表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/69

よろしい、ならば質問だ!

 テントから出ると、日の光が顔面に突き刺さってきた。ってかあっつ。なにこれ暑い。

 テントにいた時そうでもなかったよな? 外に出ると一気に周りの気温上がったぞ。これって真夏の気温なんじゃないか?


「こっちです」


 しかしアンさんは急激な気温の変化に戸惑うこともなく案内を始める。それに慌ててついていきながら、ついでにこの気温の変化について質問すると、あのテントは魔道具なんです、との答えが返ってきた。

 魔道具というのは、魔法を道具に付与する特殊な技術を使って作られた物なんだとか。付与した魔法によって効果が変わるそうで、例えば先ほどのテントなどは生活魔法の一つを付与していて温度を快適に保つらしい。正直よくわからなかった。

 この気温の変わり方はそういうことか。


「あのテントって相当高いのでは?」

「そうですね。少なくとも金貨を何枚も使うぐらいには高いですよ」


 高いってレベルじゃなかった。それ、かなり位の高い人じゃないと買えないってことですよね。金貨って、一枚で一般的な四人家族が十数年は暮らせる額だとか言ってなかったっけ? そんなものを一人で使ってたとか……俺、これから実験とかされたりしないよね? 大丈夫だよね?

 それにしてもあっついっていうかあれ? 俺、確か冬服だったはずじゃ……ああ、着替えさせられたのか。そういえば包帯を確認した時に見たな。まだ頭がちゃんと動いていないのか? 服が変わっているのも気づかないとは。


「あの、この服は誰のものなんですか?」

「その服もサイラスさんのものです」

「……なんか、かなり迷惑をかけてるような気がするんですが」

「彼の性格ですから、そこまで気にする必要はないと思いますが」


 性格? お人よしとかそういうことだろうか。

 しかし、迷惑をかけていることに変わりはないらしい。ちなみに、サイラスさんというのは俺を発見してくれた人だ。その上服まで貸してくれるとか、ほんとにいい人だな。


「サイラスさんっていい人ですね」

「そいつはどうも」

「え?」


 思わず呟くと、どこかで聞いたことのある声で返事が返ってきた。まあ、セリフからしてさっきまで話していた人なんだろうけど。

 後ろを振り向くと、予想通りあの赤目の男性が立っていた。


「よう。もう傷はいいのか?」

「あ、はい。おかげさまで。あ、そうだ、その件では、俺を見つけてくださって本当にありがとうございます」

「おう、恩に着ろよ。一生な」

「それはもう」


 命を救われたのだから、それぐらいは当然だろう。

 そう思って笑顔で頷いたのだが、何故かサイラスさんは呆れたように頭をかいている。


「おい、アン。ただの冗談を笑顔で肯定されたぞ」

「彼は記憶喪失だそうですから、一般常識が欠けているのでは?」

「記憶喪失?」


 あれ、冗談だったのか。こっちとしては、それぐらいしないと返しきれないと思ってるんだけど。

 っていうか、アンさん。一般常識が欠けてるって言われるほどなんですか? 恩に着るのが?


「ふーん……まあいいか。お前、名前なんて言うんだ?」

「陣です。陣 黒波」

「ジンな。ま、短い間だろうがよろしく」

「よろしくお願いします」


 サイラスさんが手を差し伸べて来たので、それにこたえるように俺も手を伸ばし――


「ほっ」


 パァン、とその手を思いっきり叩かれた。


「いってえぇぇ!?」


 かなりの速さで飛んできた野球のボールを素手でキャッチしたあとにさらにトンカチで叩かれたかのように手が痛い!

 いや、解説してる場合か! なに!? いきなりなんで手ぇ叩かれたの!? 


「うむ、反応やよし!」

「馬鹿なことをやらないでください! 大丈夫ですかジンさん!」


 あまりの痛みに思わずうずくまってしまった俺の腕を、慌てて掴んでくるアンさん。

 心配してくれているのは本当に嬉しいんですけども、叩かれた方の手はやめてくださいまじでいたいいたいいたい!?


「ぎゃーっ!?」

「あ、すみません!」


 悲鳴を上げると、アンさんは慌てながら手を放す。

 そんな俺たちの様子を見ながら、サイラスさんははっきりと言った。


「こいつら面白いな」


 誰のせいだよ!?



