問題しかない!
「まず、状態異常についてなんですが。たとえばどんな種類があるんですか?」
「そうだな、俺が知ってるのは、お前がかかった火傷も含めて、毒、麻痺、呪い、出血、打撲、骨折なんかだな」
なんか後ろの三つが少しおかしかった気がする。にしても結構量が少ないな。大体名前から効果は推測できるが……念のため聞いておくか。
「出血、打撲、骨折はともかくとして、他の効果はどういうものなんですか?」
「あー、呪いと麻痺以外は基本的にHPが減っていくだけだな。まあ、傷の大きさや毒の強さによって、減っていく量や速さは違うが。麻痺は体がしびれて動けなくなる。だから、戦闘中にかかると本気でヤバいな。んで、呪いは……なんというか、結構特殊なんだよな」
「特殊?」
「ああ、一口に呪いと言っても、その中にさらに種類があるんだよ。アンデッドなんかが使うような単純にHPを減らすものと、石化や魅了、混乱みたいに体や精神に干渉するものだ。石化は体を石にして、魅了はかけられた生物がかけた奴の言うことを聞くようになる。で、混乱は、お前のさっきの状態がかなりひどくなった感じになるな」
ふむ、まあ、ほとんど予想していたのと同じ効果だな。呪いが色々と含んでいることを除けば。
「防ぐ方法は耐性系のスキルと、あと、レベルによってもかかり方は違う。格上相手だと、ほぼ確実に抵抗される」
それ、スキルの意味あるのか? よほど強くならないと抵抗できないのか。それともスキルがないと、どれだけ強くなっても抵抗に失敗することがあるとか?
「なるほど、ちなみに俺のステータスだとどんなもんで……」
「ちょっとまて」
「え? あ、はい」
お、おう? なんでいきなり真顔?
てか、びっくりするからやめてほしい。
「ステータスは簡単に人に教えるもんじゃないぞ。たとえ、それが十年来の親友だろうとな」
「……そうなんですか?」
話を聞いてみると、俺のやったことがかなりやばいことだったというのがよくわかった。
ステータスを知られるというのは、その人間の戦力やできることを把握するということで。それはつまり、そいつの弱点がわかってしまうということにもなる。
極端に言えば、剣を育てているなら魔法で遠距離から潰せばいいし、逆に魔法が強いのなら物理でザクッといってしまえばいいわけだ。まあ、現実はそこまでうまくいかないのだが、そういうことが起こりうるわけだ。
別に漏らしたやつがばらさなかったとしても、人から情報を聞き出すのなんていくらでも方法はあるとも言われた。騎士団がいるような時代で情報を聞き出すと言えば……ああ。
「よくわかりました。絶対に漏らしません」
「おう、そうしろ。あと、ついでに言うと俺は拷問なんかかけられる前に全部吐くから」
本当に漏らさなくてよかったよ! てか、さっきぼかした意味あったかな!? 人選ミスってませんかね団長さん! この人、騎士にしてよかったの!?
ああ、もういいか。とりあえず、普通に気をつけなきゃいけないことだけ聞いとこう。その他は必要になった時に聞けばいいか。自分で調べるっていう手もあるな。
「というわけで、主に気をつけなきゃいけないことを教えてください」
「何がというわけで、なのかわからんが……そうだな、基本的には、毒なんかが特にやばいな。少量でも毒を持ってる魔物や雑草はそこら中に生えてるから。素人が適当にとるとえらいことになる。ほかは普通に暮らしてればそこまで気をつけなきゃいけないもんでもないぞ。特に呪いに関して言えば、魔物から受けるようなものがほとんどだからな」
ほうほう、毒は危険、その他はそこまででもない、と。状態異常に関してはこれぐらいで十分かな。深く聞いても今の俺の脳みそじゃ覚えきれるかどうか。
ただ、普通に暮らすことができるかはわからないから、呪いのことも気を付けておいたほうがいいか。
「それじゃ次に、身元不明の記憶喪失者が就ける職業ってなんでしょう」
「冒険者ぐらいじゃね?」
即答ですね、本当にありがとうございます。そして異世界ファンタジー定番の職業が来ましたよ。
「冒険者っていうのは、基本的に日雇い労働者って感じだ。その日暮しになりやすいが、そこらのごろつきでもギルドに資格を貰えれば冒険者になれるし、それなりに支援も受けられる。まあ、町に帰った時に、もしもお前のことを知ってるやつが誰もいなかったらなればいいんじゃないか?」
「あー……そうですね。ありがとうございます」
基本的にいい人なんだよなあ、サイラスさんも。いろいろと助けてもらっているのに、完全にだましてしまっているという事実が良心を刺激してくる……。
まあ、それはそれとして情報はしっかり聞きますが! 後で絶対に恩返しさせてもらいますんで、今はお願いします。
しかし、ここまでで特に疑問に思うような嘘っぽい情報がなかったんだが……あの笑みは何だったんだ。
「それじゃ次に、レベルはどうやったら上がるんですか?」
「レベルは魔物や人間を倒せば上がる。あと動物とか……虫や植物でも上がることはあるらしい。ま、虫相手じゃ何万匹も殺さなきゃいけないだろうけどな。要するに、生き物を殺せばいいってことだ」
「ずいぶん物騒ですね」
ゲームでは定番だが、ただの質問にも殺すという言葉が出てくるとやっぱり少し驚いてしまう。目の前の強面な人に言われると特に。
「殺す対象はほぼ魔物だよ。あいつらは一部例外を除けば人間にとっての害になる。村の奴が食われたり、畑を荒らされたり、いろいろとな」
殺す、か。別に魔物がかわいそうとは言わないが、傷口を思い出しただけで吐き気を催すような最弱もやしっ子が一人で魔物を殺せるかと聞かれれば……うん、無理だな。
どうしよう。いきなり暗礁に乗り上げてしまった。マジで? ほかに方法とかない?
