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外道すぎる



「さて、奴を倒す作戦を考えないとな」


 シグルドさんがバルラへ走り出した後の、トランさんの最初の一言がそれである。

 あれ? さっきの、こう……なんか『任せた!』って感じの雰囲気はどこ行った? というか、この人が登場してから、何でか俺たち振り回されっぱなしなんだけども。


「貴女に何かできることがありますか。シグルドに任せておくのが最善手のように思えますが」

 

 いや、こいつも平常運転だったな。ずっと独立した思考してる気がする。


「ああ、それはその通りだが……このままではシグルドが勝つかどうかは微妙なところでな」

「え、でもさっき、お前が負けたら私たちは死ぬって言ってませんでしたか」


 いや、明らかに言ってた。なのに勝率微妙ってどゆこと。あと、ちょっと見ただけで分かるもんなんですか、相手の強さとか。

 俺の問いに、トランさんは少し考えてから答える。


「……まあ、すぐに負けられたら死ぬというのもその通りだ。しかし、別に私はシグルドにすべてを任せるとは言っていない。私が言ったのは、いつも通り、誰よりも前で敵に突っ込め、だ。あいつが突っ込んでいる間に、私が作戦を考える。それがいつも通りだからな」


 割と行き当たりばったりだな。こんな時にはこうする、みたいな決まった動きはないんだろうか。

 ……それに、この二人って仲悪いんじゃなかったっけ。相談受けたときは喧嘩もしたとか言ってたはずだが。


「では悠長にしている場合ではないですね。さっさと作戦を立てましょう。わざわざ声をかけたんです、私たちの協力も必要なのでしょう」


 疑問が湧き上がるが、ハーモニーの言う通り時間はない。都市に帰った後にでも聞くことにしよう。憶えてたら。


「まず、俺たちが何ができるか教えた方がいいですかね? 動けなくてもできることはあるでしょうし」

「……話が早いな。スキルを人に漏らすのは抵抗があるだろうが、頼む」

「なら、私は役に立たないでしょうね。それこそ全員死んだ後でもない限りは。ジンからどうぞ」

「ああ、うん。俺は魔物使い、みたいなもんです。職業にはついてませんけど【従属】のギフトは持っているので。こっちの二体は……ノーディは動けないので除外するとして、スライムのリンが【吸収】のギフト持ってて頭がいいです。一応、二体ともゴブリンやらオークぐらいは殺せますが、バルラを相手にできるかって言ったら無理でしょうね」


 我ながら簡潔すぎる紹介だ。これでどうやって戦えばいいんだってレベルでわけわからん。ほら、トランさんも首かしげてるし。


「……【吸収】というのはどんな効果があるんだ?」

「文字通りです。何でもかんでも【吸収】する。衝撃だろうと、魔法だろうと、状態異常だろうと」


 ついでにいうなら、知識や現象もそこに含まれる。MPは全く足りないが、多分重力も吸収できるんじゃなかろうか。


「恐ろしいギフトだな」

「種類的にはなんでもですが、MPが足りない分はどうにもなりませんよ。それに、ついさっきでかいの受け止めたばかりなんで、ギフトの方は使えないと思います。スキルは」

『使えそうか?』

『たぶんね。ただ、あの戦いに突っ込むのは全快の状態でも無理だと思う』

「使えるでしょうが」


 けど、あれって【吸収】とセットでもないとあんまり意味ないよな。


「そのスキルというのは?」

「【放出】です。こっちも文字通り」


 吸収したものを放出するスキルではなく、単に放出するだけのスキル。ただ、吸収したということはそれは自分の身に取り込んであるということで。つまり、肉体の一部を分離させて投げるようなもんなわけだ。

 リンだから何とかなるが、人間なら狂人でもないと活用方法なんて思いつかないだろう。リンにしても、何で放出なんて覚えたんだか。


「ちなみに、俺たち一回バルラに突進受けてるんですよね。それも全員。なんで生きてると思います?」

「……吸収した、のか」

「イエス。つまり、リンは今、あいつの全力の突進を吸収した直後ってことです。しかも【放出】を持っている」

「出来ればもう少しわかりやすく教えてほしかったんだが」


 渋面を作るトランさん。まあ、そりゃそうだ。切羽詰まってるんだからさらっと話して、すぱっと実行したいよな。


「いやあ、どういう風に説明しようか考えながらだったもんで……。あと、問題がいくつかあるんですよ。まず、リンはただのスライム……でもないですが、あそこに突っ込んで行けるほど強くない。つまり、バルラが動きを止めたところに奇襲かけるぐらいしかできないんですよ。それと何より――突進の衝撃が、必殺になりますか?」

「む……」


 そりゃ、無防備に受けたら吹き飛ばすぐらいはできるかもしれんが、頭に直撃でもさせなきゃ骨折すら怪しいレベルだ。

 シグルドさんがその隙をついて止めを刺すにしても、そもそも隙を作るための隙を作り出さなきゃいけないわけで……非効率極まりないな。行うにしてもシグルドさんに作戦伝えないといけないけど、あいつが人語解してるのかまではわからないからな。最悪、作戦の全貌が相手にばれる。


