四部五章《923年》ヴォイド
元々、俺に関わる気などない態度の女だが、それでもうちに厄介になってる以上、話しかければ応じていたローレルだった。
それがルードがライ達とロベリア王国へと戻ってから、遠くを見つめ頭が留守になっていることが多いとメイド達から聞いて、様子を見に来るとまさにそんな様子だ。
私はノックをしたが気づいてない様子のローレルに構わず、部屋へと入った。
「ローレルよ、どうした? メイド達がお前の様子を心配していたぞ」
声をかけたが、振り向いただけである。
「ロベリアへと向かったルード達のことか?」
窓近くに置かれた椅子へと腰かけるローレルの側へと、部屋の隅におかれた椅子を運び座り話しかける。
「…………」
話こそしないが、今度は目を合わせた。
「なぁ、ローレル。お前は今、生きているか?」
ローレルを見つめ、話を続ける。
「ここに来た当初、お前はルードの言いなりに生きてる人形のようだった。それがこの国に来て少し時間が経った頃、前向きになったように見えていた。だが、今のそれはなんだ?」
足を組み、ローレルの方ではなく、窓の方に体を向けた。
「ルードはお前が生きてさえいればいいと言うのかもしれない、ルードは自分がお前のためにしたいことを出来れば満足なのかもしれない」
アイツなら本気で言いそうだしな。
「だが、お前はそれでいいのか? ルードに任せ、すべてを終わらせてもらってから、あいつに感謝するだけか?」
「…………」
「お前もなんとなくは分かっているんだろ、ルードがお前のために為そうとしていることは。アイツは、お前のために国を奪ってくるだろう。それをここでただ待つのか」
「…………私に何を…………」
続く言葉はなかったが、しろというのか、もしくは求めているのか、そんなことを言いたかったのだろうと思った。
再びローレルの方を向き、話を再開する。
「もう一度聞く、お前は今、生きているのか?」
すぐに返事を返すことはなかったが、先ほどまでとは違い、返答するためにちゃんと考えているのが分かったからそれを待つ。
少しの時間を置き、私に向けたローレルは死んだ目はしていなかった。
「…………私は多分、今さっきまで…………生きてはいなかったのだろう…………私は奪われるだけの人生でいろいろなことを諦め…………今度はルードが与えてくれるものに慣れ、与えられるだけ、受け入れるだけの人形となっていた……」
「ふっ、よく分かってるじゃないか」
「いや、あなたに言われるまで…………気づきもしなかった」
生きた目で私を強く見返したローレルに俺は笑みを浮かべた。
「なぁ、ローレル」
「…………はい」
「お前、ルードは好きか? 人間としてとかじゃない、男としてだ」
「な、何をいきなり……!」
立ちあがり慌てた様子を見せるローレル。
「ふはははは、なかなか面白い反応を見せてくれるではないか」
「からかったのですか!?」
生気のない顔をしていたローレルが、顔を赤くしていた。
この女は冷たく見られがちな容姿だが、こうして見ると可愛くも見えるな。
「いや、正直なとこを聞かせてほしい、お前が本気でどう思っているのかな」
再び考える様子を見せたので、急かすことなく待つ。
「…………わかりません」
再び椅子へと腰かけ、ローレルは答えた。
「…………ふむ」
「本当にわからないのです、彼には感謝しています。彼がしてくれたこと、私を救ってくれたこと、本当に感謝しているのです。ですが」
「ですが?」
気になる止めかたをするローレルに話の先を促す。
「好きかと言われると、今そう想ってはいないと思います。彼は秘密が多いのです、なぜ私のためにここまでするのか、それも分からず好きになど…………」
アイツはなんもローレルに何も語る気がないのか、それともすべてを為してから語る気でいるのか。じれったい話だ。
後者の可能性を考慮し、俺はすべてを語ってしまいたい気持ちを抑えた。
「馬鹿なやつなんだよ、アイツは」
前にローレルの前で冗談のように言ったことがあったが、好きな女のためなら世界すら敵に回すを本気でやらかすやつだ。
「好きでなくてもかまわん、アイツを信じてはやれ」
「…………」
「俺はロベリアに向かう、お前はどうする?」
まあ当然俺はあの馬鹿の驚く顔が見たいから連れていきたいだけで、ローレルが行かんというなら俺も行く気はないのだがな。
ここまで言ったんだ、もちろん俺の思う通りにするつもりではあるが。




