激闘 序
「お前は――いつも通り、誰よりも前で、敵に突っ込んでいけ」
「あぁ――わかった」
いつも通りの言葉に、いつも通りの返答。スキルによる強化と肩を押された感触を感じながら、俺はあの白馬を殺すために足を踏み出した。
ああ、いつも通りだ。仲間と共に戦っている時も、二人だけで立ちまわっていた時も、俺の役目は同じだった。
敵に突っ込んでぶっ倒す。
それだけだった。
なのに……いつからだ。余計なことを考えるようになったのは。
「ブオアアア!」
地面を揺らして突進するバルラを横に跳んで回避し、着地した瞬間に振り返ろうとしたバルラ顔をめがけて剣を突き出す。
何度も、何十度も繰り返した動きだ。しかし、バルラもただやられるわけではない。間合いを読み切ったと思っても毎回、多少タイミングをずらされてしまう。強化されたステータスでも完全にとらえきることはできなかった。額辺りをかすめた程度だ。目を潰すつもりだったんだがな。
密着している状態からもう一度突きを放とうとしてみるが、剣を引き戻す前に頭をかじられそうになった。
無理矢理に胴体をひねって噛みつきを回避し、そこから首、喉を狙って切り付けてみる。やはり効果はない。
無理に剣を振り、体勢を崩しかけている俺にバルラはまたも体を横に向けての体当たりを敢行してきた。まあ、密着状態から繰り出せる技といえばそれぐらいだろう。
だが、最初よりいくらか冷静になった俺の頭は、体当たりの回避方法をあっさりと提示する。
それは瞬きをするほどの時間。
叫び声をあげて迫りくるバルラの体。その足元を、崩れていく体勢も利用してくぐり抜けた。
全身に力をためて繰り出される体当たりは、まともに喰らえば体が爆散するほどの威力を持つ代わりに隙も大きくなる。
その時間を利用して体勢を立て直し、もう一度バルラに肉薄する。体は俺の方が小さく、動きもこちらが早いのだから離れる選択肢がない。……たとえそこが、踏み出しただけの脚が地面をたたき割るような爆心地だとしてもだ。
恐怖はある。むしろ、こんな奴に好き好んで飛び込んでいく人間は少数派だろう。
だが、俺が憧れているのは、そんなことを人のためにやれる英雄たちだ。今の俺はおとぎ話の彼らとは程遠いが、ああなりたいと思っている。
なら、ここで止まるわけにはいかないだろう。
「おおぉっ!!」
気合を入れて顔を狙いに行く。向こうもすでに迎撃の準備は整っているようだが、他に狙えるところはない。
バルラの攻撃を細心の注意を払って避けながら、なるべく小さな動きで斬撃を繰り出し続ける。体格のせいで当たりづらいが、不意を突かなくてもかすめるぐらいはできるようになってきた。
「ブォ……」
そして何合か渡り合った時、俺の剣がバルラの口元を軽く裂き、ほんの少し血が流れた。
バルラはそれを嫌がったのか、逃げるように体ごと頭を後方に反らし、……じゃないっ!?
「オオオオォォォォ!!」
バルラは傷がつくことを嫌がったのでも、痛みに顔を上げたわけでもなく、攻撃を選んだだけだった。顔をそらしたことで上がった脚が、自重を全て乗せて頭上から降ってくる。
やばい、また足をくぐって――いやだめだ。体ごと落とされたらそのまま潰される!
「うっ、おおぉっ!?」
考えている暇はない。足に力を込め、前のめりになっていた体をバルラとすれ違うように前方に投げ出す。
その直後、背後から轟音が響き、土や石を含んだ爆風が叩きつけられた。
「がっ、ぐっ! ……ってぇ」
吹き飛ばされながら何度も地面に打ち付けられ、勢いが弱まったところで受け身を取り、すぐに体を起こす。
一体どれだけ吹き飛ばされええぇぇぇ!?
「~~~~~っっ!」
声を上げる暇もなくまた全力で横に跳ぶ。受け身なんて考えていない、本当にただぶっ飛んだだけの回避ともいえない行動だったが、それでも突進してきていたバルラを避けることはできた。
あっぶねえ! あと少し、それこそほんの一瞬遅かったら巻き込まれてた!
