3部5章《923年》アレリア
先程からずっと、飛び出して行きたい気持ちを隣のクロに抑えられてる。
「リェーナさんを助けるんでしょ、まだ!?」
黒馬に跨がる黒騎士と相対してるリェーナさんは、攻撃を避けることに必死だ。時間を稼いでるというのもあるのだろう。
「ルードさんやレクスさんが完全に行くまではダメだ。もし戻ってきて、あの二人に見られたらまずい、ここで接触した記録が残ってなかっただろ」
「分かってるけど……!」
「アレリア、歴史は変えちゃダメだ。僕達はあくまで歴史に残ってるとこで助力するだけだよ」
言ってることは理解してる。
歴史を変えてしまえば戻る場所がなくなってしまうのだ、それは避けねばならない。
だが、あの時もそうだったが魔族に襲われる人をただ見てるのはつらい。
「気を付けなよ、僕達がここで死んだ記録はないけど、それは確実に勝てるって意味じゃないんだ」
焦る私が先走って危険な目に合わないよう注意してくれてるのは分かる。
分かるけど……。
「クロ、私はもう行くよ」
「アレリア!」
「もう戻ってこない! 二階でも戦いが始まったよ」
魔族の気配を探ることは慣れている。
天井越しだろうと魔族が戦っているのは分かる。
「こいつは私が倒していいはずでしょ」
「それはそうだけど」
渋るクロの制止を振り切って走る。
城への浸入は、お父さんとセイア兄さんに教わったカードの魔術を使い、皆の突入の直後に入った。
二人で行動するだけなので、影、月、雨のカードで距離が離れると味方にすら認識されなくなる魔術だった。
「リェーナさん!」
駆け寄る私の存在に気付いたリェーナさんは驚いた顔をし、私に気付いた黒騎士は馬上から槍を突き出してくる。
「そんな槍、効かない。スピルの槍に比べたら、児戯だよ!」
「あんまり名前出さないようにって言ってるだろ、いろいろまずいんだからさ」
槍を避け、組立て式の棍を組み、棍で殴りかかる私のフォローをしつつ注意してくるクロ。
刻印の力で一瞬だが黒騎士の動きを止めてくれたから、腕の関節部分を狙って攻撃を加える。
「ナイスだよクロ!」
黒騎士はダメージを受けたようには見えないが腕を下げている。
「僕の言ってること理解してる?」
親指を立てグッジョブを送った私に呆れた顔を返してくる、ごめん、うっかり口走った。
「お主らは一体……それに先程ワシの名を」
リェーナさんがこちらを見つめてくる。
傷を負ってる様子はないが、先程までの黒騎士との戦いで疲労していたようだ。座り込み回復につとめてる。
「あー、これ言っていいやつ?」
「だめなやつ」
「だよね」
確認を取るまでもなく分かってたことだけど、この時代で私が言って大丈夫なことなんてほとんどない。
「味方ってことだけ分かってもらえれば大丈夫、この黒騎士を倒すまでは一緒に戦うから」
「さっきからこいつとか黒騎士とか、もしかして名前忘れたの?」
「うっ……」
リェーナさんにカッコつけたつもりがクロに図星をつかれて少し間抜けな表情を浮かべてしまった気がした。
「キマリスだよ」
「そんな感じだった」
再び呆れた顔をするクロ。
「そんな感じというか、そうだよ」
ごめんってば、真面目にやるからさ。
腰の袋から竜、獅子、棍のカードを出し、魔術を発動する。
攻撃を与えた箇所に衝撃を加えることの出来る魔術だ。
「魔術じゃと……」
「喰らえキマリス」
先程攻撃を加えた場所を再び狙う。
一撃では効かずとも二撃三撃と続ければ効くことは、今までの魔族との戦いで学んでいる。
魔術により強化された攻撃は、よりダメージを蓄積させることができる。
「クロっ」
棍を振り、槍を払いながら声をかけると、刻印の力を使い、一瞬だがキマリスの動きを止めてくれる。
「よしっ」
再び関節部への攻撃が通る。
人馬一体となり、下半身のみで馬を操り、両手で巨大な槍を扱うキマリスだが、片手を潰せれば攻撃手段を一つ奪える。
だが、片腕を潰したことで戦い方を変えてきた。
先程までの馬を極力動かさず両手槍での攻撃だったが、使えなくなった方の腕に手綱を巻き付け馬を激しく操り突進させ、右腕に持った鉈のようなもので攻撃してくる。
「気を付けて、アレリアの棍じゃ防ぐのは無理だよ」
「大丈夫、まともには受けないで、受け流す」
問題は馬の動きの方だ。
普通の馬ならともかくキマリスの召喚した馬は魔物のようで、突進だけでなく噛みつきや、肉食の獣の爪のような蹄でこちらを狙ってくる。
黒馬の突進を、噛みつこうとしてくるのを、切り裂こうとしてくる爪を避けると、上からキマリスが鉈を振り下ろしてくる。
どの攻撃も防いでも衝撃で吹き飛ばされるため、避けきれないものは棍で受け流しているが、キマリスがこの戦闘スタイルになってからは有効なダメージを与えられないでいる。
