激闘 終
いや……その
違うんです。
展開を大幅に変更せざるをえず、書いていたものを全消しして書き直していたんです。
言い訳は何とでもなる? はいそのとおりですすみませんでした。
覚悟を決めてバルラを見据え、意識的に笑って見せる。
現状を考えれば挑発になるかも怪しいが、どちらにしろこいつは俺を殺すまで他に目を向けることはないだろう。これは俺の強がりでしかない。
……ああ、久しぶりだな、この感覚。
安全で安心な、勝ち目のわかる蹂躙じゃない。生存権をかけた闘い、あるいは殺し合いだ。
あの馬は戦闘狂だそうだが……俺も他のこと言えないな。今の状況を楽しんでる時点で。
まあ、いいか。そんなことは後で考えよう。バルラが突っ込んできた。
あいつも消耗はしてるはずなのに、最初と比べても速度が変わったように感じられない。
なるべく動きが大きくならないように、最低限の動作で突進を回避する。さすがに慣れてきたのか、それとも向こうも多少は消耗していたのか、避けるのは簡単になってきたな。
あまり逃げ回っても勝負を放棄したように感じられるから、こちらからも攻撃を仕掛ける必要はあるが。
「ふっ」
短剣だと、それこそ少しの身じろぎで衝突するほどに接近しなければいけない。たった数十センチの差だが、恐ろしいぐらいに視点が変わる。
まあ、長剣よりも身軽になったので、動きが制限されにくいという利点もあるにはある。
しかし、俺は最低限しか短剣を扱うことはできない。スキルも持っていないし、使い方を教えてもらったこともない。
もしかしたら打ち合っている数十秒の間に何か覚えるかもしれないが、まあ、それこそ理不尽な奇跡でも起こらない限り無理だろう。
あらゆる手段をもって生き残ると、内心でとはいえ宣言したから諦めるという選択肢はないが、改めてこの状況が絶望的だとわかる。
「お、おぉ」
バルラは噛みつき、体当たり、突進と仕掛けてくるが、それらも余裕をもって回避できる。突進が終わった後の下がった頭に短剣を叩きつけ、反撃が来る前に下がった。
さすがに目を狙うのは無理か。しかし、予想以上に避けるのが簡単になってるな。
短剣の修練不足を考えても、これなら問題ない。
何度か振ったおかげで感触もわかった。今度はバルラが仕掛けてくるのを待たずに、こちらから踏み込んでみる。
全力で接近すると、反応したバルラが体を横に広げてぶつけてきた。それを短剣を振る幅を保って、だがかすらない程度に避ける。
ここから攻撃に転じるほどの間はないが、あと数度あればタイミングを合わせることもできるはずだ。問題は、その数度まで俺がもつかどうかだな。
今の攻防で数秒経ったぐらいか。どれぐらいでスキルが切れるかは、感覚でしか把握できないのがつらいところだ。
考える間もバルラが止まることはなく、攻め続けてくる。
一度目は体を持ち上げての叩きつけ。これは後方に跳んで避ける。
二度目はそこからの突進。これは横にすり抜ける。
三度目は急停止からの首を振り回した頭突き。――ここだ。
頭突きを回避した瞬間に重心を切り替え、バルラの左目に短剣を振る。
首を振り切った後で切り返すのは、バルラの反応速度では無理がある。さっきまでならそれすらも警戒はしたが、今のバルラはただの体当たりでもよろけるほど――?
……いや、おかしくないか?
何でバルラが俺よりも遅い?
あり得ないだろう。いくら回復薬を使ったとはいえ、疲労まで即座に無くなるわけじゃない。こっちは無理矢理持たせてるような状態だぞ?
バルラと俺で体力の量が同じなわけがない。向こうは魔物で、こっちは人間だ。明らかにバルラの方が優れている。
いや、まずなんで俺はこんなに攻めているんだ? 俺がやることは時間稼ぎだけでもいいはずだ。トランなら、その間に何かを仕掛けてくれるだろう。俺が攻撃を仕掛けたのは……バルラが、予想の範囲内の、だがこっちにとっては最高の形で疲労していると……感じたから。
――こいつ、フェイントかけやがった。
焦っていたのを見抜かれたのか、それともたまたま嵌っただけなのかはわからない。だが、今、これは最悪だ。
やばい、ここからどう動かれる? さっき見た速度は当てにならない。完全に誘われた。
加速する思考の中、バルラが顔をこちらに向けた。だが、それをチャンスだとは微塵も思えない。バルラの体勢は、突進をするときのそれだ。
どうせ体当たりでも俺の体は動かなくなるだろうに、確実に俺を殺すための突進を選んできやがった。ご丁寧に目も閉じている。
ここから短剣を振ったところで、せいぜい瞼の傷を深くできる程度。だが、こいつは多分俺を殺せる。……ここから回避する方法は、思いつかない。
明らかに絶体絶命。誰が見ても死ぬ以外考えられない状況だ。
そういえば、こんな時に浮かぶ、走馬燈とかいうものがあるらしい。確か、これまでの人生が一瞬の間に思い出されるのだとか。
なら――少し前の言葉を思い出すのも、走馬燈だろうか。
『お前は――いつも通り、誰よりも前で、敵に突っ込んでいけ』
そう、これがいつも通りだ。俺は敵に突っ込んで倒すだけ。それまでの筋道なんて全く考えずに武器を振り回す。
だから、作戦を考えるのは、いつもあいつの役目だった。
限界まで引き延ばされた時間の中、一瞬、視界の端に黒いものが映った。あれが何なのかはわからない。でも、偶然なにかが飛んできたわけじゃないだろう。
バルラは俺に集中してるのか、他の物は見えていない。目線が動くことも、動揺を表すこともない。不意打ちには最高の状況だ。
だったら俺も、玉砕覚悟でやってみようか。
防御は最低限に留める。どうせ短剣を止めることはできないんだ。傷の一つも与えた方がましだろう。
狙うのはもちろん目。潰れている右目をさらに抉るように、短剣を突き出した。
刃先を隙間にねじ込むだけでもいい。とにかく多少でも気を引ければいい。
その一心で突き出された刃先は、どうにか閉じられた瞼の下に突き刺さり。
そして同時に、胴体のあたりにバルラの突進がぶち当たった。
「ごぉ、ぇ……!」
漏れ出た声は悲鳴ですらなく断末魔のそれに近い。左腕は肩までへし折られ、さらに肋骨は砕け散り、内臓が爆散するような衝撃が体を通り抜ける。
覚悟していたとはいえ、耐えられるような痛みじゃない。数秒、完全に意識が飛んだ。
吹き飛ばされていることすら感じることはできなかった。地面を転がっていたと気づいたのは、バルラから数メートルも離れた場所で体が止まったときだ。
「…………」
死にそう、じゃない。あと数分で死ぬ。腹のあたりの感覚がない。いや、下半身が存在しているかすら定かではない。むしろ数分も持つのだろうか?
……まあ、いい。おそらく役割は果たせただろう。
霧がかかったようにぼんやりとした視界に移っているのは、右目のナイフを振り払うバルラの顔に、黒いものが当たる瞬間。
そこで俺の無茶を支えていたスキルが解除されたのを感じ、同時に俺の意識も途切れた。
明日も投稿します。




