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激闘 中



「オオオォォォォォ!?」


 右目から血を流して叫ぶバルラ。その姿は隙だらけだ。このままもう片方の目も潰して終わりにする!


 そう考えて間髪入れずに二撃、三撃と斬撃を放つが、バルラが目を閉じているうえに、首を振り回すせいで切り裂くことができない。瞼も硬いのかよ。

 しかも切りつけられることへの恐怖からか、暴れまわっているせいで動きが予測できない。さっきの一発勝負のほうがまだ対処するのは簡単だったぐらいだ。


 くそ、面倒くさいな。さっさと切られろ!

 どうせ相手は見えていないのだから、速度は犠牲にしていい。とにかく強い一撃を見舞う。瞼なら、幾らなんでも他の部位よりは柔らかいだろう。

 滅茶苦茶に振り回されるバルラの体に当たらないよう気を付けながら、体をひねり全力で剣を振るう。


「っんぐ!」


 タイミングを見計らって放ったそれは、バルラの閉じた左目にちょうどぶち当たって一筋の赤い線を付けた。

 よし、これなら何とかなる。

 一筋の希望を見つけた直後、俺に向かって長い首が風を叩いて振り切られた。


「うおっ、と、と」


 さすがにこんな苦し紛れに当たるわけにもいかず、地面すれすれまで体を沈ませて回避する。すると、蹄で頭を踏まれそうになった。

 慌てて四つん這いのまま後ろに跳ぶ。近すぎず、離れすぎないように調整するのは本当に面倒だ。

 バルラの方は……まだ目は見えていないようだ。あれは偶然、バルラの踏み出した位置に俺が入っていただけか?

 一応、警戒しながらもう一度踏み込んでみる。狙うのはバルラの頭――ではなく、比較的狙いやすい胴体だ。

 最低限接近して、浅く、滑らせるように剣を振るう。

 振り切った直後に、またも反撃がとんできた。今度は胴体でのための短い体当たりだ。……やっぱり、反応してきてるか。

 予想していなかったわけじゃないが、まさかこれほど早く立ち直るとは。普通は目を一つ潰されたら、呆然としたまま大した動きもできずに殺されるんだけどな。幼体とはいえ、さすがBランク相当。


「ブルル……」


 感心している間にバルラが俺の方を向いた。目は閉じたままで血も流れているが、それ以外に音や匂いなど敵を見つける方法はいくらでもあるんだろう。

 不味いな。このままだと目の方も回復されそうだ。さすがに右目がすぐに見えるようになるということはないだろうが。


「すぅー……はぁー……」


 いや、まだ大丈夫だ。慌ててもしょうがない。瞼なら傷をつけることはできたのだし、タイミングを計ればどうにかあの傷を深くすることはできるはずだ。

 それに、バルラもあんな戦い方をしたことはないはずだ。何とかその隙をつく。

 剣を構えなおすと、気配でも感じ取ったのかバルラも警戒を強めた。最初から最大限だったが、今はそれ以上だ。

 汗が頬を伝うのを感じながら、少しずつ距離を詰める。現在の間合いはバルラが首を伸ばしても届かないぐらい。……よし。


「ふっ!」


 息を軽く吐き出して、一気にバルラへと肉薄する。もちろん、バルラは俺が剣を振るより前に、頭を上方へと非難させていた。

 だが、今回は足を上げていない。地面ごと踏み砕くつもりではないようだ。もし同じことをしてきたら体のぼって目を切るぐらいはできたんだが。

 代わりにバルラが仕掛けて来たのは、一歩踏み込んでの首による叩きつけだった。首ってそういう風に使うもんじゃないだろ!

 頑丈なバルラだからできる芸当だ。しかも、肉薄しているだけに刃を顔に合わせることもできない。

 やむを得ず、俺は後方に逃げる。バルラの頭がかするほどのぎりぎりの間合いで避け、振り切られたバルラの顔へと踏み込む。

 多少は動きも硬直すると考えての事だったが、相手は首を振り切っても止まることなく、その勢いを利用して回転した。必然的に俺にバルラの下半身が叩きつけられることになる。

 もう、俺はバルラの顔を追うために踏み出してしまっている。ここから回避する方法は……全力で外側に走って逃げ切る!


