第3章8 「動き出そうとした時間」
「フィ…リア」
侑が私の名前を呟いたのだ。
今まで、返事と言っても頷いたりしただけで声を発したのは初めてだった。
「侑?私よ?解る?」
「ああ…今までも認識してたけど、声が出なかったわ…はは」
「どうして急に出る様に」
「あれ…だと思う」
そう言って指差したのは、先程食べたお菓子だった。
「あれ食べて、城に初めて行った時の事思い出して、まだここで終わっちゃいけないな…って。そう思ったら自然と意識がはっきりした。はは…普通に考えたら簡単に考えれる事なのに、やっぱこうなると難しいもんだな…」
「うんうん…良かった。良かったよ」
私は、自然と涙を流していた。本当にほっとしたんだ。侑がもう戻って来ないと半ば諦めかけてたから、本当にほっとしたんだ。
「フィリア泣くなよ…」
「泣いてないもん…」
「夜でも分かるよ」
「侑のばか」
「あはは、フィリアちょっと変わった?」
「誰かが私に迷惑掛けたから変わっちゃったのかもね」
「おもしろいな。フィリアは」
「本当に怒るよ?」
「ごめんなさい…」
2人で話していると、茜が起きてきた。
「フィリアちゃんどうしたの…1人で話…って…侑君!?」
「茜さん。ごめんね?戻って来ちゃった」
「何がごめんよ。戻って来てくれなきゃそれこそ怒ってたわよ」
「ありがとう」
「良かった~フィリアちゃんに感謝しなさいよ」
「解ってますよ」
こうして、凄く急と言えば急な展開になった。私も予想してなかった展開に。
信じて良かった。侑を。そして私自身を。
翌朝、目覚めると侑が机に座っていた。
昨夜の出来事が夢で無かった事にほっとした。
一瞬そう思ったから。
「侑おはよ」
「フィリアおはよ」
「…」
「…」
「あのさ、フィリア」
「ん?」
「どうしてフィリアはこの世界に居るの?」
「それは…私にも解らないの」
私は、この世界に来てから茜に会うまでの事を話した。
「そっか…フィリアも大変だったんだね」
「ずっと意識下に居たからやっと動けた~って感じだけどね」
「どういう意味よそれ(笑)」
「あー笑った。侑のばか」
「はいはい、拗ねないのお姫様」
「そういう時だけお姫様扱いしないでよ」
そんな会話を2人でしていたら、茜が起きてきた。
「朝から賑やかね。夫婦揃って」
「茜さん前にも言いましたけど、私と侑はそんな…」
「見てて心が痛むわ~おばさん。今度は私が病むかも」
「茜さん遠回しに俺をディスってません?」
「大丈夫!ディスってるから!!」
「やっぱり(笑)」
ディスってるって言葉の意味がよく解らなかったけど、何となく茜が侑を貶している様に見えた。
「ねぇ、侑君」
「何でしょう?」
「もう、あっちには戻らないよね?」
「戻ると言ったら?」
この時、新たな時の流れが動き出した。
to be continued…