教えて! サイラス先生!
「あるにはあるな」
キタコレ!
「ただ、全く実用的じゃないが」
デスヨネ!
うん、知ってた。サイラスさんが最初に言わない時点でなんとなくわかってた! けど、一応方法は教えてもらおう。もしかしたら、何か突破口が見つかるかもしれない。
「どんな方法なんですか?」
「殺した奴らの肉を食うんだよ。これは別に自分が殺したやつじゃなくてもいいし、それこそ植物しか食わなくても大丈夫だ」
やっぱり発想がバイオレンスな気がするが、この際それは置いておこう。そもそも、肉なんて全部生き物を殺して得ているものだしな。
「聞いただけなら問題はなさそうですが……」
「ところがどっこい、これだとレベルが上がるのに、虫を殺すほどとは言わないがかなりの時間がかかる。具体的には一年ぐらいだ」
ああ、そりゃだめだわ。時間がかかるなんてもんじゃない。
ってか、あれ? それってつまり。
「あのー、食事をしてれば一年でレベルが上がるってことは、大体年齢とレベルは同じぐらいの数字になるってことですか?」
「その通りだ。赤ん坊の時でも母親から生命力(母乳)貰ってるからな」
やっぱりかよ! 最悪の予感が的中したよ! え、じゃあなに? 俺、ステータス的には赤ん坊みたいなもんってこと? そりゃ貧弱なわけだよ!
「あと、ステータスが見れるような子供のHPは平均で120ぐらい、成人した男なら大体その倍以上ってとこだな」
さらに追い打ちかけてきおった! 俺のHPは50ですよ! 子供よりも下ですよ! その上常識もないとか死ねってことか畜生!?
「なんでいきなり頭抱えてんだよ」
「いえ、自分の貧弱さをちょっと思い知って……」
「ああ、お前見るからに弱そうだもんな」
「余計なお世話ですよ!?」
これはやばい。いや、今までもヤバかったが、これはダントツにヤバい。早急に何とかしなければならないが、レベル上げが難しいとわかった今、取れる手段が無いに等しい。……あれ、これ詰んでね?
いやいやいや! まだ諦めるな! 何かあるはずだ、何か何か何か……あ!
「サイラスさん! 魔力はどうなんですか!?」
「うるせーし顔ちけーよ、離れろ」
「そんなことより魔力! MP!」
顔が近い? 知るか! そんなことよりMPだ! HPよりも数値の高いこれならきっと何かの役には立つはず!
「なんでそんな必死なんだよ……で、魔力、なあ。あー、これはちょっと難しいんだよな」
「というと?」
「そもそも、持ってる量が人によってかなりばらける。全く持ってない奴もいれば、子供のころから大人を超えるような奴もいる。貴族なら確実にそれなりの量持ってるんだけどな」
なんで貴族なら持っているのかは知らないが、どうやら少しは運が向いてきたようだ。魔法でもつかえるようになればちょっとは――
「けど、日常なら生活用の魔道具があるからな。戦闘畑の人間でもない限りはそんなに必要なものでもない。覚えるにもそれなりの時間はかかるしな。ま、適性があるとか血縁がいいとかならすぐに覚えることもできる。ちなみに適性のあるやつってのが貴族のことな」
ちくしょおおおお!! ことごとく希望が潰されていく! この人わざとやってるんじゃないだろうな! 俺に最高限の絶望を与えようとするかのように希望を出しては踏みにじりやがって!
「おい、何回言ったかわからんけど、大丈夫か」
大丈夫じゃない! 問題しかない! うがあああああああああああああああああ!