表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印のアレリア  作者: 砂ノ城
第一の物語・月の姫
12/21

3部3章《923年》ルード①

 ランスからの宣戦布告以後、国内の戦力をランスとの国境付近へ送り込みつつ、私達は王都へ向けてこちら側の戦力を動かすのに忙しくしていた。


 王都での王側の戦力を減らし、王を戦力で上回るためだ。


 部屋にこもり書類へ向かう、そんな日々を過ごし、あと数日で動き出せるところまで来て、気晴らしに外にでもと出てみることに。


 すると昔感じたことのある禍禍しい気配を庭の方から感じ、慌ててそちらに向かって走った。


 庭に着いて見えたのがローブ姿の者の腕が、倒れこんでるコウへと振り下ろされる所であったので、腰の折り畳み式の棍を一瞬で組み立て、攻撃を防ぐために二人の間に割り込んだ。



 コウを庇い、相対した魔族フラウロス。


 フラウロスと名乗る豹顔はアムドゥスキアスの話の後、私を討つことを決めたらしく、元々放っていた禍禍しい気配がさらに強くなってくる。


 組み立てた棍は、私の背を超える長さだ。


 棍の中心部分から少し左右を両手で持ち、片方の先端をフラウロスに向け、中段に構える。


「貴方、強いですね」


 フラウロスの言葉に苦笑する、どう聞いても上からに聞こえる声だった。大人が子供に対して強いと言うのと変わらなかった。


 かつて、勇者と呼ばれた者達との戦いに魔族達は敗れた。


 だが彼らは当時も今も大多数の者達に対して絶対的強者だ。


「思ってもいないことを、言うな」


 前方に踏み出し、勢いをそのままに棍を突き出す。


「ほう、刻印持ちでしたか」


 さらっと避けておきながら、言うな。


 不意を衝くために一撃目から、影を使い、フラウロスの動きを止めて突くはずが、地面を這って寄った影も、突き出した棍も避けた。


 これは、一人で勝てる相手ではないな。


 撤退を視野に入れて戦わないといけないなんて、あの竜と戦った時以来か。


「私達は、刻印持ちには手加減……出来ませんよ!!」


 ローブの下の豹顔が大きく歪み、飛びかかってくる勢いのまま振り下ろされる右腕の爪を棍で弾くと、続けて左腕が……


 横に転がるようにして避け、下にしゃがんだ姿勢から横に棍を振り足を払って相手の体勢を崩そうとするが、フラウロスはそれを軽く跳んで避けると、再び飛びかかってくる。


 さらに転がって避けようとすれば出来たとは思うが、誘い込むように、ギリギリまで引き付けて、長さの半分で分離させた棍で腹部を突く。


「ぐっ」


 直撃が入った!