 ーーーーーーーーーー



「大丈夫か?」

「何とか……」


 いまだにジンジンと痛む手をさすって歩いていると、元凶サイラスさんが楽しそうに笑いながらいけしゃあしゃあと聞いてくる。

 結局、この人はあの後もずっと隣で笑ってるだけだった。ただ、キレたアンさんが腕を振りかぶって顔面殴ってたのにびくともしなかったのにはいろいろと驚いた。

 アンさんのキレ顔とか、殴られても笑ってるサイラスさんに。

 

「というか、サイラスさんは大じょ「ほら着いたぞ」聞いてください」


 後ろから声をかけてきていたはずのサイラスさんは、いつの間にか俺の先を歩いていた。俺の言葉は聞こえなかったのか、目の前にあるテントを指さして笑っている。

 なんかずっと笑ってるな、この人。


「もう昼過ぎですか。……誰のせいでこんなに遅れたんでしょうね」

「全く誰のせいだ」


 なんで俺の方見てきてんだあの人。

 え? 俺のせい? 俺のせいなの? いや違いますよね。あなたですよね。あ、アンさんが腕振りかぶってる。


「では、私は昼食をとってきますので」

「あ、はい。お願いします」

「早くしろよー」


 だから何で無事なんですかあなた。結構良い音しましたよ? アンさんも諦めたような顔で去っていったし。


「なんだその眼は」

「いえ、別に。それよりもサイラスさんはどうするんですか?」

「俺はもう食べたよ」


 別に昼食をどうするかを聞いたわけではないんだが。しかし、どうやらここに居座るつもりだということはわかった。

 そういえば今は昼過ぎだと言っていたが、サイラスさんたち以外の騎士団の人はもう森に行ったんだろうか?

 あと団長はともかく、ほかの二人は偉い人なんだろうか? 平の団員だったら用もなくうろつけないような気がする。それに、アンさんは団長さんを追い出してたし、結構親しげに会話していた。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 考え込んでいると、アンさんから食事を手渡される。

 今日の食事は、黒いパンと干し肉のようだ。黒パンは持っただけで硬いのがわかる。これ、どうやって食えばいいんだろう。

 え? 噛みきれないなら唾液で少しずつふやけさせろ? なるほど、ありがとうございます。


「それでは、私は団長に報告に行ってきますので、後はサイラスさんにお任せしますね」

「ああ、わかった」


 え、ちょっと待ってください。まだお礼言ってない!


「んぐ、ここまでありがとうございました!」


 口に含んでいた黒パンを飲み込み、しっかりとお礼を言う。アンさんは軽く手を振り返してくれた。


「さて、それじゃ今からは俺が一緒にいてやろう」

「わーありがとうございまーす」


 ここからはサイラスさんが俺の保護者をしてくれるようだ。一応お礼は言っておく。適当になってしまうのは仕方ないよね。

 大丈夫かなー。この人、いい人なんだろうけどふざけるの好きそうなんだよなー。


「さて、じゃあどこか見たいところはあるか?」

「いや、何があるのかもさっぱりわからないんですが」


 観光案内じゃないんだから、見るところなんてない気がする。テントをそこかしこに張ってるだけのようにしか見えないし。それとも、何かしらの娯楽道具でも持ってきているんだろうか。


「じゃあ案内するところは俺セレクションでいいな。いくぞ」

「え、なんですかそのヤバそうなネーミング」

「いいところに連れて行ってやるだけだよ。俺基準で」

「いやな予感しかしないので、お断りさせていただきます」

「はっはっは」


 ちょ、なんで腕掴んで、ってか力強いなこの人! ナニコレ!? どんどん引っ張られるんだけど! 誰か助け……あ、誰もいないんだった。


「無駄な抵抗はやめとけ」

「うおっ!?」


 追い打ちをかけるかのように、サイラスさんが犯罪者のような言葉を吐く。そしてそれと同時に、俺の体があっさりと持ち上げられ、肩に抱えるような恰好で固定された。


「あっつうう!?」

「さ、行くか」

「行きます! 行きますから降ろして! あついあついあつい!?」


 なにさらっと行くか、とか言っちゃってんの!? こっちはそれどころじゃねえよ!? あっつ! 鎧の表面が日に当たってバーベキューみたいになってあっつう!


