【安息の夜明け亭】
ぎゃあああああ! 次話投稿出来てなかったああああ!?
い、いや、まだ三日目だからせー……いや、アウト?
とにかく、本当に申し訳ありませんでした!
HI! 皆さんお元気ですか? 陣君です。
私は今、ルイディアさんに紹介された宿、その名も【安息の夜明け亭】に来ております。
いやー、いいですねえこの外観。かかっている看板は開店中という簡素なものながらセンスが光るきれいな文字。暑さ対策なのか窓は小さく、しかし風は通るように一階部分は開け放たれています。戸は大柄な人でも通れるようにか大きいですし、不満に思う方は少ないことでしょう。
いえ、そーんな気遣いなんて無くても、この香りだけで満足するかもしれません。一体どのような料理かはわかりませんが、戸が開け放たれているおかげで先ほどからあたりに香ばしい、食欲を刺激する臭いが漂っております。
ああ、こんなにいい宿が、一泊たったの銀貨一枚! 銀貨一枚が千円ほどの価値があるので、かなりお得な価格ですねえ。いやー、本当に私は運がいい。こんな宿屋に泊まれるとは。
さあ、宿に困っているあなたはぜひ、この【安息の夜明け亭】へ!
『陣、さっきからぶつぶつ言ってどうしたの? 頭打った?』
『いや、思ってた以上に立派な宿だったもんで、つい』
驚いたな。深夜の通販ショッピングみたいなノリで宿屋の紹介するぐらいには驚いた。
いい宿だとは聞いてたが、外見もしっかりいい宿だとは思わなかった。てっきり、“ぼろいけど定員の態度は”いい宿なんだと。
『……外見、関係あるのか?』
『そりゃあな。見た目が綺麗なら泊まりたいと思うし、逆に怪しいやつがたむろってるなら近寄りたくないと思う。外見の印象てのは大事だぞ?』
『……怪しいやつ』
おい、何でそこで俺を見る。
「お客さんですか?」
「え?」
失礼な狼に一言言ってやろうとしたところで、後ろから声をかけられた。
振り向くと、立っていたのは両手に重そうな荷物を抱えている少女。少し黄ばんでいるエプロンをかけ、頭には三角巾をかぶっている。肩までかかる亜麻色の髪は、邪魔なのか後ろでひとくくりにまとめられていた。
さっきの台詞からすると、この人は。
「この宿の従業員さん?」
「はい。両親が経営しているんです」
少女は笑顔で頷く。また、営業スマイルという言葉が頭の中に浮かんできた。
それを振り払い、もう一度「お客さんですか?」と聞いてくる少女にこたえる。
「ええ、そうなんです。ただ、立派な宿だったので、少し気後れしてしまって」
「いえいえ、遠慮なんてしないでください! お母さん、お客さんだよ!」
少女は俺の返答を聞くや否や、重そうな荷物をものともせず小走りで宿に入っていった。
元気だな、と十五歳が抱くにしては老けていることをぼんやりと考えていると、受付と思われる場所から四十を越えているぐらいの女性が顔を出す。
「お客さん、そんなとこでぼんやりしてないで入ってきな!」
「あ、いいんですか? 魔物を連れてるんですけど」
俺は首を傾げ、ノーディを指さしながら言う。だが、
「そんなもん気にしなくていいよ。魔物より厄介なやつらが、ここにゃいっぱい泊まってんだから!」
おばちゃんは俺の言葉を鼻で笑い飛ばして手招きしてくる。いや、たくましすぎるだろ。仮にも魔物をそんなもんって。
「え、魔物なんかいたの?」
「気づいてなかったんかい!」
『どーどー、落ち着いて』
すっとぼけたことをのたまう少女に、思わず声に出して突っ込んでしまった。鈍感ってレベルじゃないぞ! 明らかに横にいたじゃん! 荷物もってても見えるじゃん!
