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刻印のアレリア  作者: 砂ノ城
第一の物語・月の姫
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3部2章《923年》コウ

 年明けから私はルードさんの頼みで、ロベリア国王ソールの近辺に潜んでいた。影の地刻印を持つルードさんの教えもあり、私は人刻印ではあるが影の力を人よりうまく使える。


 ライは私がこの任につくことは反対していた。危険だから自分がやると言ってきかなかった。


 だが潜入ならライよりも私の方が上だという自負もあるので押しきると、危なければ逃げろ、それだけは必ず守れと言い、私に任せてくれた。


(殿、任された仕事はしっかりこなしてみせますよ)


 ローレル様を送るために国に戻ってから会えてない殿のことを想うと頑張ろうという気力が沸いてくる。


 そろそろランスからの宣戦布告が届く頃だろう。

 

 その後ロベリア国内ではランスへ対抗するための兵を集めてると見せかけて、その軍をロベリア王城へと進め、城を包囲し王を取り押さえる予定である。


 私の役目は王の所在地を常に把握し、ライやオウと連絡を取り、ルードさん達に伝えることだ。


 ルードさんに聞いて知ってはいたが、王の周囲にはローブの怪しいやつらが分かる範囲で数十人いることを確認した。


 ほとんどは気配が希薄で兵士並の強さにしか感じないが、そのうち数人は相当な強さを持つことが気配でわかる。


 それに完全支配されてるわけではないと思うが、思考の方向を操られてると思われる国内の貴族や、兵を率いる立場に居る者達が多く見られる。


(これがルードさんの父上達が王を止められなかった理由か)


 ルードさんの父、オウロ様は国が悪い方へ傾いていくのをギリギリのところで支えつつ、反攻のための力を蓄えていた。


 レオス将軍も王達の影響を受けてない者達の選別もしているようだ。


 ルードさんの望みはローレル様に、この国の王位を。


 ということらしい、私にはその理由は分からないが、今のロベリア王は狂っているとオウロ様やレオス将軍達も思っているそうだ。


 もうじき戦いが始まる。この国を変えるための戦いが。



 ランスからロベリアへの宣戦布告が届き数日が経つ。


「コウ、いよいよ始まるぞ。お前はこのまま王の動きを把握することに務めろ、ただし危ないと思えば逃げろよ、命がけで任を果たすことなど殿様もセンも望みはしないぞ」


 私とルードさん達の間を行き来し、情報の伝達係をしているライが、殿やルードさんの前ではふざけた様子で話すのに真面目に忠告してくる。


「わかっているさ」


 そう返す私に、困ったような顔をして苦笑する。


「お前がどんなことにも真剣で必死なのはわかってるが、お前が無茶して傷付けば皆悲しむんだ、気を付けろよ」


 実の兄であるセンはもちろん、九人衆の皆や殿は私にとって兄のような、家族のような存在だ、心配してくれてるのは理解してる。


 だが、それ故に期待に応えたい、役に立ちたいという思いも強い。


 去っていくライに、でも、ありがとうと心の中でだけ感謝を伝える。



 ライが去った後、数時間が経つ。


 一日中付きっきりでは寝る間もないので、深夜王が就寝したのを確認したのち、オウに変わってもらって私も睡眠を取るのだが、日が変わっても寝る様子がなく、一時間ほど前に訪れ、今もなお部屋にいるローブの者は普段居る者達とは比べ物にならないほど強く禍禍しい気配を放っている。


 これは、なんだ。魔物のもののようで、それより危険な。


 正体をなんとか探れないかと様子を伺っていると、まずいっと感じて、壁をすり抜け、その場から離れる。


 部屋の内部に潜み、影の力を使い姿を隠し様子を伺っていたが、一瞬気が弛み、その気配で気づかれた。


(あれは、やばいやつだ)