「ん? ああ、すまん」


 手が離された瞬間、全力で地面に転がって熱を逃がす。地面も日に当たって熱くなってはいたが、人間バーベキューよりはましだ。むしろ多少なりとも冷たく思える。


「はー、はー」

「よっと、ほれ、水だ」

「……どうも」


 色々と言いたいことはあるが、ひとまず水は貰おう。

 サイラスさんがかざした手の前に、水が突然現れて少しづつ俺の体にかかっていく。いててて、火傷とかしてないだろうな。あ、ステータスでそういう表記とか出るのか?

  試してみるか、ステータス。


--------------------------

名前:黒波 陣

職業:なし

年齢:15

Lv1

HP:25/50

MP:55/55

筋力:15

体力:18

敏捷:13

知力:25

魔力:23

スキル

HP自然回復Lv3

痛覚耐性Lv2


ギフト

従属Lv1


状態異常:火傷

------------------------------


 ぎゃああああああああ!?

 なんてことしてくれてんだ!? 減ってる、減ってるよ俺のHP! というか死にかけだよ! しかもやっぱり状態異常入ってんじゃねえか! 

 え、大丈夫なのこれ!? 状態異常って、え、はあ!?


「おい。おーい、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないっすよどうしてくれんの!? 状態異常になってるんですけど! HP減ってるんですけど!」

「あー、うん、俺が悪かったから、とりあえず落ち着け。状態異常のほうは大丈夫だ」

「HPの方は!?」

「だから落ち着けって。人はその程度じゃ死なん」

「半分減ってるんですけど!?」

「……頑張れ」

「おーーい!?」


 言ってることが百八十度回転しましたけど!? 

 しかし、憐れむような顔をしていたサイラスさんは、俺の叫びを聞いてすぐに堪えきれなくなったように盛大に笑いだす。


「ぶははははは! いや、はっはは、お前、ふっ、面白いな」

「誰のせいですか誰の!」

「くっくっく。いやいや、そんだけ叫べてんなら大丈夫だろ」

「……む」


 ……確かに。

 そもそもただの冗談だしな、と言っている目の前の人はまがりなりにも騎士団の人らしいし、人が死にかけてる時まで笑ってるような人じゃないことは、俺が身をもって知っている。

 出しっぱなしにしていたステータスも、【HP自然回復】のおかげなのか、やけどの状態異常は治っている。HPも回復し始めていた。

 状態異常という表記のせいでパニックになってしまったが、これは所詮火傷だ。火事にでもあったのならともかく、これは放っておいてもせいぜい水ぶくれですむだろう。 

 改めて見直してみると、どうしてここまで混乱していたのかわからない。

 サイラスさんのノリに流されたから?

 違う。正直、あのとき俺は本気でパニックになっていた。いくら流された面があったとしても、あそこまで取り乱すほどじゃない。


 なら、異世界に来て混乱していたから?

 それはあるかもしれない。何が何だかわからないうちに大怪我をして、目が覚めたらテントにいて異世界に来たとわかった。それに衝撃を受けたのは事実だ。

 しかし、いくら衝撃を受けたとはいえ、それは会話をしているうちに落ち着いてきていた。というか、すぐにアンさんにテントから連れ出され、サイラスさんに話しかけられたから、そのことについて考える暇もなかった。


 ……そもそも、俺はこんなに取り乱す方じゃなかったはずだ。

 それが混乱していたからだとしても、少なくとも表情に出さないようにするぐらいはできていた。

 いつもできていたことが、突然できないようになった?

 ……いや、突然じゃないな。異世界ここに来てからだ。

 そして、異世界に来てから、俺個人に関係することで変わったものは一つしかない。


「ステータスか……」

「んあ? なんか言ったか?」

「いえ、なんでも」


 サイラスさんはいまだに水をかけてくれている。もう少し考える時間は取れるな。とりあえず、痛みに耐えて顔を伏せていると思っていてもらおう。ばれていたとしても、すねているとしか思われないだろう。

 さて、なにはともあれステータスだ。

 俺のレベルは1。普通に考えるなら最低のレベル。しかし、俺はそれに対して何の疑問も持たず、いつも通りに行動していた。自分が弱っているかもしれないとは一度も、ただの一度も考えなかった。

