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白い弾丸



 走り出した俺は、人込みをすり抜けつつ門へと向かっていた。

 時折ぶつかりそうになりながらも何とかたどり着き、若い衛兵に話しかける。


「すまない、一つ聞きたいんだがここに十歳ぐらいの女の子が来なかったか?」

「十歳ぐらい……何人か見ましたが、どのような特徴でしょう」


 探している子の特徴を伝えると、衛兵はすぐにああ、と声を上げた。


「そういえば、それらしい子に話しかけられましたね。外に出たいと言っていました。さすがにあの年の子を出すわけにはいかないので返しましたが」

「そうか……」


 よかった。まだ外には出ていないのか。しかし、ここに来るまでに帰っていったという話は聞いていないな。もしかしてまだ外に出ようとしているのか?

 それとも迷子になっているのか。『歓楽街』に入られたらどちらにしろ危険だな。まずは危ない場所から調べてみるか。


「ありがとう。邪魔したな」

「いえいえ。あ、でもこちらからも一つ聞いていいですか?」

「いや、悪い。今は急いでるからまた後にしてくれ」


 衛兵が俺に何を聞くことがあるのかは知らないが、今は子供の安全の確保が優先だ。話に付き合うことはできない。

 短くそれを伝えて踵を返そうとすると、衛兵が慌てたように叫んだ。


「あなた、Cランク冒険者のシグルドさんですか!?」

「……? 何で知ってるんだ」


 俺は何か衛兵に注目されるようなことをしただろうか。


「そりゃあ、たったの数年でCランクにまで上り詰めた冒険者の方なんですから有名ですよ。もしかして知らなかったんですか?」


 全く知らなかった。というかCランクなんてせいぜい中堅クラスだろう。BやAならまだわかるが。

 そんな俺の考えに気づくことなく衛兵は語り始める。


「冒険者として登録したその日に数体のオークを狩り、Dランクにしてオーガすら相手取ったノアさん! リーダーとして素晴らしい手腕を誇り、自らも前線に立つトランさん! 単体戦闘能力でもBランクに匹敵すると言われているシグルドさん! その他のお仲間も輝かしい戦績こそないものの優秀な方ばかりじゃないですか!」

「お、おお」


 若い衛兵は目を輝かせてまくし立ててきた。

 ……俺たち、そんなに有名だったのか。そういえば最近見られることが多くなったような気はしてたが。

 トランは、もっと早くに気づいてたんだろうか。Cランクになって少ししてから様子がおかしくなったのは、まさかそういうことか?

 注目されていると気づいたから、それが逆に重圧に……。


「ああ、トランさんといえば」


 俺の心を読んだかのような絶妙のタイミングで、衛兵はポンと手を叩く。


「さっきトランさんが一人で門を通っていったんですよね。その時にも少しだけお話をさせてもらえたんです」

「それは良かったな」

「それでですね、門を通るときにぼそっと呟いてたんですけど……『やめてくれよ』って、何をやめるんでしょうね」

「……まさか」


 トランも俺と同じ子を探している?

 いや、幾らなんでもあり得ない……ってわけでもないな。知り合いは似通っているし、普段行く店も同じところが多い。

 俺が依頼を受けたことをギルドで聞いても不思議はないか。

 トランが先に行っているならそれほど急がなくてもいいか? いや、この辺りを変な魔物がうろついているとも聞いた。

 それに。


「……トランを追うか」

「あ、はい。外に出るんですね。冒険者証を見せてください」


 仕事はしっかりとするらしい衛兵に多少安堵する。

 冒険者証を見せるだけで通れるのでそこまで違いもないかもしれないが。


「頑張ってください!」

「ああ、ありがとう」


 純粋な笑顔を向けてくる衛兵を振り返らず、近くにある森へと走る。

 ……俺、逃げてばかりだな。

 いや、今は女の子だ。自分を責めるのは後でいくらでもできる。したくはないけど。

 下らない事を考えながら俺は森へと走った。



 ■  ■  ■



 しばらく走り続けると森についた。今日は走ってばかりだ。


「さて、と。どこから探すか」


 この森はそれほど広いわけではないが、それでも森といわれるだけはありむやみに走り回っても子供一人を探すのにどれだけかかるかわからない。

 かといって俺は森に入った人間の探索方法など知らない。くそ、他の仲間に協力要請してから来たらよかった。

 しょうがない。まずはよく使われる入り口から探すか。手入れはされていないがそれなり人が通る道だ。それなりに踏みならされていて子供でも入りやすいはず。

 そう予測して周りを探索し、それなりに時間がたったころ。奥から何かが走ってくるのが見えた。

 木が並び、草が生い茂っている森の中を走ってくるその魔物に、俺は見覚えがあった。正確に言うと、魔物の背中に乗っている奴らに。

 

「おい! おい、どうした!」


 走ってくるそいつらに向かって叫ぶ。魔物は俺に気づいたのかゆっくりと速度を落としていき、少し離れたところで停止した。

 魔物が止まると乗っていた人間のうち一人が顔を上げた。

 ……ああ、そういえばこいつもギルドで依頼を受けると言っていたな。


「どうしたんだ! ものすごい勢いで走ってたが」

「――シグルドさん」


 ジンは俺を見ると安心したようにため息をつき、だがすぐに顔を引き締めた。


「見たことのない魔物に襲われました」


 その言葉からジンは今までの状況を説明し始める。

 ゴブリンを討伐して女の子を助けたこと、白い体と銀のたてがみを持つ馬に襲われたこと、何とか逃げたこと、その白馬と戦っている人がいるかもしれないこと。


「……銀のたてがみの白馬、か。聞いたことがあるような気がするが」

「バルラでしょうね。実際に見たのは私も初めてですが、確か竜に並ぶほどの頑丈な体や膂力を持っているそうです。魔法を使うことはなくとも一人で相手にするにはそれこそ冒険者の中でも最高位の実力者でなければどうにもならないでしょう、成体なら・・・・


 絶望的だな。俺一人じゃどうにもならないだろうし、仲間がいたところで足止めが精いっぱいだろう。にしても引っかかる言い方をする奴だ。


「襲ってきたやつは子供だってことか?」

「ええ、おそらくは。成体のバルラは地域によっては神獣とあがめられるほどに神々しい姿をしていると文献に書いてありました。あのバルラは少し灰色が混ざっていましたし、半端ものか幼体、だと思うのですが」

「確証はないか」

「見たのは初めてですから、仕方ありません」


 それはそうだ。むしろ自分の力ではどうしようもない魔物相手によくそんなに冷静でいられたな。


「で、どうします。あなたに倒せますか?」

「……わからん。ただ、今戦っている奴がいるならそいつと合流すれば何とかなるかもな」


 一人でバルラに喧嘩を売る奴だ。何かしら勝算があるのかもしれない。

 それに、いまだにバルラが追いかけてこないということは足止めに成功して――


「っ!?」


 なん、だ! 何か――何かヤバい!

 ヤバいのが、近づいてくる!?


「逃げろ!」


 とっさに放った言葉は何の意味もなさず。

 白い弾丸が俺たちを直撃した。



今日のは短いので、明日辺りにもう一度

そしてこれを書いている途中に0:00を過ぎました/(^o^)\

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