「ブオォ!」


 ――そう判断したところで、横側から迫るバルラの下半身が、その猛烈な勢いを止めた。

 止めたといってもあっさりと止まったわけじゃない。地面に足を突き立て、表層を吹き飛ばしながらの強引な停止だ。

 俺の視界の半分が土と石、草の混合物に埋め尽くされた。

 停止したのは一瞬だった。俺もバルラも。そこから差が出るのは……この結果を予期していたか、予期していないかだ。

 バルラは当然、無理な停止の反動を気に留めることもなく、すぐさま俺へと首を伸ばしてくる。顔に土砂が当たることもお構いなしだ。

 では、俺はどうか。正直、この結果は全く予想していなかったものだ。あのまま体を振り切っていても、俺はぎりぎり逃げ切れるかどうか。時間稼ぎのけん制なら、効果的なんて程度じゃなかっただろう。

 それでもこいつはその顔を伸ばしてきた。おそらくはここで完全に、俺を殺すために。

 ……ああ、恐ろしいな、お前は。本当に魔物なのか疑わしいぞ。


 しかし俺も――負けるわけにはいかないんだ。


「っぎいぃぃぃぃ!!」


 無理矢理に停止した体を動かす。とにかく死なないように、全力をもって腕を動かした。

 初動で遅れている以上、回避はできない。なら、どうせ弱点が迫ってくるんだ。そこに思いっきりぶち当てろ!

 今までの動きなら、俺は捉えられなかっただろう。だが、今のバルラは目を閉じている。その速さは普段と比べるべくもない。


 結果、俺の剣とバルラの顔面は真正面から衝突し――剣を振り切ったとき、刀身がバギリと嫌な音を立てた。

 視界に移っているのは、刃が根元のあたりから砕け散った剣。飛び散る刀身に光が反射している。


「……な」


 考えてみれば当然なのだろう。俺の剣は決して安物とはいえないが、かといって岩石よりも固い生物に叩きつけ続けて、持ちこたえるほど上等なものでもない。

 加えて、バルラが意図していたのかはわからないが、混乱から脱する時間を稼がれていることに焦っていたのも要因だろう。そのせいで剣を振るのに無駄な力が入った。

 だが、それでも、こんなところで剣が折れるとは……!


 タイミングが悪すぎる。バルラの攻撃は何とか反らすことはできたが、その音・・・に気づいたのか、俺に向かっていきなり突進を始めた。

 目がまだ見えていないこともあり、突進自体はなんとか回避できる。

 しかし、あいつの方もこれで俺を倒せるなど微塵も思っていないだろう。むしろ、距離が離せればそれでいいはずだ。

 ……くそっ、くそっ、トランたちに武器を借りることはできない。今持っている武器といえば……短剣ぐらいだ。

 バルラの後を追いながら考えるが、良い手は思い浮かばない。やはり短剣で相手をするしかないらしい。


「ブオオォォォ……」


 そうこうしているうちにバルラが走るのをやめて、こちらを振り向く。

 顔から流れていた血はもう止まっていた。目も右は潰れたままだが、左は眼球自体に傷はついていないようだ。

 つまり、ここからまた、さっきまでと同じ動きをして、目を潰すか止めまでもっていかないといけないということだ。……無理だな。物理的に不可能だ。

 スキルの時間切れはもう一分持たないかというところまで来ている。同じことをやっていては途中で殺されるだけだ。なら、戦い方を変えればいいのかと聞かれれば、それも不可能だ。

 さっきまでの攻防は、俺にとっての全力を尽くしたものだった。

 時間制限のあるスキルを使い、トランから強化をかけられ、持っている技術も出し切ってようやく互角。向こうもいくらかは弱体化しているだろうが、恐らく俺ではかなわない。


 ……しょうがない、か。


 情けない、本当に情けないことだが、後は任せよう・・・・・・

 ここからは、命を懸けて時間稼ぎだ。ああ、それこそあらゆる手段をもって生き残ろう。動けなくなるその時まで。

 


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