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シグルドさんは元気です

遅れるわ短いわ……二作同時進行は無理があったかと、相変わらずの見切り発車に頭を抱えている作者です。



 あれから約一日が経ち、シグルドさんは何とか一命をとりとめた。

 ノーディの背に乗ったまま眠ってしまった俺が壁に着いた時にずり落ちそうになったり、衛兵ではなく治療の心得がある医者に来てもらったり、その人にもう少しで死んでいたと太鼓判を押されたり。

 いろいろあったけど、シグルドさんは元気です。

 そして俺たちは今、街の診療所のような、病院のような場所に入院している。

 なんだかんだと動いてはいたが、俺は左足にひびが入っていて右足が折れていたし、ハーモニーに関しても歩けないほどの怪我を負っていた。幸い出血はどちらも大してなかったそうだが。

 あれだけ動き回って出血がないってあり得るんだろうか。HP回復さんが仕事してくれたの?

 それと、女の子はハーモニーと違って大した怪我もなく、お母さんに散々怒られてから家に帰されたらしい。お礼をしたいからぜひ家に寄ってください、と伝えられたそうだ。

 ちなみに、件の医者の方はこの病院、のようなところには務めていないらしい。俺も途中でまた眠って……というか気を失ったせいで、住んでいる場所も聞くことができなかった。

 ここまでの情報はトランさんから聞いたものだが、当の本人は「私は傷も特に負っていないから」と言って、ギルドへの報告や診療所? の入院費用の支払いもしてくれていた。

 頭が上がらねぇ……。


『ねえ、なんでさっきから病院とか診療所とか曖昧なの?』


 ベッドの隣にいるリンが、体を揺らして問いかけてくる。


『いや、何というか……確かベッドの数で病院て呼ばれるか診療所って呼ばれるかが変わったような……どっちだったかな』

『そんな学校でちょっと学ぶ程度の知識で悩まれても……気にしなくていいんじゃないの』

『そもそも変わったっけな?』

『前提から崩壊してる!? 本気でどうでもいいよ。それにここ、治癒院っていう名前らしいし』

『ああ、そうなのか』


 そんなのあるとか知らなかった。

 ベッドから体を起こし、隣で眠っているシグルドさんを見る。シグルドさんの怪我は片腕の粉砕骨折に内臓破裂。腹の一部が削り取られ、下半身の動きに直結する神経が切れていたとかなんとか……が、治癒魔術によって全快したらしい。今は治癒後の経過を、念のために見るということで入院している状態だ。

 便利すぎるだろ治癒魔術……。


『なんでもシグルドさんを担当した治癒魔術師さんが、物凄い腕だったらしいよ。私たちがここには入れてるのも、その人が安全を保障してくれたおかげだって』

『へー……ちなみに、その人の名前って最初に‟ル″がついたりしないか?』

『そんで最後の文字が‟ア″だったりするんじゃない?』


 思い浮かべた人は同じだったらしい。確証はないが、あれだけの大怪我を治せる人がそう多くいるとも思えない。じゃないとこの都市の戦力がやばいことになるぞ。

 偶然、この場に居合わせた――のか? いくら何でも都合がよすぎる気がするが……。誰かが呼んだのかな。

 まあ、今はいいか。それよりも、シグルドさんが起きたら謝らないとな。


『許してもらえるかな』

『どうだろうなぁ……。とにかく謝りたおすしかないだろ』

『命が助かったんだし、そこまで責められはしないと思うんだけどね。ジンだって怒らないでしょ?』

『いや、俺は普通に怒るぞ。それで相手に罪悪感抱かせて貸し一つって言ってやる』

『やだ外道』

『そうな』


 最善だと思うことののほとんどが外道なんだよな、俺。子供は見捨てられなかったが。

 よく考えないでもおかしいと思うんだけどな……何でか、見捨てようとしたら泣きたくなるぐらい胸が痛くなった。

 何か子供関係でそういうことあったかな。思い出せる限り、特別なことは何も……なかっ、た?


 ――それでもお前は……子供だから


 ずきりと、頭と胸に同時に痛みが走った。

 なんだ、さっきのは。

 何か……言葉が浮かんできた。それと一緒に、誰かの顔も……。

 あれは誰だ。少なくとも俺は全く覚えていない。男なのか、女なのか、……喋り方からして男だろうか。いや、そもそもどうして覚えてないんだ? 俺は、記憶を。


「ん……どうかしましたか」

「!?」


 あることを思いついたちょうどその時、俺の向かいのベッドで眠っていたはずのハーモニーが声をかけて来た。

 なんで男女同室なんだよ、やめてくれよ。

 治癒院に内心で文句を言いながらそちらに目を向けると、体を起こそうとしているハーモニーが映る。俺は一度表情を整えて、冷たい目をハーモニーへと向けた。


「――声をかけるなら、その前に一度声をかけてから声をかけてください」

「善処しましょう。それでどうかしましたか」

「昔のことを思い出していました。それよりも怪我は大丈夫ですか?」


 よし、わかった。こいつに皮肉は通用しない。目的に向かうことしか頭にないんだろうな。……厄介にもほどがある。


「……しっかりと動きますし、痛みも特にありませんね。まさかこれほどしっかりと治してもらえるとは」

「やっぱり凄いことなんですか」

「私の怪我ならそれほどではありませんが……シグルドは治っているのですか?」

「全快だそうです。後は経過を見るぐらいだと」

「なら、間違いなくその方は最上位職を持っているのでしょうね。治癒特化か魔術特化かはわかりませんが」


 ルイディアさんはどっちだろうな。イメージとしては何でもできる万能魔術師って感じだが。


「う、……ん?」


 ハーモニーとしたくもない雑談をしていると、隣から小さく声が聞こえた。どうやらシグルドさんも目を覚ましたらしい。

 俺は土下座の準備をしながら、また隣のベッドへと顔を向けた。



追記 職業の呼び方を『極限職』から『最上位職』に変更しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何かから誰かを助けるとき、確実に逃がしてから死ななきゃただの犬死(笑)
2020/07/27 22:19 退会済み
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