四部四章《923年》ルード②
不意を突くアンドラスの攻撃、影で作られたような狼に成す術もなく押し倒され、私は喉笛を噛みちぎられる。
はずだった。
「ほう、よく避けましたね」
フラウロスは感心していた。
私はその攻撃を避けはしたが、床を転がって避けたので服の汚れを払いながら二人の魔族と距離を取り立ち上がる。
「アンドラスの性格についても伝承にありましてね、剣士然とした態度には違和感があったので警戒していました」
正々堂々という言葉に相応しい振る舞いをする魔族も伝承には残っているが、このアンドラスという魔族は違う。
人々に不和をもたらす、現れた場所にてその場の人間を皆殺しにしたなどと伝えられている。
影の狼の話も知っていた。
「ふむ、意外と人間は慎重なのですね、あのような状況でも後世のために記録を残しているとは」
後世のために、というだけではないだろう。
かつて魔族と戦った勇者の仲間達の中には詩人もいた、人々のために、そして世界のために戦った仲間の活躍を語り継ぐ役目を持ったものがいたのだ。
「私達は正々堂々戦うのは好まないので、あまりこちらの手札を知られているのは気持ちのいいものではないのですが、かつて暴れた報いということですかね」
「何度も何度も甦っては悪さばっかしやがってるからだろうが」
アンドラスと向かい合いながら、私に近寄るレクス。
個で劣る私達には、一対一よりは二対二の方が最初から望む展開だったので、その流れに乗り合流する。
「おいおい、俺の狼が避けられるとか、フラウよ、タイミング間違ったんじゃないのかよ」
「あなたが下手をうっただけでしょう、私のせいにしないでもらいたい」
「なんだと、俺のせいだってのかよ」
「事実ですが何か」
揉め始めたフラウロスとアンドラス。
「お前だって隠し技の炎あっさりよけられてただろうが」
「あなたの技のための布石でしたので、本気ではありません」
「こんのくそが、だから俺はお前と組むのは嫌だったんだよ」
レクスが私に寄り、小声で話しかけてくる。
私は魔族達に気付かれぬよう応じる。
「なぁ、これあいつら同士討ちしてくれねえかな」
「無理だろ、そこまで馬鹿とは思えない」
そんなことを言ってると、急に嫌な予感がした、そして下から力の波動を感じ、慌てて後ろに飛び退く。
「なんだ!?」
レクスも私と同じく飛び退き、様子を伺う。
すると階下から、光の渦が床を突き破って現れ、そのまま天井を突き抜けていく。
なんだ、あれは。
刻印の力にしても、尋常ではない力だ。
「なんだよ、ありゃ」
それは私も聞きたい。
階下から空まで大きな穴を残して、光の渦は消えた。
何が起こったのかは理解できなかったが、それが私達に有利に働くことはすぐに分かった。
「いくぞ、レクス」
「おうよ」
穴に背を向け王の間へと走る。
その床の大穴は私達と魔族の間にあり、私達は王の間への扉側にいたのだ。このチャンスを逃すことはできない。
その様子に気づいたフラウロスとアンドラスだが、飛べないフラウロスはその足を止め、アンドラスは服を破り現れた翼で羽ばたくが飛べるというわけではないのか壁を走りながら近寄ってくる。
「待ちやがれ、てめえらぁぁぁ」
先程までとは態度が違うが、これが本性なのだろう。
「ついてこれるもんならついてこいや」
挑発するレクスを、怒りを隠さないアンドラスが追いかける。
穴を挟み残ったフラウロスの後ろにはライの姿が見えた。
任せてよいものかと思ったが、今は気にしてる余裕はない。
「レクス!」
声をかけ、王の間の扉を蹴破り突入し、扉の脇で待機し、アンドラスとレクスが入ったのを確認して閉じた。
王の間には、王がいると思っていたがその場にはいなかった。
「とりあえずこいつを倒すしかないだろ」
王が居ないことに気づいたレクスが、私に言った。
それくらい私にも分かっている。
手の内を知っているアンドラスと、私とレクスの戦いは二対一なのもありそれほど苦戦することもなく終わった。
アンドラスの影の狼を、私の影の刻印で支配し奪うことが出来たのも大きかった。