 腹部を突いた棍と左手はそのままに、分かれたもう一本の棍と右手を使い、フラウロスの肩を叩き付け、刻印の力で実体化させた影を紐の形に操り上半身を拘束する。


「コウ、今のうちに城を出るぞ!」


 時間を稼げたからか、倒れていたコウも動ける程度には回復したように見えたので、声をかけ、コウの方、その先の城の出口に向うよう走る。


「ルードさんっ、放っておくんですか!?」


 私を追いかけるように駆けながら後ろを振り返りフラウロスの様子を確認してる。


「振り返らず急げ、多分影の拘束もそう長くは保たない。」


 人間相手なら半日でも一日でも拘束してみせるが、すぐ振り払われるだろう。


 城から出ると、慌てた様子のライとオウが合流した。


 何があったのかと尋ねるライに首を振り、四人で街中へと逃げる。


「追ってくる様子はないようだな」


 もめ事を起こすつもりはないのかもしれない。王のそばにいることを隠しておく必要もあるのか。


「ルードさん、なにがあったんすか」


 路地裏へと入り込み、一旦休息を取っている。


 オウがコウの折れた腕の治療をしてる。


「魔族が出た」


 私の言葉に眉をひそめるライ。


 ロベリアでも当時目撃した私や父、ローレル様以外は信じないだろう話だ、ランスのライ達には信じられないだろう。


「信じられないかもしれないが、私は子供の頃、この国で魔族と出会っている。魔族達はかつての勇者達に倒され、封印された、それは実際あったことなんだろう」


 そんなようなことをフラウロスも口にしていた。


「だが、封印が解けたのか、甦ったのか、魔族はこのアレリア大陸に確かにいるんだ」


「ライ……私も見たんだ。あれは獣人とは違う、魔物とも」


 自分を抱きしめるようにして体を震わせながら言うコウ。


 ライは真剣に私を見る。


「信じますよ。自分も感じたことない気配を城の方から感じたので向かってたんです、信じざるを得ないです」


 ライに、オウも同意するように頷く。


「城に攻め込むにしても奴が立ちふさがる、奴を倒すことも考えねばならないとなるときついな」


「ルードさんがそこまで言う相手ですか」


 ライは私を実力以上に買い被ってるところがある、それに苦笑する。


「私一人ではどうにもならない、そんな相手だったよ」


 暗い気持ちになることではない、元々難しい戦いだと分かっていて準備してきたのだ。


 今さらやめられない。


 少し一人で考えさせて欲しいと三人に伝え、城には戻れないので、父の行きつけの店の個室へ戻る。


 レクスやライ達と城では出来ない話をするのにも使うため、個人的にもう数か月貸しきってるため自室みたいなものだ。


 寝台に横になり、天井を見上げ、目を閉じる。


 魔族の出現に関しては予想外、とまでは言わない。かつて見た魔族、王の周囲の怪しい者達の異質な気配。


 可能性は考えていた。


「フラウロス……第9の魔族だったか、アムドゥスキアスは第6」


 千年も前の話だが、魔族に関しての書物は多い。


 天刻印を使って世界を救った勇者の物語、当然創作の入ったものも多いが、事実を元にしていることもある。


 三百年ほど前にいた歴史学者が、多くの書物に共通する出来事から実際に起きていたであろうことをまとめた書物を出した。


 これは知らない者の方が大多数の話だが、千年前以前にも魔族達はこの大陸に現れ、人間達を長い間支配していた時代もある。


 その歴史学者は各地の遺跡などから、そう結論付けた。


 魔族がどこにいるかまでは分かっていないが、元々こちらの大陸にいるわけではないと言われている。


 そんな魔族達が大陸に出てくるとき、出現順があるそうだ。


 魔王と呼ばれる者達の出現、これは七体いるらしい。


 魔族と呼ばれる者は七十一体。


 魔王の出現に関してはいろんな説があるので分からないが、魔族の出現順はその学者がまとめている。


「出現順的に言えばフラウロスとアムドゥスキアスの間には二体。フラウロスがいる以上、居ると考えていたほうがいいだろう」


 必ずこの国にいるわけではない、出現順的に言えば居ても不思議ではないだけで、アムドゥスキアスの出現から今日までに他の種族の天刻印持ちに倒されている可能性だってある。

 

「フラウロス、私とレオスでなんとか出来るか。だが、あと二体いるとしたら……」


 二人で何とか出来る、というのも希望も入ったものだ。


 戦った感想からしたら、二人ではギリギリなところだ。


 それでも、あれほどの強者との戦いなると単純に人を増やせば勝てるものでもない。足手まといになることもある。


「魔族と戦える人間なんて……」


 ノックに気付き、体を起こす。


 許可を出すと入ってきたのはオババだった。


「オババ、エルフの森にいたのではなかったのか」


 前回会ったのはもう二年ほど前だ。


 エルフの知人に会いに行ってくるとロベリアを出てからになる。


「おぬしがローレルのために戦うというのにワシがのんびりもしておられなくての」


 つまり私の話を聞き、この国に戻ったのか。


「だがオババ、今はもう……」


 私にとっては師の一人でもあるオババ。


 ローレル様が産まれたあと、ローレル様へ移り行き弱っていく天刻印の力と、身につけた魔術で戦うオババに十代前半頃の私は手も足もでなかった。


 それでもローレル様ももう二十歳になり、天刻印も完全に移っている。それはオババの力は失われたことも意味する。


「刻印の力はなくとも、身につけた魔術は残っておる、足手まといにはならぬよ」


 そう言うオババ。私が何を言っても、参戦してくるのが分かった。


「オババよ、ロベリアにはやはり魔族がいたぞ」


 私の言葉にオババは目を見開く。


 いつものローブのフードを取り、顔を出してこちらを見てくる。私が産まれた時ですらかなりの年齢だったが、今はもう九十歳近いはずだ。銀髪だったというその髪はすでに白髪になっている。


「国王が呼び込んだのか、魔族に支配されてるのかわからないが、城には魔物や魔族がいると考えられる」


「戦いになるのかの」


「既に戦ってしまった。王を探ってくれていたランスの王子の部下がいるんだが、魔族に気付かれ襲われた。無事には済んだが、私とその者はもう城へは簡単には入れない」


 城の中が完全に敵になったわけではない、レクスなら出入りも可能だろうが、私が入ればフラウロスが気づくはず。


 王を押さえるための戦い、その日までは城へは行かない。


 王を捕らえるまでの戦力の計算の直しが必要なんだが、これ以上の戦力といってもあてもない。


「……時間稼ぎ程度ならワシでも可能じゃろう、その間に王を捕らえることが出来ぬか? 魔族が王の味方ということならともかく、利用しようとしているだけであれば、王の身柄を押さえれば立ち去るかも知れぬ」


 それも希望的観測だろう。


 だが、それを期待しないと戦えない。


「オババを死なすことになるかもしれない」


「かまわぬ、ローレルのために戦おうとしてるお主の役に立つのならな」


 私はオババには世話になった、出来ることなら戦いになど加わらず過ごしてほしい。


「すまない、戦力が足りなすぎた」


 十分とは言えないのは分かっていたが、ここまで足りない状況で戦いを始めなければならないとは思わなかった。それを直前に知るとは。


「ルードよ、オウロとレオスにも期待してよいぞ、あやつらもついに戦う覚悟を決めおったよ」


 目を伏せていた私にオババが言った言葉は、私に少しだけの希望を与えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