「この暴れ馬めっ」
「牙生えてるけど、馬っていっていいのかな」
刻印の力を先程から使っていて消耗してるのか、とどめのために温存しようとしてるのか、刻印を使わず腰の袋から石を取り出し、キマリス達に投げつけて注意を引いてるクロ。
「じゃあ、なに」
「思い付かない」
黒馬の目に石が当たったのか激しく暴れる。
人馬一体とはいったが、あそこまで暴れると上のキマリスも攻撃をする余裕は無さそうだ。
「なら真面目に戦いなさい!」
「君が言うかそれ」
「クロ、もう一回、というか続けて今の狙ってみて」
連携を取られるくらいなら、キマリスが動けないようにしつつ、先に馬の方だけでも倒してしまうほうがいいと判断した。
私の言いたいことが伝わったのか、頷いたクロは石を連続して黒馬の目を目掛けて投げ続ける。
「私が魔術で援護する、そのまま続けて」
再び暴れる黒馬を見て、有効だと思い、より有効に戦いを進めるため魔術を使うことにする。
(星、雨、石のカードよ、力を貸して)
投擲される石に流れる星のような勢いと衝撃を与えることをイメージした魔術だ。
「確かに効いてるんだけど、僕ばっか狙われてるよ」
「頑張って!」
「無理! 僕にはそんな戦闘力はない!」
目を狙って執拗に攻撃をしてくるクロに怒り狂った黒馬は、見えてはいないはずだが的確にクロを狙って突撃を繰り返してる。
元々近接戦などを苦手とするクロは息を切らして走り、必死に避けている。
「頑張ってくれたらキスしてあげるから!」
「セイアに殴られそうだから遠慮するよ、それより早く代わってくれ、限界だよもう」
冗談に対してキレ気味で返してくるクロ。
これは本当に余裕がなさそうだ。
「クロ。……アレ、使っちゃ駄目?」
この時代では使うなと言われているが、切り札がないわけでもないのだ。
ただクロは渋る。
「使わずになんとかできないかな」
「長引くといろいろまずいでしょ」
黒馬の攻撃を必死に避けながら、難しい顔で考えてるクロ。
意外に余裕あるんじゃないの?
「わかった、少し時間は稼ぐから、でかいの一撃で決めなよ」
了承を得て、私は刻印の力を高めていく。
左手の刻印は兄さんにもらった黒の手袋ごしにも分かるほどの光を放っている。
(私の力は世界を変える)
そう強くイメージする。
私の刻印には分からないことの方が多い、何が出来るのかも分かってはいない。だけど世界という名前を与えられた私と刻印はイメージの力でどんなことも出来ると思う。
「クロ、ごめん」
消耗してるのは分かるけど、と続けようとするとそのまえに手で遮って刻印を発動させてくれる。
クロの刻印だって、ここで使いすぎるのはよくないはずだけど、私が弱いから。
いろんな想いをこの一撃に込める。
黒馬を倒してもキマリスが残る、そんなこと分かってるが力を残しての攻撃なんて出来ない、すべてを込める。
「喰らえぇぇぇぇぇぇ」
クロの刻印により動きを止めた黒馬とキマリスを、下から貫くように棍を突き上げ、世界の力を解き放つ。
熱を持った光の渦のような衝撃は、棍の周囲を包み、棍の突きだされた先からそのまま斜め上前方へと飛んでいく。
力を解き放った私は立っている力も残らず座り込む。
黒騎士達と私の間に庇うような位置にリェーナさんが駆け寄ってきた。
「一撃で、とは言ったけど誰も城を吹き飛ばせとは言わなかったよ」
批難するように言ってくるクロ。
「あは、ごめん、ちょっと力込めすぎちゃったかな」
見上げると、黒馬とキマリスを貫くような大穴が開き、その先、空が見えるということは私の一撃は城をも貫いてしまったということだろう。
さすがにちょっと苦笑する私の頭をクロが拳で小突く。
「帰ろう、とりあえず今回はこれで終わりだ」
クロに肩を貸してもらい立ち上がると、リェーナさんに背を向ける。
この状況に唖然としていたリェーナさんだが、はっとしたのか私達二人を呼び止めた。
「おぬしら一体何者じゃ」
振り返る私に余計なことは言わないようにとクロがつついてくる、わかってるよ。
「リェーナさん、おば……えーと、ローレルさんに刻印の力の使い方を教えてあげてね。あとルードさんに魔術も」
何を言っているのか、という顔だが一応聞いてくれてることを確認して最後に大切なことを言う。
「今年中、遅くとも来年の半ばまでにはハインさんに会いに行って、アレリアが来た、魔王が来る、そして私とクロはその時は来れないと、そう伝えて」
「このことはハインさん以外には言わないように、ってのも言わないと駄目だろ」
「そうだった」
それは本当に忘れてた。
「リェーナさん、長生きしてね、それじゃね!」
クロの刻印の力で私達はその場から姿を消した。