やっぱり向こうも速くなってるか。強化系のスキルだとは思うが、俺のものとは違うな。それだと多分戦いになってないだろうし。
そんな風に考えながらも、俺の足は突進によりだいぶん離れてしまったバルラを追いかけている。
しかし、バルラも突進からすぐに身を翻し、さっきと同じように爆走してきていた。
ああ、くそっ、だから離れたくなかったんだよ。これじゃ回避し続けるしかなくなるじゃないか! それもさっきみたいに常にぎりぎりでかわす必要がある。どれだけ横にそれたとしても、ある程度の距離があればあの化け物は即座に方向転換をしてくるだろう。
こうして走りこんだのも失敗だったかもしれない。これだと真正面から激突する。どうにか避けないといけないが…………あ、思いついた。
ちょっと賭けになるかもしれないが、何もせずに轢き潰されるよりましだ。
頭に浮かんだ方法を実行するため、まずは進む方向を右斜めに変える。すると当然バルラも俺の方へと向かってきた。さっきよりも速くなっている気がする。
「ふっ、ふっ……」
その時を見計らいながら八割ほどの力で駆け続ける。迫りくるバルラの巨体は、その速さも相まって恐ろしく威圧感がある。気にしている余裕などないはずなのに、心臓の音がいやに耳に響く。
そして、恐らくは三秒にも満たない程度の時が経ち、バルラが俺の体に触れそうになるというところで、俺は左にむけて走る――と見せかけてバルラの右方向、体すれすれの場所に全力で走りこんだ。
向こうからすれば、左に逃げるという目論見が外れたうえに突然速さが増したことになる。そのうえ急激な方向転換のせいで、走り去った後の速度がさっきより遅い。
よし、これなら接近するだけの時間は稼げる。どうせ近づくまでにまた何かしら仕掛けてくるのだろうが、とにかくさっさと決着をつけないといけない。俺のスキルもあと二分ほどで切れてしまう。
そう考え、今度は手加減などせずにバルラのもとへと駆けていく。
案の定、バルラは突進を仕掛けてくることもなくその場で佇んで……いや、あれは体に力をためているのか。もしかして体当たりか? だったらまだ楽に回避できるんだが。
いや、何を考えているにしろ消耗戦ができない以上、細心の注意を払いながら突っ込むしかない。
剣を握る手に力をこめ、どんな状況にも対応できるようにしてバルラへと接近する。
剣が届く程度の距離まで接近した瞬間、バルラは地面を踏みしめ、砕きながら体当たりを――違う。
これは全身を使った体当たりじゃない、動いたのは下半身だけだ。ならこれは――後ろ脚での蹴りか!
「オオオオォォォ!」
すくいあげるように放たれる後ろ脚は、これまでのバルラのどんな攻撃よりも速く、鋭い。だが、予想も覚悟もできていれば決して躱せないものではなかった。
なるべく最小限の動きで横にずれ、うなりを上げて襲い掛かる両脚を避ける。
そのまま隙だらけの顔に剣を突き立てようと走り込もうとした時。
突然、バルラの上半身が俺に向けて迫ってきた。
あまりにもおかしい動き。両後ろ脚でしっかりと踏ん張っていなければ絶対にできないだろう体当たりだ。あの速さで突き出された足を戻すには、今までのバルラの速度ならありえないはずだった。
タイミングも完ぺきだ。ぶっつけ本番でできることじゃないだろうと、理不尽に感じるほどに。
「――ああ、やっぱりな」
でも、それぐらいのことはしてくるだろうとも思っていた。
一度見せた攻撃を、裏もかかずにぶつけてくるほどこいつの頭は悪くない。あるいは俺のように直感かもしれないが、それも含めて警戒していた。
結果は見事に大当たりだ。ここから反撃させるほど、俺は遅くない。
まだ速さの乗り切っていないバルラの体に足をかけ、それを踏み台として上に跳ぶ。なるべく高くなりすぎないように、しかし避けることはできるように。
そして着地した瞬間、俺に攻撃を避けられて体が固まっているバルラへと突っ込み――振り向いた顔の、その眼を切り裂いた。
書いていたら長くなってしまい、この時間になっても完成しなかったので分割して投稿します。
変な時間になってしまって申し訳ありません。