 そこからすでにおかしいが、今は置いておこう。

 もし本当に弱っているなら、これまで普通に歩いてきて倦怠感も何も感じなかったのもかなりおかしい。緊張がなかったとは言わないが、ただの火傷であれほどの痛みを感じるなら自分で気づく程度の疲れがたまっていてもおかしくない。

 つまり、このステータスは体へのダメージの緩衝材? いや、それならHPが尽きていないのに火傷を負うのはおかしい。

 これをゲームとして考えれば、HPは普通命の総量を差す。

 ただ、これを現実に当てはめると俺がHPの半分を失っているのにあれほど叫べるのはおかしすぎる。ならこのステータスは何だ? この状況は俺にだけ当てはまるものなのか? そもそもこのステータスは正しいのか?

 ……駄目だな、疑問点が多すぎる。なら――


「おーい、そろそろいいかー。水出すの疲れたんだが」


 今はこの人に聞くか。


「その水を出さなきゃいけないのは誰のせいなんでしょうね」

「お、ようやく顔上げたな」

「こっちの話聞いてくれません? 誰のせいかって言ってるんですけど」

「それは置いといて、立てるか?」

「立てますけど置いとかないでください」


 まずはこの人から話を聞き出せる状況を作らなければいけない。今のままだと、会話はできてもこちらに必要なことを全て聞くまでどれだけの時間が掛かるか分かったものじゃない。

 とりあえずは話をそらされないようにして、あとは……お願いするか。


「やれやれ、あまりしつこいと女にもてないぞ?」

「巨大なお世話ですよ。というか罪悪感はないんですか」

「そんなもんを気にしててこんな言葉が出てくると思うか?」

「ぐうの音も出ない正論をありがとうございます」


 悪いとは思っているらしい。この様子だと、どれだけその点をつつかれても鼻で笑いそうだが。

 まあ、そのおかげで自分がどれだけ危険な状態なのかがわかったから、特に責めるつもりはない。というよりか責めれる立場じゃない。

 しかし、好都合だ。お願いをするなら罪悪感を刺激するのが見え透いていると反感を持たれやすいからな。先に気にしないという言葉が聞けたならただのお願いとみなされるはずだ。

 ……そんなことを考えなくても、この人なら教えてくれそうだけどな。

 

「そういえば、ちょっと気になることがあったんですけど」

「水がどこから出て来たのか、とかか?」

「それもまあ、気にはなりますけど、あとでお願いします。それよりもこのステータスにあるHPって何なんですか? 半分減っても動けてたんですが」

「ん? ……ああ、HPは自分があとどれぐらいで死ぬかを数値にして表したものだな」


 なるほど、つまり命の総量か。しかし、そうすると俺はさっき半死半生になっていなければいけないはずだが。


「なるほど。……あれ? じゃあ、さっきの俺ってヤバかったんじゃ……」

「はっはっは、大丈夫だ。あと半分も・・・ある」

「それ半分しかないってことですよね!?」


 誤魔化されたと取っていいのか? そうすると何のためにという疑問が浮かぶな。

 まあいい。


「それはそれとして、やっぱり知らないことだらけですね、俺」

「そうだな。まさかHPのことまで忘れてるとは思わなかったが」

「サイラスさん、出来れば」

「知らないことを教えてほしいってか?」

「……まあ、はい」


 向こうから言い出すとは思わなかったな。好都合ではあるが、内心を見透かされたようでドキッとする。


「ま、助けた奴に知識不足で死なれても目覚めが悪い。いいだろ、教えてやるよ」

「ありがとうございます!」


 何故かにやにや笑ってるのが気になるが、さすがに命の危機に陥るような嘘はつかないだろう。恥ずかしい思いをする程度の事なら覚悟しているし、問題はない。


「じゃあ、まず何から聞く」


 ……あれ? 本当に大丈夫かこれ。なんかすっごい嫌な予感がするぞ? 具体的に言うと天気予報で晴れって言ってたから濡れたらいけない服で出かけたのに道の半分ぐらいまで来たところで空が曇って来た時ぐらい嫌な予感がする。

 これはつまりあれか。質問に気を付けないと台風が来る奴だな? 

 しかし、自慢じゃないが俺も言い逃れと言いくるめはそこそこに上手い。その俺に舌戦を挑もうとは……よろしい、ならば質問せんそうだ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