使い、腰の剣の力を解き放ち、鎖の呪縛から逃げようとしているが、鎖のせいか力が発動しない。


「オウロ、今はまだお前にも話せないし、お前に討たれるわけにもいかないけどさ……。いつか、俺を討ってくれよ、お前に討たれるのなら俺は……」


 何を言っているんだ……。






 この時、私は確かに聞いていた。


 だが、このあとすぐ気を失った私は、このことをあの瞬間まで思い出すことはなかった。





 太陽の天刻印を受け継ぐ

 

 ロベリア王国に、王女が産まれた


 太陽の力を持たずに



 その日は歴史上ないほど空は荒れ


 民にも多くの被害をもたらした

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