「ほらね、こんなもんだよ」
「らしいですね……。んじゃ、お邪魔します」
何故か胸を張るおばちゃんに苦笑しつつ、宿に足を踏み入れる。
俺の緊張が台無しだよ。いや、いいんだけどさ、なんか釈然としない。
「で? 何泊するんだい。一泊銀貨一枚で、一週間なら少しだけ安くなる。ちなみに、ご飯は朝だけは無料だよ」
「あ、馬小屋ってどれぐらいで貸してもらえるんですか?」
「馬小屋は一匹銅貨五十枚だね。ご飯も含めて世話はこっちでやるけど、その代わり割引なんかは無しだ」
「じゃあ、馬小屋を一週間でお願いします。……あ、何匹か一緒でも大丈夫ですか?」
「別にいいけど、ご飯は一匹分しか出ないよ」
「問題ないです」
「そうかい、それじゃあんたは一人部屋でいいね?」
「え?」
「ん?」
何を言って……あ、そうか。そういえば、ちゃんと言ってなかったな。
「なんだ、他に連れでもいるのかい?」
「いや、すいません。伝え忘れてました。俺はノーディたちと一緒に泊まります」
「……は?」
さすがにそういう反応はされるか。魔物に驚かなかったのに、人が馬小屋に泊まることに驚くのはちょっと納得がいかないような気もするが。
「ちょっと待ちな。あんたも馬小屋に泊まんのかい」
「そうですね。お金は無駄にしたくないし、さりとて金を惜しんで安宿を借りて安全を投げ捨てたくもないので、こういう案に落ち着きました」
「落ち着きましたって……」
俺の名案に、おばちゃんは呆れたような顔で額に手を当てている。なぜだ。
安い宿は防犯的に怖いし、何よりそういう宿自体が『歓楽街』に多くあるんだから、俺なんかが泊まったらその日のうちに身ぐるみはがされるんだぞ。
それに比べて、この宿は『商業街』にあり、ルイディアさんが太鼓判を押すぐらいには良心的で、実際におばちゃんもその娘さんも魔物が目の前にいようとものともしない胆力を持っている。どっちを取るかと言われたら、俺はまず間違いなく【安息の夜明け亭】を取るね。
「あ、人間が泊まるのは駄目ですか?」
「いや、そういうわけじゃないけどね。そもそも、そんなことを言い出す奴自体が初めてだけど」
「そうなんですか。不思議ですね」
「冒険者にしろ出稼ぎにしろ、馬小屋に泊まるぐらいならあんたの言う危険な安宿に泊まった方がいいってやつが多いのさ。出稼ぎはともかく、冒険者はプライドの高いのが多いからね」
「見栄えを気にしたら貯金なんてできないんですがねえ」
「その年でそこまで割り切ってる奴の方が珍しいと思うけどね」
「ですか?」
この程度ならやっている人は多そうだと思ってたのに。いや、宿の方から断られることもあるか。
「というか、幾らここら辺の治安が良くても物取りが出ることだってあるよ? 鍵もかけられない馬小屋だったら、それこそ身ぐるみはがされるんじゃないのかい」
「ああ、そこは大丈夫です。人が近づいたらノーディもリンも気づきますから。宿の主人がグルになるのが怖いんですよ」
生来の弱者であるノーディは自分以外の気配に非常に鋭い。特に悪意を持っている人間なら、眠っている上に十数メートル離れていてもわかるらしい。さすが狼。
リンは……よくわからん。本人曰く『スライムの勘』だそうだ。スライムってそんな万能だったっけ。
「……まあ、わかってるならいいさ。馬小屋は一頭分でいいのかい?」
「はい、三人でもそこまで狭くないでしょうし」
「わかったよ。ああ、あとついでだ。ご飯も朝は食べに来な。馬小屋だろうと、泊まってることには変わりないからね」
「おお! ありがとうございます!」
「いいよ、礼なんて……頑張んな」
「はい」
いやあ、本当に親切なところだ。ルイディアさんと、おばちゃんに感謝だな。って、ずっとおばちゃんっていうのも失礼か?
「すみません。おばちゃんはなんて名前なんですか?」
「なんだ、ナンパかい? あと二十は若くて、旦那と出会ってなかったら考えてたところだね」
「お熱いことで。でも違いますよ。ただ親切にしてもらった方の名前を聞いておきたいだけです」
「なんだ、つまらないね。まあいいか。あたしはグリッサだよ。ちなみに娘はフィオっていうんだ。あんたは?」
「俺は陣ですグリッサさん、ありがとうございました」
「一々頭なんて下げなくていいよ」
馬鹿丁寧にお辞儀をした俺に、宿のおばちゃんことグリッサさんは呆れたように苦笑していた。
「お金は払ってもらうんだから、そこまで気にしなくてもいいと思いますよ」
そこに、ついさっき聞いた声が横から聞こえてきた。たしかフィオさんだったか。
さっきまで抱えていた重そうな荷物はもうおいてきたらしく、プラプラと手を振っている。
「ちょうどいいね。フィオ、あんたこの子を馬小屋まで案内してきな」
「案内って言ってもすぐ裏じゃんか」
「いいから行ってきな。ついでに使うときの注意もね」
「はーい。人使い荒いなあ」
新しい仕事を押し付けるグリッサさんに唇を尖らせるフィオさんだが、俺に振り返ったときには、もう笑顔に戻っていた。さすが客商売。
「よろしくお願いしますフィオさん」
「さん、なんてつけなくて大丈夫ですよ。呼び捨てで構いませんから」
「じゃ、よろしくフィオ」
「……順応速いなあ」
これぐらいじゃないと騎士団の人たちについていけないんで。
ほんの少し雑談をしながら馬小屋に案内してもらった俺たちは、その日の疲れからか、日が傾いたころには全員、意識を夢の中へと旅立たせていった。