「必殺、というのならあるのでは?」

「ほん?」

「というと」


 ここでシグルドさんたちを見ていたハーモニーが、あっさりした感じで口を挟んできた。必殺ってそんなに簡単に思いつくもんかね。


「リンがスライムだというのなら、スライム特有の体そのものが必殺になりえます。呼吸をせずに生きているのはアンデッドぐらいでしょう」

「ああ、口塞ぐってことですか。……どうやって?」

「そこはこう、何とかして」

「あやふやだな」


 確かに必殺ではあるだろうが、結局問題は残っている。バルラ相手に隙を作るのは至難の業だろう。

 そう思っていたら、トランさんが事も無げに言った。


「隙を作り出すことに関しては……まあ、シグが戦闘の途中でどうにでもするだろう。しかし、確かに割り込みをかけるには、速度が問題になるな」


 ええ……なんだその信頼感。心配するのって持ち直しの方? シグルドさんの身体とかじゃなくて? あとシグって何? この人たち本当に喧嘩してんのかよ。

 っていうか、何も思いついて内の俺だけじゃないか。ハーモニーですら提案はしてるのに。どうしよう。

 ……あ、思いつい――いや、これは駄目だろ。

 いくら何でも外道すぎる。外道にすら外道って罵られるレベルだぞ。


『……自分が生き残ることだけ考えたら、ありだとは思うよ、うん』

『おいその引いたような声音やめろ』


 …………これ提案すると、トランさんは大激怒するよなぁ。でも、このままだと勝つかは微妙。けど……。

 ……一応、伝えるだけ伝えるか。


「トランさん、一つ反吐が出るような方法思いつきました」

「なんだ、その切り出し方は」


 だって本当にそうだもの。


「俺、【従属】のギフトのおかげで、魔物の声みたいなものが聞こえるんですよね」

「……それはまた、一概には信じられない能力だな」

「そこは納得してもらうしかないんですけどね。それで、ですね。少し聞いたところ、あのバルラは、何というか戦闘狂なんです。それも、ある程度は相手の準備が整うのを待つぐらいに紳士的・・・な」


 一言喋るたびに、トランさんの視線が疑いを多分に含んだものになっていく。まあ、俺もいきなりこんなこと言われたら「は?」ってなる。

 でも負けない。

 

「それを前提として、提案します。バルラがシグルドさんに止めを刺そうとしたとき、確実にあいつは動きを止める。相手に敬意をもって仕留めようとするから」


 少なくとも、そういう尊厳を気にする性格だ、あいつは。じゃなけりゃ会話が成立するとはいえ、圧倒的弱者の言い訳なんて気にも留めないだろう。


「そこを狙って、リンをぶつけます」

「言いたいことはいろいろとあるが、その前にどうやってぶつけるかは考えているのか」

「ええ、試したこともある方法です。最悪トランさんに運んでもらうってのも考慮の内には入れてますが」

「そうか……」


 さて、言い切ったはいいが、自分でもドン引きするなこの作戦。要するにシグルドさんを生贄にして自分たちは助かりましょうって言ってるのと変わらんぞ。囮ですらなく生贄だ。

 止めを刺そうとした時といっても、戦闘の流れで偶然に当たりどころが悪く死んでしまう可能性は存在している。そうでなくても、バルラが接近するリンに気づかない保証はない。

 わーお穴だらけ! 奇跡がいくつ重なればそんな状況になるんでしょう。

 成功すればバルラは殺せる。だが、リスクが大きすぎる。


「ジン君、だったか」

「はい」

「君の作戦は、やってみる価値はある」

「……考える余地すらないもんだと思ってたんですが」


 あなたの幼馴染を見殺しにするって作戦ですよ、これ。


「どちらにしろ死ぬなら、必死で生き残ろうとした方がましだろう?」

「思想自体はその通りでしょう。ですが、貴方が耐えられるのですか。あの過去を持っていながら」

「そういえば、君は知っていたな」


 どうやらハーモニーは何かしら、俺の知らないことについて心配しているようだ。やっぱり問題だらけでは。

 俺たちの視線を受け止めながら、トランさんは難しい顔をする。


「あいつは――自分が生き残るより、死んでも子供や仲間を守ることを優先する。そういう奴だ」

「自己犠牲は好きじゃないですね」

「なに、そう簡単には死なないさ。それに、止めを刺される前にバルラを倒してしまえば問題ないだろう」


 にやりと不敵に微笑むトランさんだが、胸の内からは不安しか湧いてこない。それ死亡フラグです。

 だが、突っ込む暇もなくトランさんは喋り出す。


「もうあまり時間もない。準備をしよう。詳しい段取りは私が決める。バルラを倒して、みんな一緒に帰ろうじゃないか」

「死体を持ち帰って、『みんな一緒だ』なんて展開は避けたいところですね」


 洒落にならないからやめろハーモニー。

 


ようやく出てきたと思ったら外道

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