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幼馴染

今回は普段の半分以下の文章量しかありません。

でも、入れておかないとこれからの展開にちょっと疑問を覚えるかなと思ったのです。

「それでは、さようなら」

「ああ、またな」


 軽く頭を下げて去っていくジンを手を振って見送った。

 なんというか……不思議なやつだったな。

 顔も体も子供にしか見えないくせに変に大人びているというか、達観しているように見えた。

 それに、英雄を目指したことがある、と言っていた。

 決してふざけて言っているわけじゃないだろう。その証拠に、あいつは笑っていなかった。笑えていなかった。

 あの時のあいつの眼は見たことがある。あれは――


「シグルド?」

「!」


 肩を掴まれる。驚き、下げていた顔を上げてみるとよく知った人物が立っていた。


「トラン……」


 ついさっきまで話していた奴であり、俺がいるパーティーのリーダー。

 どうしてこいつがギルドにいるのか。たしか喧嘩をしたのは宿の近くで、こいつとは反対に歩いていたはずなのだが。

 

「私は依頼を受けに来ただけだ。お前こそどうしてここにいる」


 視線を感じたのか、子供のころには俺とよく似ていると言われた赤銅色の短髪を軽くかきながらトランはそう答えた。どうやらこいつも俺と同じことを考えていたらしい。

 それにしたってもう少し時間が掛かっても……ああ、そうか、俺がジンに合わせて歩いていたからか。

 トランのことを話していたら本人に会うとは、偶然とは恐ろしいものだ。


「俺も同じだよ。しばらくはパーティーの誰も依頼を受けないだろうから、気分転換にな」

「休息は必要だろう」

 

 しまった。

 言ってしまってから後悔する。ほんの少し前に喧嘩したばかりだというのに、これじゃ嫌味だろう。


「戦いから帰った後には体を休めなければいけないのは当然だ。毎日、繰り返し依頼を受けていたのでは必ず疲れがたまり死につながる。それぐらいわかっているだろう。それともお前は自分一人で頑張ればいいとでも考えているのか? だとすれば大したものだな」

「ああ、悪かったって」


 俺を見上げながら詰め寄ってくるトランに思わずぞんざいに謝ってしまう。そこまで言わなくてもいいだろうと、心の中で思ってしまった。

 そのせいでトランの目つきがまた険しくなった。

 睨んでくる薄紅の眼を見て、さっきまでジンと話していたことを思い出した。

 ああ、何をやってるんだ俺は。こんなことばっかりやってるから話が進まない上に喧嘩になるんだろう。

 湧き上がってくる後悔を押さえつける。今はとにかく謝ろう。


「お前は」

「いや、本当に悪かった。すまん。けど悪気はなかったんだよ」


 トランの口から文句が飛び出してくる前に、しっかりと頭を下げた。挑発的なことを最初に言ったのは俺だ。まずは俺が謝らなければ。

 まるで子供同士の喧嘩みたいだと思わなくもないが、実際やっていることはそれほど変わらない。いや、むしろ子供の時の方が素直に謝れてただろうか?

 っと、思考が横道にそれた。


「お、おい。頭を上げろ。私も悪かったから」


 無駄なことを考えている時間はそう長くなかったようだ。驚きが抜けたトランが慌てたように俺の肩に触れてきた。

 どうやら許してもらえたらしい。


「どうしたんだ突然。いつもはもっと言い返すのに」

「……そうだな、もう少しちゃんと話し合った方がいいと思ったんだよ」


 不思議そうな顔をするトランにそう答えた。

 しかし、思ったきっかけが今日出会ったばかりの子供に相談した結果だというのは、何とも情けない限りだな。


「……そうか。その、なんだ」

「ん?」


 トランが今度は下を向いて髪をいじり始めた。ついでに落ち着かなさげに体をゆすっている。

 かと思うと、ゆっくりと頭を下げてきた。


「私も、悪かった。さっきのことももう少し言い方があったし、それに、頬のこともな」


 頬……ああ、殴られたときの事か。


「まず顔を上げてくれ」

「いや、しかし」

「いいから、上げてくれ」


 顔を下げたままで話を続けようとするトランの頭を強引に元の位置に戻す。不服そうな顔をするトランに目を合わせて、首を振る。

 

「これに関しては本当に気にしなくていい。あの時の喧嘩は、俺が下手なことを言ったせいだ」

「それでも、謝らないとな」


 今度は一転、申し訳なさそうな顔をする。俺を殴ったときの手は握りしめられ、もう片方の手で隠すように覆っていた。

 ……ああ、やめてくれ。そんな顔するな。お前を納得させる言葉は出てこないけど、でも絶対にお前が気にすることじゃないんだ、これに関しては。

 だって、あいつ・・・のことを言ったらお前が怒るのなんて当たり前のことだろう。俺たちは幼馴染なんだから、そのことは今じゃ俺が一番よく知ってる。

 

「俺が悪いんだよ。これは譲れないぞ。……もうやめるか、この話。せっかく落ち着いたのにまた喧嘩になりそうだ」

「そうだな」


 俺の提案にトランも即座に同意した。

 まあ、そうだろうな。わざわざ傷を抉りたくないのは向こうも同じだろうから。


「とりあえずギルドじゃなく、落ち着けるところにでも行こう。さっきも言った通り改めて話がしたい」

「……わかった。でも、どこに行くんだ」


 そういえば、そこは特に考えてなかったな。どうしよう。


「宿に戻るのは」

「喧嘩のせいでしばらく帰ってくるなと言われただろ」

「広場は?」

「落ち着けるか? 今は吟遊詩人が訪れてるそうだが」

「『住宅街』ならどうだ」

「……まあ、いいだろう」


 少し考えた後にトランが頷いた、


「よし、じゃあ行くか」

「ああ」


 俺たちは連れだって『住宅街』の方向へ歩いて行った。そしてその途中、ほんの少しだけ雑談をした。

 

 何か月かぶりの、普通に話すことができた時間だった。





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