 逃げろ、そう言うライの言葉が聞こえた気がした。


 何度も何度も言い聞かせられたからか、思った瞬間逃げ出すことが出来た。


「そんなに慌てて逃げなくてもよろしいのに」


 部屋から逃げ、そのまま外へ飛び出て城の庭へと逃げていた私の後ろから声がかけられる。


 しまった、後を追われたか。


 そのまま振り向くのは危険だと感じ、前に飛び、振り返って向き合う。


 王の周囲にいる者達と同じローブだが、正面から見てその者の異形さに気づいた。


「豹の……顔」


 獣人族というもの達がいる。しかし彼らは耳や目、爪や牙など一部獣の部分を持つだけで基本は人だ。


 だが目の前の者の顔は、豹そのものだった。


「そんなに驚くほどのことですか?」


 豹の男、いや性別はわからないが声でそう判別したが、そいつは豹の顔を撫でながらそう言った。


「お前はいったい……」


「ふむ、名乗ればよろしいのかな?」


 そんな言葉に私は応えられずいると、勝手に名乗る。


「私の名はフラウロス、偉大なる七王に仕えるものの一人です」


 フラウロスという名に聞き覚えはなかったが、偉大なる七王とは魔王のことだと分かった。


 つまりこいつは……


「魔族だというのか……」


「その通り、ご存じでしたか、私達のことを」


「……千年近くも前の話だ、物語で伝え聞く程度だが」


 禍禍しい気配を放ちながらも、丁寧な口調で話すその魔族と私は言葉を交わす。


「そうですね、私達はずいぶん長いこと封印されていたのでそんなものでしょうねぇ」


 過去を思い出すしてるのか目を瞑ったので、その隙を突いて逃げられないかと思ったが、動けなかった。


 動いたら死ぬ、そう感じてしまったのだ。


 これが魔族。人類の敵……


 動きの一つ一つを警戒する私だが、魔族は私の動きなどさして気にする様子もない。


「お前……いや貴方は一体この国で何をするつもりなのですか」


 実力差を戦わずともわかってしまったので、機嫌を損ねるのは危険だと、お前から貴方に言い直すと、豹の顔が笑みを浮かべたように見えた。


 獣の表情というよりは、人の表情に近い変化だった。


「嫌いではありませんよ、そういう態度。かつての戦いでは、言葉を交わすこともなく斬りかかってくる者ばかりでしたからねぇ」


 魔族の言うその戦いとは、千年も近く前の勇者達の戦いのことだろうか。


「しかし勇者に葬られ、死んだはずの私が封印が解けると生き返っているというのも不思議な話ですね、死者を蘇らせるあの方の力か、それとも……」


 考え込む様子を見せたが、私のことを思い出したのか、こちらに目を向けた。


「おっと、すいません。つい考え事を」


「……」


「あなたの質問は私の目的、でしたか? この国に友が居ましてね、彼の協力といったところでしょうか」


 それは、まさかロベリア国王のことなのか。


 それとも、別の魔族がこの国に……。


「私にそんなことを話していいのですか」


 尋ねてはみたが、答えは察した。


「分かっているでしょう?」


 こいつは私を生かして帰す気はない。


 先ほどまで動けずにいたが、急激に高まる殺気に覚悟を決め、恐怖を振り切り、逃げようと動く。


「ほう、逃げますか。逃がしませんけどね」


 魔族とは反対の方向に走り出した私だが、飛ぶように走る魔族に回り込まれ、立ちふさがれる。


 咄嗟に刻印を使い、姿を消して距離を取るが、そのまま追ってくる。


「くそぅ……」


 獣が爪で引っかくような動作で振り下ろされる腕を、腰の短刀を抜き防ぐ。


 刃物のような爪がすべての指に生えていた。一撃でもまともに喰らえばそれで終わりだろう。


 姿を消すのは意味がないか、と影に潜むべく溶けようとするが、その前に蹴られ、吹き飛ばされ横たわる。


 ぐっ、防いだ腕が折れた……。


 痛みを耐え立ち上がろうとするが、蹴りを防ぐのに咄嗟に出した左腕が折れていて使えず素直に起き上がれない。


「これで終わりですかね」


(殿……兄さん、ごめん……私……)


 倒れた私へと振り下ろされる鋭い爪に目を閉じる。


 が、想像したその衝撃は来なかった。


「ルード……さん」


 私への攻撃を、ルードさんが常に持ち歩いてる折り畳み式の棍で防いでいた。


「すまない、コウ、危険な目に逢わせてしまった」


「おや、今度の私の相手は貴方ですか」


 楽しげな声を出し、笑顔のような顔をしてる。


「魔族、ですね」


 確認を取るように言葉にしたルードさん。


「豹顔、シトリー、オセ……フラウロス」


「……ははは、興味深いですね。豹顔の私を見て、そこまで絞り込みましたか。私はフラウロスです、どこで魔族のことを?」


 私にはフラウロスという名すらピンとは来なかった。


 それなのにルードさん、あなたは一体。


「昔、アムドゥスキアスって魔族を見たことがあり、それからは文献などから魔族のことは調べてましてね」


「ほう、貴方が彼を?」


 倒したのか、そんなニュアンスに取れた。


「当時、八歳だったので倒したのは私ではないですね」


「彼とは別に友人というわけでもないですが、同族のよしみで仇を討っておくとしますか」


 豹顔の魔族は私と相対してた時とは比べ物にならないほどの圧力を感じさせる。




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